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2018年9月13日

世界マーケティング短信:ソレル、広告代理店を「排除」

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

「再生」を意味するバーニングマンをあしらった、S4キャピタルの目論見書
「再生」を意味するバーニングマンをあしらった、S4キャピタルの目論見書

ソレル、コンサルティング会社をはじめてライバル視

今週、新設したS4キャピタルの株式売出目論見書を公開したマーティン・ソレル卿だが、その中で意外な見解を述べている。「コンテンツ制作では広告代理店を除外し、クライアントに利をもたらす」「コンサルティング会社を最大のライバルと見なす」。この2点が目論見書の重要なポイントとなっている。

同氏は「ブランドは次第に、デジタルメディア企業と直接関わりを持つようになってきた」と述べ、こう続ける。「これまでデジタルマーケティングサービスに力点を置いていた数多くのコンサルティング会社がクリエイティブ機能を持ち始め、メディアモンクス(MediaMonks、S4キャピタルが最近買収)のような会社と直接張り合うようになった」。その例として、IBMやアクセンチュア、デロイト、PwCなどを直接的なライバルに挙げる。

このコメントに驚かされるのは、同氏が世界最大の広告代理店グループWPPの経営に携わっていた頃は、ブランドが代理店抜きで取引することや、コンサルティング会社がマーケティングサービスに参入することを軽視していたからだ。

代理店の世界は、時に内向き志向で自己礼賛型だ。ソレル氏はその呪縛からやっと解放され、マーケティング業界が変化しつつあるという現実に向き合ったのだろう。ブランドがかつてほど代理店を必要としていないことは確かだ。だが、ブランドがメディア企業と直接仕事をするのなら、S4キャピタルの提案も必要とはしないだろう。

コンサルティング会社は、将来のマーケティング業界で強い存在感を放つようになるかもしれない。優れたクリエイティブ企業の多くはスケールが小さく、コンサルティング会社やS4キャピタルが今後買収する可能性があるからだ。では、大局的に彼らが直面する課題を考えてみよう。S4キャピタルがライバル視する企業が手がけたクリエイティブワークで、これまで印象に残るようなものは果たしていくつあっただろうか。

セクハラ最多は、メディア業界

人権団体「豪州ヒューマンライツコミッション」が行った業界全般にわたる職場調査で、最もハラスメントが横行しているのは広告を含めた情報・テレコミュニケーション業界であることが分かった。豪州のメディア業界サイト「マンブレラ(Mumbrella)」によると、同業界で働く人々の81%が「この5年間のうちにセクハラを受けた」と回答。意外なのは、女性よりも男性の被害者の方が多かったこと。女性80%に対し、男性は83%だった。その一方で、ハラスメントに対する申立てや報告をしたのはその17%に過ぎなかった。豪州は決して、他と比べて特異な市場ではない。そう考えると新たな疑問が浮上する。果たして、日本の状況はどうなのか。ある国でハラスメントとされる行為が、他の国では「当たり前」とされていることは大いにありうるのだ。

NASAが企業スポンサーを募集?

今週のニューヨーク・タイムズ紙によると、予算の横ばい状態が続く米航空宇宙局(NASA)が、企業スポンサーの導入を検討しているという。同紙は「企業側が宇宙探査機の命名権の購入に興味を持っている」というNASAのジム・ブライデンスタイン長官のコメントを紹介している。マクドナルドのロゴマークが入ったロケットや宇宙服など想像するだけでも滑稽だが、荒唐無稽な話ではない。NASAの予算は2023年まで増額が期待できないからだ。もし民間のスポンサーシップを受け入れれば、「NASAのブランド力と評判が落ちる」と異論が出るのは必至。では、惑星間航行は企業のブランディングにとって価値あるものなのだろうか。まずはサッポロビールに聞いてみるのがいいかもしれない。同社は2008年、宇宙を旅した大麦で作ったビール「スペースバーレイ」を世界ではじめて売り出した会社だから。

