Éric Blais
2025年11月19日

ゾーラン・マムダニ氏の選挙キャンペーン、デザインの力を証明

どの政党も同じようなイメージを持たれるようになると、デザインは差別化のための数少ない手段となる。

ゾーラン・マムダニ氏の選挙キャンペーン、デザインの力を証明

多くの政治キャンペーンにおいて、デザインはチェックリストの最後に位置付けられる項目だ。色を選び、スローガンを載せ、あとは無数に並ぶ看板の中で誰かが気づいてくれることを祈るだけ。「有権者の多くは、キャンペーンの見た目ではなく、そこに書かれていることにしか関心がない」というのが一般的な見方だ。

しかし、デザインが選挙運動の単なる飾りではなく、キャンペーンそのものを動かすとしたらどうだろうか?

それを実践して勝利したのが、ニューヨーク市長選に立候補した民主社会主義者で元ニューヨーク州議会議員のゾーラン・マムダニ氏だ。

彼のボランティアはただ戸別訪問をしていたわけではない。メトロカード(ニューヨークの公共交通機関の乗車券)を模したゼトロカード(Zetro Card)が一人ひとりに配られ、戸別訪問をするたびにスタンプが押される。スタンプが集まると、限定版のポスターやTシャツがもらえるという仕組みだ。

キャンペーングッズは人気が高く、ソーシャル・カレンシーとなった。デザインが単なるブランディングではなく、政治キャンペーンの原動力となったのだ。

カナダにおける政治のブランディングは、退屈な色使い(赤、青、オレンジ、緑など)の単調で無難な、忘れられやすいものが多い。定番のセリフ体のフォントや、カナダの象徴であるカエデの葉が多用され、変化や前進を謳ったありきたりのスローガンが掲げられている。

皮肉なことに、多くのキャンペーンは変化を謳いながら、ビジュアルはちっとも変わらない。

そしてメディアが乱立して二極化が進む状況において、画一性は致命的だ。どの政党も同じようなイメージを持たれるようになると、デザインは街頭で注目を集め、キャンペーンを推進する(特に若い)人々の心をつかむ数少ない手段となる。

マムダニ陣営は、そもそも選挙キャンペーンらしくなかった。色使いだけを見ても、タクシーの黄色にメトロカードの青色と、ニューヨークらしさを存分に表現したパレットで際立っていた。フィラデルフィアを拠点とするクリエイターのチーム「フォージ(Forge)」が手掛けたこのキャンペーンは、マディソン街ではなく、街の歩道から着想を得ている。効果はすぐに現れた。リアルで地域に根差した、いきいきとした印象を与えたのだ。

デザイナーのアニーシュ・ブーパシー氏は「人間味を与えたかった」と語っており、そのミッションは達成された。キャンペーンは、人々に承認してもらうためのものではなく、既にニューヨーカーの一部であるかのように見えた。

その主役だったのがポスターだ。デザインを手掛けたのは、バーニー・サンダースのデザインチームでの経験を持つタイラー・エヴァンズ氏で、メッセージは「Zohran」という一語に絞り込んだ。大胆でミニマルで、一目で分かる。半ブロック先からでも視認でき、非常に欲しくなるデザインだ。

このデザインは見た目が異彩を放っていただけでなく、帰属意識を強く訴求した。政治を、日常生活の中の口語で表現したのだ。日常生活を送る一般の人々にとってのアフォーダビリティー(手の届く価格)をテーマに掲げる候補者にとって、非常に良い手法といえる。

そして、そうすることで「デザインがコミュニティーを作る」というブランドが長年認識してきたことを、政治に応用したのだ。スニーカーのコレクターが最新モデルを求めて列を作るように、マムダニ氏の支持者たちはポスターやTシャツを求めて集まった。これらは単なるノベルティではなく、信念の証だった。

政治戦略家には、ゼトロカードは単なる仕掛けのように見えたかもしれない。だが、これは戦略だったのだ。

一つのスタンプが、一つの新たな戸別訪問、新たな対話、新たな参加行動を意味していた。ボランティアは管理されていたのではなく、やる気に満ちていた。デザインはキャンペーンを、触れられるもの、遊び心のあるもの、そして中毒性のあるものに変えた。多くのキャンペーンが見落としているのは、この点だ。デザインの本当の力は動員力にあるということを認識していないのだ。地上戦はロジスティクスであると同時に、感情にも左右される。優れたデザインは「何を信じるべきか」を指示するのではなく、このチームの一員であることに誇りを抱かせる。

カナダの選挙のデザインは長らくリスク回避的で、前述した看板のように「遠くから視認できること」程度の野心にとどまることがほとんどだ。

マムダニ氏のキャンペーンは、人々を説得するだけでなく、魅了した。優れたデザインはアイデアを売り込み、人々に行動を起こさせる力があることを思い出させてくれた。

次のカナダ連邦議会選挙で地上戦を指揮する人々が、デザインの力を認識し、ポスターやカードを制作するデザイナーにより斬新な発想を求めるようになることを願う。


エリック・ブレ氏は、ブランド構築を支援するケベック州のコンサルティング会社「ヘッドスペース・マーケティング(Headspace Marketing)」の 社長。

 

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