Robert Jeffery
12 時間前

「3万人超の規模でもスタートアップのような存在」 楽天の河野奈保CMOが語る、人間を中心に据えたマーケティング

クリエイティブ業務にかかる時間をAIによって81%削減した事例から、70以上の事業におけるロイヤルティ構築まで、楽天が俊敏性やパーソナル性、そして常に人間を中心に据えた視点でマーケティングを革新し続ける方法について、CMOの河野奈保氏が語る。

写真:河野奈保氏
写真:河野奈保氏
このシリーズでは、アジア太平洋地域のブランドがマーケティング機能をどのように内製化しているのか、そしてそれがエージェンシーとの協業と比較してクリエイティブプロセスや人材育成、ビジネス成果にどのような変化をもたらしているかを探ります。

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

「当社のマーケティングの強みはユーザーです」――ほとんどのCMOが自社の事業についてこのように語るが、楽天の河野奈保氏ほどこの言葉に忠実なリーダーはそう多くない。日本のeコマース大手である楽天は1997年の創業以来、ドットコム・バブルの波に乗り、膨大な顧客基盤によって強固なロイヤルティを獲得。豊富なデータを有し、世界で最も効率的かつ効果的な統合マーケティングモデルの一つを運用するコングロマリットへと成長した。

同社はメッセージングアプリ「Viber」、動画配信サービス「楽天TV」、電子書籍ストア「楽天Kobo」、そして創業時から運営するオンラインマーケットプレイス「楽天市場」など、現在70以上の事業部門を展開している。これによって多様な収入源を確保し、大規模なデータへのアクセスも可能となった。楽天グループは世界中で20億以上のタッチポイント(顧客接点)を有し、その約半数はViberのユーザー登録によるものだ。

同社は国内市場で圧倒的な存在感を発揮し、米国や欧州へも徐々に進出している。その成功を支えるのは創業当時からパートナーシップを重視するエコシステム(経済圏)で、アフィリエイトマーケティングの代表的な存在でもある。楽天市場だけでも57,000以上の店舗が、出店やキャンペーンのパートナーとしてマーケットプレイスを利用している。

アフィリエイトに向けてサービスやアップセル施策を提供する楽天アドバタイジングは、顧客ライフサイクル全体を通じてパートナーを効果的に囲い込む。アマゾンが日本市場を独占するのを阻み、無数の企業が楽天を模倣してきた。

20年のキャリアを持つCMOの河野氏にとって、この巨大なエコシステムを統括してスケールメリットを最大限に活かすには、内製化を中心とした集中型モデルが不可欠だ。ブランド、製品、パフォーマンスマーケティング、クリエイティブ、オペレーションは全て、二子玉川(世田谷区)の本社にて行われる。広告会社が広告主企業のマーケティングの一部として組み込まれている日本では異例のことだ。

外部の広告会社が必要になるのは、イベントや特定の有名人と提携する場合のみ。鍵となるのは内製化です。外部の広告会社を使うと、マーケティングが画一化してしまいます。

データ、ロイヤルティ、そしておもてなしの効果

楽天にとっての課題は、膨大なデータを活用して重要な意思決定を行うことだ。人口1億2000万人の日本国内だけで1億人の会員を抱える同社の浸透率は驚異的で、顧客行動について知らないことはほとんどない。

「最も重要なのは、エコシステムが顧客育成にどのように貢献するかです」と河野氏。「ユーザー行動をモニタリングし、顧客生涯価値(LTV)は劇的に向上しました。例えばユーザーが楽天モバイルでショッピングを始めると、トランザクションも増加します。利用すればするほどロイヤルティが高まり、顧客生涯価値も高まります。この傾向は以前も見られましたが、それを証明することはできませんでした。今ではデータを統合し、それが可能になったのです」。

ここで重要な指標となるのが、クロスユース率だ。これは過去12カ月間に2つ以上のサービスを利用した楽天会員の割合を表す数値で、社内で非常に重要視される。最近は77.5%と過去最高を記録し、ユーザーは年間で平均3.7種類のサービスを利用している。

こうした膨大なデータを、企業理念の根底に流れる「おもてなし」の心に沿う形で、細部への配慮やサービスの質にこだわって管理することが、河野氏の役割だ。それは例えば、楽天というブランドを厳重に守ることを意味する。

それぞれの事業には独自の文化がありますが、ユーザーの視点で「これが楽天だ」と認識される必要があります。品質やブランド体験は標準を上回るべき、それが私たちの文化の根幹です。

河野氏は、親会社との密接な関係を維持しながらブランドを「柔軟に変化させた」企業として、クラウドや通信プラットフォームを提供する楽天シンフォニーを例に挙げる。同様に、AIの統合にも「おもてなし」の心が込められているという。

大規模なAIと、その中核にある人間

社内のマーケティングチームによるブランドデザイン

楽天はAIを全面的に活用しており、平均すると従業員の約40%にあたる13,000人が毎日利用し、マーケティング部門ではさらに利用率が上昇する。しかし同社はAIの導入には慎重で、手抜きとしてではなく付加価値を生み出せる分野に重点を置く。例えばランディングページやワイヤーフレームの制作、コーディング、実装までを、AIを活用したワークフローで行うことで、特定のクリエイティブ業務にかかる時間が81%削減され、その時間を他の業務に再投資できるようになった。これは、AIを駆使してマーケティング効率、オペレーション効率、クライアント効率をそれぞれ20%向上させる「トリプル20」という目標とも合致する。

AIの効果は、アフィリエイトサービスに参加するパートナーとの連携において、最も顕著だ。同社によると、検索ツールにAIを統合して以来、パートナーのクリック率は年間13.7%増え、同期間の検索リクエストあたりの広告収益は5.9%増加したという。最近リリースされた製品には、顧客のコンバージョン経路をより詳細に可視化するAPIや、アフィリエイトとインフルエンサーの緊密な連携を促進するストアフロント・プログラムなどがある。

こうした変化が、マーケティングにおいて必要なスキルミックスに変化をもたらすことは疑いようがないが、その変化はゆるやかなものになると河野氏は予想する。「これまではプランニングやリサーチに関するスキルが必要でしたが、将来的にはそうした業務の90%はAIに取って代わられるかもしれません。しかし、残りの10%の部分が必要なのです。過去のマーケティングは知識が全てでしたが、今後は規制概念にとらわれないアイデアや、人間の行動へのより深い理解が求められます」。

「重要なのは、私たちのプラットフォームと人間をどのように結びつけるかです」と語るのは、ブランド強化を担当するシニアマネジャーの龔旭东氏だ。「結局のところ、サービスを提供する相手は人間ですが、AIには人間の心理と真に同調するという点で課題があります。まさにそこに焦点を当てているのです」。

今後数年間は、楽天にとって厳しい状況が続くだろう。収益は依然として堅調だが、河野氏が常務執行役員を兼任するモバイル部門は、多額の投資が収益性を継続的に圧迫している。国内シェアの3分の1を占める楽天だが、中国のeコマース大手であるシーイン(Shein)やテム(Temu)が、ライバルであるイオンやファーストリテイリングのシェアを奪いつつある。

しかし、楽観視できる理由も数多くある。最近行ったインドへの投資は、新興市場への大きな進出だ。楽天のフィンテック製品は、引き続き高い利益率を生み出している。何よりも、安定性を重んじる企業文化においては、AIがもたらす変化や市場の混乱を懸念する必要はなさそうだ。楽天は自らを革新し続けるのだと、河野氏は語る。「従業員数は3万人を超えていますが、私たちは依然として起業家精神にあふれたスタートアップ企業のような存在です」。

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