
AIの勢いは止まるところを知らない。今の傾向が続けば、米4大テック企業(アルファベット、アマゾン、メタ、マイクロソフト)のAIへの累積投資額は、2026年までに5千億ドルに上ると見込まれる。米中両政府は、AIの優位性こそが超大国競争のカギになるとの見解を明確に示した。いまやAIは、あらゆる物事の中核を成している感がある。
AIの信奉者たちは、こうした「熱狂振り」を当然と捉える。産業革命が19世紀を変えたように、AIの変革力はあらゆる産業と社会に革命をもたらす −− 彼らはこう信じて疑わない。
だが、AIに関する議論や期待が、その真の「実力」よりも先走っているのではないかという懸念も払拭できない。より危惧すべきは、一般消費者の目線だ。彼らが何を望み、何を受け入れられるのか −− そうした視点が置き去りにされているのではないだろうか。多くの人はAIを認識しつつも、AIに熱狂する人ほど肯定的に捉えているわけではない。
一般の人々にとってAIとは、仕事を奪われるかもしれないという不安材料だ。企業はすでに人員や新卒採用の縮小を進めており、雇用への影響はすでに出始めている。
広告業界では、AIへの期待とその実力との乖離は特に顕著だ。業界はAIの受容に積極的で、すでにAIが作った広告やメディアプランが公に活用されている。コストの大半を人件費が占める業界では、業務自動化への誘惑は実に魅力的だ。
だが、この誘惑には抗わなくてはならない。
その理由の1つは、業界が自滅しかねないことだ。マーク・ザッカーバーグ氏は、「メタはクライアントの広告キャンペーンを最初から最後まで(広告制作から配信まで)、責任を持って担うことができる」と発言した。これは、業界への警告と受け取るべきだろう。どうやって最善のAI機能を活用し、広告を最も速く、安く制作できるか −− こうした競争になってしまえば、業界は破滅する。
さらに、より重要なのは消費者だ。人類は、人工物や偽物を自己保全への潜在的脅威とみなし、「警告」として認知するよう進化を果たしてきた。AIが作った広告で画面を埋め尽くしてしまえば、消費者はその製品が人工的な偽物と捉える可能性が高い。決して良い印象は与えないだろう。
加えて、AIはその設計上、往々にして平均的なものしか生み出さない。つまり、平均的には良いかもしれないが、平均的に悪いかもしれないのだ。いずれにせよ、真に優れた広告キャンペーンが生み出す成果を、AIが実現することはまず有り得ない。
より最悪の事態も想定できる。AIは広告が失敗しても全く気にかけない。だが、2年前にバドライトがトランスジェンダーのインフルエンサー、ディラン・マルバニー氏を起用したキャンペーンのように、不評を買う広告は数十億ドルという売上高を失う。もちろん人は失敗を犯すが、人員削減を伴うAIによる広告は、こうした事態を頻繁に起こす可能性が高い。
広告業界に身を置く者は、一般の消費者も自分たちと同じように考え、行動すると考えがちだ。英TVマーケティング団体Thinkboxの調査が示したように、メディア業界の幹部たちはTikTokなどのソーシャルメディアの利用率を過大評価し、テレビの視聴率を過小評価している。成功のカギはクリエイティビティーよりもAI −− 広告業界がこう考えるようになったら、消費者を失うだけでなく、業界そのものを破綻に導くだろう。
イアン・ウィテカー氏は英コンサルティング会社リバティ・スカイ・アドバイザーの創業者で、マネージングディレクター。財務面から広告業界を切るコラムを、Campaign誌に定期的に寄稿。