WPPが次の変革を進めるためにマッキンゼーを選んだと発表したとき、業界の反応は予想通りだった。社内で広がったのは驚きであり、社外では「冷笑」だった。
「世界最大級のマーケティンググループが、自らのマーケティングにコンサルタントが必要なのか」と。
皮肉としては面白いが、この言は本質を見誤っている。WPPの判断は「窮余の策」ではなく、「自己認識」の表れと私は捉える。脆さを弱点とみなす業界で、同社にとってこの10年で最も大胆な一手かもしれない。
WPPは10年以上にわたり再構築を続けてきた。統合を掲げ、再編とリブランディングを並行して繰り返し、最適化された買収モデルを刷新しようとしてきた。しかし、市場環境の変化とスピードには追いつけなかった。クライアントの動向は以前より速くなり、利益率は薄まり、差別化が難しくなった。いわゆる「変革疲れ」が明らかに進んでいたのだ。だからこそ、内部だけでは限界があると認めたのは賢明で、むしろ成熟の証と言えよう。
マッキンゼーの起用は明確な意図のある決断だ。同社はストーリーテリングや広告業界の華やかさとは無縁で、扱うのはシステムやプロセス、フレームワークといった「組織の背骨」そのもの。今のWPPに必要なのはクリエイティブではなく、企業運営の再設計に違いない。
この判断は、投資家には「本気でオペレーションを改善する意思」、クライアントには「効率と統合は競争力」というメッセージになる。そして社員には、内部的な楽観論ではなく、外部の検証を受け入れる覚悟を示す。
つまりWPPは、巧妙かつ明確な手段で「迷走する企業」から「再構築に踏み出す企業」へとストーリーを塗り替えたのだ。
マッキンゼーがもたらす効能
今年CEOに就任したシンディ・ローズ氏は歴代のリーダー同様、縮小するマージンや株主の圧力といった構造的課題に直面している。加えて、コンサルティング会社やプライベートエクイティファンドに支えられたエージェンシー、独立系ネットワークとの競争も激化している。
マッキンゼーを選んだことで、ローズCEOは最も必要としていた「時間」を買ったのだ。
診断・提言・改革というマッキンゼーが行うプロセスは、投資家には積極的なアクション、社員には確固たるプラン、クライアントには変化への姿勢として映る。それが市場心理を安定させる。
私が最も評価するのは、この選択を隠さなかった点にある。多くの企業なら、「オペレーショナル・リアラインメント」といった社内用語で包み隠すだろう。しかし、WPPは公にした。これは自信の表明であり、課題を隠さないという姿勢につながる。
知覚価値がすべてである広告業界で、この透明性はむしろプラスに働く。
当然ながら、これはまだスタート地点であり、鍵を握るのは実行だ。今後の動きは誰もが予想できる。構造の簡素化、各支社の権限の強化、データとテクノロジー基盤の整備、そして成長と連動したインセンティブの設計……。問題は、WPPがこれらの要素を実現できるかどうかにある。
それが達成されれば、今回の決断は「外注」ではなく、「方向性の再確立」として記憶されることだろう。
業界への教訓
今回の決断は一企業の話ではない。業界全体が抱える課題を映し出す。
今、すべての持株会社がレガシーとイノベーションの狭間で揺れている。そしてどのネットワークも、クライアントのサービスへの判断やクリエイティブの捉え方と整合しない構造に苦しんでいる。
そんなとき、WPPが公に外部の力の必要性を認めたことは大きな意味がある。つまり、長年誰もが避けてきた真実を業界全体に突きつけたのだ。古いモデルが機能不全に陥ったとき、問題はアイデア不足ではなく、構造にあると。
アイヴァン・フェルナンデス氏はヴェネロ・キャピタル・アドバイザーズ(Venero Capital Advisors)で、メディア・マーケティング及びマーテック部門のアドバイザーを務める。