偶然にも同じスローガンを使ってしまった、2つの銀行

もし自分たちの新しい企業理念が、業界内の他社によって既に使われていると知ったらどうするだろうか? それでも使い続けることを決めたのは、豪州の金融機関であるバンクウェスト。同行では「新しくて大胆で、独自なブランドポジショニング」として、銀行に煩わされる時間をもっと少なくするという意味を込めた「Bank less」というキャッチフレーズを採用。だがシンガポールのDBSでも「Live more, bank less」というフレーズを5月から使っていた。バンクウェストがCampaignに語ったところによると、同行のキャッチフレーズを作った後に、DBSのフレーズを知ったのだという。フレーズが表現する本質や情緒は「大きく異なるもの」であり、また両社は直接の競合関係にはない、とも述べた

では何か問題があるだろうか? 一般的には、自分たちならではのユニークなフレーズを使う方が望ましいものの、おそらく問題は無いだろう。だが一方で、どちらの銀行も同じことを宣言しているというのは、利用者の感情をよく表している。銀行とのやりとりに膨大な時間を費やしたくないというのは、(当然のことながら日本も含めた)万国共通の願いだ。サービスで面倒だと感じさせる点を、しっかりと取り除くことができたブランドこそが、真に強いブランドとなるだろう。これはあらゆるブランディングやコミュニケーション施策よりも優先順位が高いはずだ。

フィリップ・モリス、インフルエンサー活用のポリシーを再考

フィリップ・モリスの広報責任者に就任したマリアン・ザルツマン氏はCampaignが今週公開したインタビュー記事(英語版のみ)で、18歳未満のオンラインインフルエンサーたちがSNS上でたばこを訴求していると発表した最近の調査結果に、対応したと語った。若者たちがターゲットとならないよう規制を導入した同氏は、「25歳以下のインフルエンサーを使うことは今後ありません」とコメント。「規制はとても厳しいので、今まで当社のインフルエンサー案件に携わってきたエージェンシーの多くは、今後一緒にやっていきたいとは考えないと思います。それだけ我々は、年齢について厳しく見るようになっており、逸脱するようなものは絶対に許されることはありません」

朗報ではあるが、果たしてこれで本当に十分だろうか? ティーンエイジャーが20代や30代の人々から影響を受けないと考えるのは合理的ではない。大手たばこ会社の、まるでインスタグラマーのフォロワーが喫煙者か非喫煙者なのかをあたかも把握しているかのような「既に喫煙している人だけをターゲットにしている」という主張も、やはり非合理的だ。もしフィリップ・モリスが、「リスクを低減する」無煙たばこへの切り替えを本気で推し進めていきたいのであれば、インフルエンサーから訴求するメッセージはそこに絞り込むべきだろう。

その他の今週のニュース:

R/GAのアジア太平洋地域責任者を務めたジム・モファット氏が、10年間勤めた同社から、ロンドンに拠点を置くマーケティング戦略エージェンシー「エンジン」へと移り、欧州とアジアを担当する。同氏は、アジア太平洋地域を担当した当初は10人規模だったリージョナルオフィスを、250人の規模にまで拡大。昨年は都内にオフィスを開設した。

ハバス・ジャパンは、グーグルのクリエイティブ部門責任者をマネージングディレクターとして迎え入れる。フランスのメディア・エンターテインメント企業であるヴィヴェンディに買収されたことで、ハバスは新たな波に乗ったようだ。同社はクライアントワークにおいて、エンターテインメントを占める割合を拡大していく考えだという。

大坂なおみ選手が全米オープンで優勝し、日本というブランドの「非公式アンバサダー」としての一面も発揮した。またスポンサーにとって、選手の謙虚さやユニークさ、ユーモアなどといった個人的な特性は、競技の実力と同じくらい大切であることも印象付けた。木曜日には日産自動車のブランドアンバサダーに就任した大坂選手は、さまざまな表情を併せ持つ。いかに日産自動車がイマジネーション豊かに活かしていくか、見守っていきたい。他にも多くのブランドが、この流れに続くだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

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