Ben Essen
2021年10月22日

ポストパンデミック、ブランドは消費者に忘れられつつある

英エージェンシーのアイリス(Iris)による最新の「パーティシペーション・ブランド・インデックス」は、消費者のブランド認知が危機的状況にあることを示している。

ポストパンデミック、ブランドは消費者に忘れられつつある

ニューノーマルにおいて、ブランドは忘れられつつある。

この結論は、アイリスが150のグローバルブランドと消費者の関係性について、その変化を調査した「パーティシペーション・ブランド・インデックス(PBI)」から導き出されたものだ。ビデオ・オン・デマンドが急速に普及し、繁華街や実店舗を訪れる機会が激減したことで、人々は「目に入らないものは、覚えていない」状態になっているようだ。PBIに掲載された8割のブランドについて、消費者は日常的に思い出すことはないという。

一方で、ブラック・ライブズ・マター(BLM)やフライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)、あるいはレディット(Reddit)のユーザーらが「r/WallStreetBets」というサブレディットを通じて株価に影響を及ぼした事件など、世界規模の社会運動が頻発している。これは人々が、文化的な力を手にしたことで、民主的手法でラディカルに意見を拡散していることを示している。人々は他人が発する意見や情報、影響力にますます反応するようになっているが、一方で、ブランドに対して「反応した」人はわずか18%であることがPBIの調査で明らかになった。

今回の調査を2018年のデータと比較すると、非常に重要な変化が認められる。3年間でブランドに対する無関心層は2倍に増加し、ブランドに「関心がある」と答えた人は44%も減少している。そして、関心の低下に伴い、口コミの影響力も低下しており、友人との会話で話題にしたいと思うブランドの数も38%減少している。人々はパンデミック後の生活を最優先するなかで、ブランドに関すること以外に、話すべきことを見つけたのだと思われる。

今回が第4版となるPBIは、米国、欧州、アジアにおけるB2BおよびB2Cの顧客を対象に、25種類の「近代的」マーケティング手法に対する反応をそれぞれ分析している。この調査の狙いは、マスメディアを介した「説得」という古いアプローチ手法から、「顧客参加型(パーティシペーション)」という新しい世界へ、マーケターをスムーズに移行させることだ。

調査で明らかになったのは、パーパスに基づくブランド基盤やインサイトをベースとした顧客体験、人々への影響力を活用したインフルエンサープログラムなどを通して、高いレベルで消費者に参加を促すことにより、ブランドはこの「無関心の蔓延」に対抗できるということだ。

こうした取り組みにおいて最も成功しているブランドは、高いレベルのレコメンデーションで消費者を刺激し、価格を高く設定することもできているため、大幅な増収を達成できている。株式市場での過去3年間の利益率を比較すると、PBIで上位のブランドは、下位のブランドの約2.5倍の利益率となっている。

では、この「顧客参加の時代」にチャンスを手にしたブランドから、マーケターは何を学べるだろうか?

パーパスこそが一流ブランドに優位性をもたらす

テスラ(冒頭の写真)は、PBIの首位を10年近く堅持していたアップルを引きずり下ろし、新たなリーダーになった。テスラはパーパスに関連する項目すべてで高評価を獲得した。消費者はテスラを「世界にポジティブな変化をもたらすことに貢献する」ブランドとみており、回答者の77%が、同社が「未来を形作っている」と感じている。

総じて、価値提案の前面にサステナビリティを置くブランドは、競合他社よりも上位にランクされる傾向にある。サステナブルファッションブランドのオールバーズ(Allbirds)は、ミレニアル世代からの評価で1位となり、オートリー(Oatly)は、米国の食品ブランドで(コカ・コーラを大きく引き離して)首位に立ち、イケアも大幅に順位を上げた。ここからは、消費者が積極的に未来へ導くブランドを評価する傾向が見てとれる。これらのブランドはいずれも、「新たな課題や考察を人々に紹介した」という項目で高く評価されている。

