オムニコムとインターパブリックの統合が正式に行われた。もしもあなたがどちらかのグループのクライアントであるならば、これまでお付き合いしてきたエージェンシーは組織再編の真っ只中で、チームの査定、役職の削減、オフィスの統合が行われている。そしてスプレッドシートのどこかで、貴社のアカウントに関する決定が、知らぬ間に下されているのだ。
ほとんどの クライアントは、安心できる状況になるまで静観するだろう。だが、それは間違いだ。
今こそ、自分たちが費用を支払っている人材やケイパビリティ(能力)に対して実際に何が起きているのか、直接質問して明確にすべき時だ。質問しないのであれば、推測に頼ることになる。そして統合後の環境では、推測は高い代償を伴うものだ。
自分たちのアカウントに関する質問
「今後どのエージェンシーが、私たちの事業を担当するのか? そして、それはいつ最終決定されるのか?」
重複するネットワーク(OMDとUM、TBWAとマッキャンなど)とのお付き合いがある場合は、どちらかが吸収されるか、停止となる可能性が高い。どのネットワークとの事業がいつ停止になるか、把握しておく必要がある。「詳細はまだ調整中」というのは、受け入れられる回答ではない。
「主担当者は誰で、その人は残るのか?」
アカウントを現在管理してくれている担当者は、次の四半期にはいなくなっている可能性がある。担当者が異動、解雇、あるいは転籍するような場合、メールへの返信が途絶えるのを待つのではなく、今すぐに把握すべきだ。
「統合後のグループ内で、他のクライアントと『競合』していると見なされているか?」
統合したばかりの組織は、競合他社(複数社の場合も)の業務を担っている場合がある。クライアントの利害衝突の管理が問題になる場合は、専任ユニット(高額かつ遅い)に隔離されるか、競合他社のチームと同じ建物内で隣り合わせになるかのどちらかになる。いずれにせよ、それを管理するのは彼らでない。あなたが管理すべき課題である。
サービスの継続性に関する質問
「私たちの専任チームの状況は? 何人が残り、何人が異動や削減の対象となるのか?」
統合とは、業務の統合や整理を意味する。つまり、貴社を担当するチームは、重複していないか査定されることとなる。彼らの半数が半年以内にいなくなると、サービスの質は低下する。何人残るのか、それは誰なのかを知り、タイムライン(事前の行動計画)を把握する必要がある。
「統合の期間中、日常業務への支障は?」
統合はひっそりと行われるものではない。統合の期間中の業務の安定性をエージェンシーが保証できない場合は、どのようなコンティンジェンシープラン(緊急時の対応計画)があるのか把握しておく必要がある。
「私たちに影響が及びそうな変更のタイムラインは?」
「シームレスに移行する」というのはタイムラインではない。チームの変更やオフィスの統合、新しい組織体制がいつ導入されるのか、具体的な日時を知る必要がある。もし明確な回答が得られないのであれば、それは彼らに計画が無いということだ。
ケイパビリティに関する質問
「エージェンシーに依頼したケイパビリティは維持されるのか、それとも統合されるのか?」
制作のケイパビリティや、データチーム、戦略的な専門性といった理由でエージェンシーを採用したのであれば、統合後もそれが存続するのか、あるいは共通のプールへと統合されてしまってアクセスが保証されなくなるのか、把握しておくべきだ。
「どのオフィスや市場が統合sあるいは閉鎖されるのか、そしてそれがどのような影響を及ぼすのか?」
ロンドン、ニューヨークなどコストの高い市場では、多くの重複を抱えている。もし貴社の市場カバレッジ戦略がそれらのオフィスに依存しているのであれば、統合によってサービスモデルは変化する。どのように変わるか、把握する必要がある。
「チームが変更される場合、引継ぎはどのように行われるか?」
貴社のブランドや歴史、戦略的な方向性を理解している人が去る場合、知識や経験はどのように引き継がれるのか? 引継ぎの文書は、組織に蓄積された記憶に代わるものではない。回答が曖昧な場合は、新しいチームでゼロから始めることになるだろう。
戦略に関する質問
「意思決定において、サービスの品質よりもコスト削減の方が優先されているのか?」
