「ストレーツ・タイムズ紙に載せてくれませんか?」
この質問を、少なくとも週に一度は耳にする。もちろん、掲載自体は実現可能だ。しかし、会話がそこで終わってしまうのであれば、より大きな戦略的視点を見失っていることになる。
PR(パブリック・リレーションズ)を単にメディア・リレーションと捉えるのは、スマートフォンは電話をかけるためだけのものと言うのに似ている。厳密に言えば正確ではあるが、実態とはかけ離れており、本質を完全に見失っている。
本当の問題は、見出しを獲得できるかではない。その獲得した見出しが、貴社のビジネスにとって本当に重要な人々に届いているか、彼らの認識を変えられるか、戦略目標を前進させる測定可能な成果に貢献しているかどうかだ。
リーチと関連性の優先順位
権威ある全国紙に掲載されれば、社内的に見栄えはするだろう。しかし私はこれまで、ビジネスメディアを全く読まない200人のCIOがターゲットオーディエンスだという、BtoBのテック企業と関わったことがある。また、病院で購買の決定権を持つ管理職が業界誌や同業者のネットワークに全面的に依存しているにもかかわらず、主要メディアへの掲載を追求するヘルスケアスタートアップも目にしてきた。
オーディエンスは誰であるかが、すべてを変えてしまう。
個人投資家をターゲットとするフィンテック企業と、機関投資家をターゲットとするフィンテック企業では、必要なチャネルが根本的に異なる。政策立案者に影響を与えることが目的のサステナビリティ(持続可能性)の取り組みは、いくら読者層が広くとも消費者ライフスタイルメディアでは効果を発揮しない。
さまざまな業界と仕事をしてきた経験から言えるのは、最も効果的なメディア戦略は、誰にメッセージを届ける必要があるのか、そして彼らが実際にどこで情報を得ているのかについて、徹底的に正直に向き合うということ。それは、高度な専門性を持つ5,000人の読者に支持される、ニッチな業界誌であることもある。貴社が必要としている意思決定者にしっかりと届くのは、ポッドキャストかもしれない。従来型メディアではない場合すらある。
このオーディエンス・ファーストの考え方は、メディア・リレーションだけにとどまらない。社内コミュニケーションは、誰にも読まれない全社宛てのメールではなく、実際に従業員が関心を持つ方法で届ける必要がある。ステークホルダー・エンゲージメントは、自分たちにとって伝えやすい方法ではなく、投資家、パートナー、コミュニティーが実際にいる場所で行うべきだ。
「大手メディアでの掲載」から「適切なオーディエンスへのリーチ」へとシフトするには、求められる指標や戦略が異なる。そして、バニティ・メトリクス(虚栄の指標)とバリュー・メトリクス(価値の指標)をめぐる不快な議論が必要になることが多い。
認知度から信頼度へ
報道は、認知度につながる。戦略的なコミュニケーションは信頼を築くことができる。
私がこの違いを学んだのは、クライアントが危機的状況の中で自分たちの立場を説明し、大々的に報道されたときだった。主要メディアに記事が掲載され、レポート上でのインプレッションは良好に見えた。だが3か月後のステークホルダー調査では、信頼度はほとんど変化していないことが示されていた。なぜか?
一貫性の無い認知度は、単なるノイズに過ぎないからだ。
信頼度は、統合されたタッチポイントを通じて、時間をかけて築かれる。例として挙げるならば、奥の深さを示すソートリーダーシップ(革新的な考え方を提示して先駆者としての地位を確立すること)のコンテンツに裏付けされたメディアインタビューだ。他にも、従業員がリンクトインに投稿している内容と一致する外部向けのメッセージだったり、6カ月前に表明した価値観と合致するクライシス対応だったり、ESGレポートで実際に裏付けられたサステナビリティの主張であることもある。
コミュニケーション環境は、信頼構築の方法を根本的に変えた。オーディエンスは貴社について、一つの媒体のみを読んで意見を形成しているわけではない。メディアの報道、従業員が求人情報検索サイトに書き込んだ内容、経営陣のソーシャルメディアでの発信、批判への対応、そしてあなたが監視することのないフォーラムでの顧客の発言などによって、多角的に判断しているのだ。
この現実こそが、PRにおける統合が真の差別化要因となる理由だ。メディア・リレーション、社内コミュニケーション、ステークホルダー・エンゲージメントが別々に機能していると、伝わり方は断片化される。従業員は企業のニュースを、社内チャネルではなく、外部での報道を通じて知る。投資家は、顧客とは異なるメッセージを受け取る。クライシス対応が、通常のポジショニングと矛盾する。
真に信頼を構築した組織は、あらゆるコミュニケーション・チャネルを、相互に接続されたシステムの一部として扱っている。社外のナラティブと、社内の現実が一致し、メディアでのメッセージングとステークホルダー・コミュニケーションは互いに補強し合う。コンテンツ戦略と危機対応プロトコルが、同じ戦略的基盤の上で機能するのだ。
本当に重要なものを測定する
PRの測定の大半が破綻するのは、本質的な成果であるアウトカムでなく、施策の結果であるアウトプットを測定してしまうからだ。
報道記事のクリッピングやインプレッション数が示すのは、情報の露出状況であり、インパクトではない。投資家からの信頼度は向上したのか? 従業員からの信頼度は高まったのか? 顧客エンゲージメントは、戦略目標を推進する方向へと変化したのか?
私が過去に担当したクライアントの中には、50件ものメディア掲載を喜ぶ一方で、営業のパイプラインは横ばいだった企業があった。ターゲットを絞った5つの媒体で掲載され、特定の意思決定者層の間でブランド検討の度合いが目に見えて変化したクライアントもあった。
この違いは、コミュニケーション活動をビジネスの成果に結びつけるかどうかにかかっており、従来のメディアモニタリングとは異なる測定フレームワークが必要だ。例えば、特定のステークホルダー・グループの間での、感情変化を追跡すること。コミュニケーションのタイミングと、ビジネス指標を相関させること。PR活動が、本当に重要な行動や認識に影響を与えたかについて、率直に議論することなどだ。
クライシス・マネジメントにおいて、アウトカムとはメディアの露出量だけでなく、社会的評価のレジリエンス(回復力)と回復速度を測定することを意味する。社内コミュニケーションにおける成功とは、メールの開封率だけでなく、従業員の理解と連携の度合いだ。ステークホルダー・エンゲージメントにおけるインパクトとは、会合の開催頻度でなく、関係性の強さや信頼度の指数として表れる。
アウトカムに重点を置くこのアプローチは、リソースの配分方法を変える。ターゲットを絞ったステークホルダー・エンゲージメントへの投資を増やし、広範なメディアへのアウトリーチを減らすことになるかもしれない。社外向けのPRキャンペーンよりも、従業員向けのアドボカシー・プログラムを優先することになるかもしれない。あるいは、メディア露出にまったく寄与しなくとも、最も重要なときに評判を守るクライシス対策のインフラを構築することになるかもしれない。
戦略的な問いは「メディアに取り上げられたか?」ではない。「私たちのコミュニケーションは、事業目標の推進に測定可能な形で貢献したか?」である。
メディア・リレーションは重要な扉を開く。しかし、戦略的なPRは信頼を築き、適切なオーディエンスに届き、それらの機会を実際に企業価値に変えるアウトカムを生み出す。記事掲載は、物語の始まりに過ぎない。真に効果を生み出す取り組みこそが、物語がどこへ向かっていくのかを決めるのだ。
ハイケル・ファヒム氏は、PR&マーケティングエージェンシー「サード・ヘミスフェア(Third Hemisphere)」のシンガポール担当ディレクター。