B2B顧客からの高い支持

パンデミックがビジネスの世界を大混乱に陥れるなか、デジタルファーストのB2Bブランド新世代は、参加の力を活用してビジネスのニューノーマルに浸透しつつある。トランスフォーメーションを支援するアライト(Alight)は、B2B調達担当者の80%に支持された。また、革新的なビッグデータ解析を手がけ、米国防総省との契約で物議を醸したパランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies)については、70%以上が「挑戦的な新しいアイデア」をもたらしたと答えている。

B2Bブランドの1位になったスプランク(Splunk)は、需要を生み出すイノベーションと、明確で楽しく特徴的なカルチャーの発信を組み合わせることで、参加型手法のお手本を示しているといえる。スプランクはビッグデータ企業でありながら、「世界第11位のTシャツ会社」を自称し、回答者の5人中4人に「コミュニティの一員」と感じさせることに成功した。アイリスがデータを比較したところ、スプランクやパランティアといったブランドは、PBIのランキングで、代表的なB2Cブランドをも上回っており、HP、シスコシステムズ傘下のWebEX(ウェブエックス)、さらにマイクロソフト傘下のリンクトインといった古参のB2Bブランドを大きく引き離している。

顧客体験では「感情のエンゲージメント」が重要

ファーストパーティデータこそが答えだと考えるマーケターに、PBIはもう一つの警鐘を鳴らしている。個人データをブランドと共有してもいいと思う消費者の割合は、2018年以降33%も減少しているのだ。

データの争奪戦が過熱するなか、ブランドはどうすれば優位を保てるのだろうか。美容小売のグロッシアー(Glossier)は、「ビッグ5」と呼ばれるテック企業を抑え、ブランドの顧客体験において1位に輝いた。グロッシアーは、モバイル上でのインタラクションを単にシームレスなだけでなく、「楽しくて興味をそそる」ものにすることで、「記憶に残る瞬間」とコミュニティとの一体感を生み出すと評価されている。全体的に見て、トップレベルの信頼を得ているブランドは、顧客へのコミットメントを貫き、「購入後も手厚いサービスとサポート」を提供していると認識されているブランドだ。

話題のブランドへの意見は二極化

現在の消費者の感情や生活様式の中で、その存在感を維持することは、人々の関心を保つ上で重要なことだが、そのためにはブランドは、単にカルチャーのトレンドを追うだけでなく、パフォーマンスで優位に立てるような文化を自ら能動的に作っていく必要がある。

つまり、PBIが示しているのは、ネットフリックスやサムスンのような、「時代とともに進化している」感覚を生み出し、「次に何をするのか」と期待を抱かせるようなブランドにこそ、消費者は喜んでプレミアムを支払うということだ。

TikTokは「大衆文化において今もっともホットな」ブランドと見なされている(Z世代によるランキングでは総合2位)。しかし同時に、TikTokはPBIの調査対象の中で最も「嫌われている」ブランドの一つでもある。

文化的にホットな存在になるためには、嫌われることにも耐える必要があることを示す例だが、これはTikTokが最初の事例というわけではない。2015年のPBIでは、ヘッドフォンを手がけるビーツ(Beats)が最もホットなブランドであると同時に、最も嫌われているブランドでもあった。ただし留意すべきは、この法則が普遍的なものではないという点だ。バドワイザーは、今回のPBIで「最もホットでない」ブランドの一つだったが、TikTokと同じくらい嫌われてもいた。

この10年間、デジタル接続によって「トップダウン型」広告の破壊が進んできたが、パンデミック後、マーケティングの新時代を迎える今、その変化はかつてないほど深刻になっている。顧客が主導権を握り、あらゆるブランドが存在感を失う寸前まで来ているのだ。

PBIが示しているのは、ブランドが消費者の参加を受け入れ、顧客の生活に本物の革新的な価値を提供しない限り、ブランドはますます忘れられ、収益向上にも苦労することになるだろう、ということだ。


ベン・エッセン氏は、アイリスの最高戦略責任者。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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