今回の統合は、 7.5億米ドルのコスト削減を見込んで推進された。その削減は、どこかから捻出されることとなる。貴社アカウントの構造や、チームの規模、市場カバレッジに関する意思決定が、コスト削減によって突き動かされているのであれば、昨年支払っていたのと同等のサービスは受けられないだろう。
「『統合チーム』への移行が、レスポンスタイムやサポート体制にはどのような影響があるか?」
統合とは「貴社の専任チームが、より大規模な組織に吸収される」ということに他ならない。つまり、一人が担当するクライアント数が増え、レスポンスタイムは長くなり、戦略は手薄になる。このような状況下では、新しいサービスモデルが(理論上でなく実際に)どのように機能するか、知っておく必要がある。
「統合が順調に進まなかった場合の対応策は?」
統合が失敗に終わり、人財が予想よりも早く離脱し、クライアントの優先順位が下げられる――。計画通りに進まなかった場合の、フォロー体制はどうなっているだろうか? 「そんな事態にはならない」という回答であれば、相手は事態を深く考えていない。
率直な質問
「競合他社が同じグループ内で扱われるようになったことは、懸念すべきか?」
懸念すべきだ。専任ユニットがあったとしても、エージェンシーのポートフォリオには貴社アカウントも競合他社も含まれることになる。すると、以前は無かったような利害衝突が生じる。どのように対処するのか、それは納得のいく回答か、確認しておくべきだ。
「私が今話している相手は、6カ月後も在籍している担当者なのか?」
継続性について安心材料を提供してくれるはずの人たち自身が、自らの役割に確信が持てない状態では、全体像を把握できない。誰が残り、誰が査定されているのか、そして既に退職を検討しているのは誰なのか、知っておく必要がある。
「エージェンシーとのパートナーシップを見直す適切なタイミングなのか?」
おそらくそうだろう。エージェンシーが統合に気をとられ、チームが変わり、ケイパビリティが統合され、サービス品質がリスクに晒されているのであれば、あなたは対価に見合うものを得られていないことになる。見直しは不誠実ではない。調達の問題なのだ。
クライアントが実際に行うべきこと
エージェンシー側から自発的に情報が提供されることは無いのだから、ただ待っていてはならない。彼らは自分たちを取り巻く混乱に手一杯だ。
上記のような質問を直接投げかけよう。回答の期限を記した、文書で尋ねるのがよい。
回答が曖昧で煮え切らなかったり、保身的だったりする場合、それは彼らが状況をどの程度掌握できているのかという問いへの答えだ。
そして、回答に納得がいかないのであれば、別の質問を投げかけるべきだ。なぜまだその会社にいるのか、と。
独立系エージェンシーという選択肢
OMGとIPGは今後18カ月間、人員削減やオフィス閉鎖、システム移行に追われるが、一方で独立系エージェンシーは業務に集中することができる。クライアントとしては、エージェンシーの統合や組織再編による混乱に振り回されることなく、継続性や手厚いサポート、スピード、情報開示などを期待できる。
なぜならば、貴社が契約した人材は、そのまま残る人材だからだ。親会社の再編によって、あなたのチームが別ユニットに組み込まれたり、四半期ごとのコスト削減目標を達成するために人員が削減されるといったことが無いからだ。
まず、手厚いサポートが受けられる。貴社が、エージェンシーのグローバルポートフォリオ5,000社の中の1社として扱われることはない。貴社のビジネスに力を注ぐだけの時間と権限を持つチームと、一緒に働くことができるのだ。
スピードも期待できる。意思決定において、親会社からの承認に時間がかかるといったこともない。決定権を持つチームと直接やりとりできる。
そして情報開示についても、問題発生時には、それを解決できる人材と直接話すことができる。誰が誰の直属となるのか、統合を取り仕切るリーダーシップ層からの指示を待っている状態の人物と、ではない。
したがって、もし貴社が契約するエージェンシーが上記のような質問に明確な回答を出せないようであれば、他の選択肢を検討する余地はある。そして、持株会社が組織再編に気をとられている今こそ、検討すべき絶好の機会なのだ。
ケビン・フリードマン氏は、大手国際ブランドの複数市場でのキャンペーンを管理し、ローカライズを手掛けるグローバルエージェンシー「フリードマン・インターナショナル(Freedman International)」の創設者兼CEO。
