Benedict Pringle
2020年11月18日

バイデン氏を勝利に導いた、5本の選挙広告

歴代の米国大統領選候補者の中で最も広告費を使ったのがジョー・バイデン氏だ。

バイデン氏を勝利に導いた、5本の選挙広告

これまでの米国の選挙で、バイデン氏ほど広告予算を使った候補者はいない。今回のキャンペーンでは従来型メディアに6億4000万米ドル、フェイスブックに1億300万ドル、グーグルには8300万ドルを投じた。では、同氏の勝利に重要な役割を果たした5本の選挙広告を見てみよう。

基本を守る

これは民主党の大統領予備選にバイデン氏が立候補した際に流された、最初の選挙広告の一つだ。

どのような予備選であっても、勝者が最初に取り組むべき仕事は党内の亀裂を修復することにある。

この動画を特徴づけているのは、協調を促す言葉と若々しい語り口調。ターゲットにしているのは明らかに、バイデン氏最大の競争相手だったバニー・サンダース氏の支持層だ。

バイデン氏のキャンペーンがスタートした際、課題は77歳という高齢の候補者がどれだけ民主党支持者をまとめ、広げられるかにあった。その意味で、この手の広告は効果的に機能した。

もしバイデン氏が民主党をまとめられなかったら、大統領選は敗れていただろう。4年間のホワイトハウスでの経験を盾に巻き返しを図ったトランプ氏は、結果的に歴代共和党候補者の中で最多の得票数になったのだから。

ナラティブの一貫性

バイデン氏はキャンペーンの最初から最後まで、一貫してシンプルなナラティブに徹した。テーマは「品位を選ぶか、分断を選ぶか」。

結果として多くの米国民は彼を好感の持てる、信用できる人物とみなした。そして、「品位」を選んだ。このナラティブは賢明だった。

その一方、トランプ氏は世界中から敵対心を煽る人物とみなされた。米国民は、近年国内に広がった文化的軋轢・衝突を終息させたいと望んだのだ。

この広告は、そうしたナラティブを巧みにまとめ上げている。国民がそれぞれの候補者に抱いているイメージを感情面から刺激。バイデン氏は彼らの望みを実現すると明言した。

コロナ禍への対応力の欠如

新型コロナウイルスが米国を襲った際、トランプ氏の危機管理能力への評価が選挙の結果を大きく左右するであろうことは明白だった。

パンデミックは危機管理能力の究極のテストとなった。全国民の肉体的、精神的、そして経済的「健康」のほぼすべてが政府に委ねられるという事態に陥ったのだから。

パンデミックは世界中に広がった。バイデン氏はトランプ氏の能力の欠如を証明するため、有権者に事実を突きつけて米国と他国との比較を試みた。これも賢明な戦略だった。

雇用

トランプ氏がバイデン氏よりも大きな優位を保っていた重要な政治的テーマが、経済運営だった。

だがバイデン氏は、トランプ氏が空前の失業者を見過ごしてきたと非難することでその差を少しずつ詰めていった。

この広告はソーシャルメディアで流されたものだ。歴代政権の雇用拡大の推移を淡々と表す画像は印象的で、最後にトランプ氏の下で前例のない数の雇用が奪われた事実を明かす。

「犬」

選挙キャンペーンで「空中戦」を制するには、ソーシャルメディア上での膨大な数のシェアを有権者に期待しなければならない。

予測できない発言や行動で常に注目を集めるトランプ氏に対し、バイデン氏は彼に負けないリーチ数やエンゲージメントを獲得する必要があった。

そんな中、ソーシャルメディアで多くの人々にシェアされたコンテンツがこれだ。訴えたのは政治的テーマではなく、バイデン陣営がナラティブの鍵とした「優しさ」。

ホワイトハウスで犬を飼わなかった大統領は、トランプ氏が1世紀ぶりだった。バイデン氏は2頭の犬を飼っており、当選すればこれらの犬も当然ホワイトハウスの「住人」となる。

ホワイトハウスに「犬」と「品性」を取り戻そう −− このように訴える広告は他にもたくさん流された。

バイデン氏の犬が戦略的に重要な役割を果たした、と言えばばかげて聞こえるかもしれない。だが「バイデンの犬」「バイデンの経済政策」という二つのキーワードを比べて、どちらを米国人が多く検索したか想像してみるとよい。

次のステップは?

バイデン氏による5通りの広告戦略を紹介したが、これらはその一端に過ぎない。彼は極めて効果的に選挙広告を活用した。テーマは募金の呼びかけ、ボランティアの募集、トランプ氏からの攻撃への反論、郵便投票の奨励など、枚挙にいとまがない。

歴代の大統領選候補者で最も多くのチャネルを使い、広告を流し、予算を投じたのがバイデン氏だ。

トランプ大統領の任期は1期で終わるが、2024年の大統領選に再び立候補することは可能。バイデン氏は米国史上最高齢の大統領となり、多くの国民は彼が再選を目指すかどうかに注目している。

米国政治の未来は依然として興味深く、そして不確実性を伴う。一つだけ確かなのは、今後行われる選挙では結果を問わず、広告の果たす役割がますます重要になっていくということだ。

ベネディクト・プリングル氏はpoliticaladvertising.co.ukの設立者。

(文:ベネディクト・プリングル 翻訳・編集:水野龍哉)

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Campaign UK
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