Lee Nugent
2022年4月15日

人材枯渇の現実:その人材戦略は正しいのか

アーキタイプ(Archetype)でAPAC(アジア太平洋地域)を率いるリー・ニュージェント氏は、優秀な人材を求める際、業界の枠内や従来の採用条件から視野を広げて考えることのメリットを説く。

人材枯渇の現実:その人材戦略は正しいのか

コミュニケーションエージェンシーのすべての幹部(そしておそらく、あらゆる業種のビジネスリーダー)と同様に、最近、私の頭から離れないことがある。それは、どこでどのように人材を探せばいいのかという問題だ。

当然ながら、優秀な人材の獲得と維持は、私たちの成功に不可欠な最優先事項だ。だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響や、その前からも見られていたようなさまざまな要因によって、人材不足が続いており、優秀な人材を業界に呼び込むことが喫緊の課題となっている。

だが大きな問題点がある。業界のあちこちで空席となっているポジションをすべて埋めるには、優秀な人材があまりにも不足しているということだ。しかし、ほんとうにそうだろうか。実はそうに見えているだけなのかもしれない。

自業自得

今の状況は驚くには値しない。ここ何十年もの間、私たちの多くは、毎年のように同じ人材プールから人材を獲得してきた。そしてその結果、業界は著しく多様性を欠くことになった。安易な選択肢に流されてきた私たちは、自分と同じような経歴と経験を持ち、同じような考え方をする人材ばかりを採用してきた。その結果はどうだろう?多くの点で、あまりにも同質化し、視野が狭くなりすぎた。顧客のためと言いながらも、その顧客の代弁者とは程遠い存在になってしまった。

つまり、私たちは底の浅い人材プール(一部がすでに枯渇している)をターゲットに選んできただけでなく、誰もがより良い仕事をするために必要な、多様性のある考え方を取り入れる機会を逃し続けてきたのだ。多様性の欠如は、社会的、倫理的に問題があるだけでなく、ビジネスにも大きな問題をもたらす(もちろん企業の成長にとっても!)。

すでにこの業界に入り、多くの人と同じ道を歩んできた人々が優秀ではないと言っているわけではない。もちろん彼らは優秀だ。それでも、周囲を取り巻く多様性がもっと増すなら、さらに伸びる可能性がある。異なる人々と接することは、すべての人にメリットをもたらす。なぜなら、新しい発想は違いから生まれるものだからだ。次のキャンペーンのアイデアを考えるミーティングに、コミュニケーションチーム以外の人(財務、人事、ITなど)を参加させてみれば、私が言わんとすることもすぐに理解してもらえるだろう。

私たちの業界はこの問題に気づき始め、(大きく進んでいるとは言えないが)多様性の欠如に対処するための取り組みに乗り出している。エージェンシー業界では、今や多くの企業がDEI(多様性、公平性、包摂性)戦略を公式に掲げ、さまざまな経歴を持つ人材を採用するためのプログラムを積極的に進めている。だが、その道のりはまだ長く、やるべきことは多い。

学歴の多様性を高める

私たちにも改善できそうな課題はいくつもあるが、今回は一つだけ取り上げたい。これが他よりも重要だからではなく、恐らくこれまであまり注意を払われて来なかったからだ。具体的には、教育における多様性の課題、すなわちコミュニケーション分野でキャリアを築くための「典型的なルート」を歩んで来なかった人材をめぐる課題だ。

非常に優秀でありながら、高等教育を経てコミュニケーション業界に入るという一般的なルートを歩んでこなかった人々を業界に引き込むには、今が絶好のチャンスだろう。誰もが学業を続ける機会を得られるわけではない。経済的な問題や家族からのプレッシャーによって、学業を続けられなかった人もいる。あるいは単純に、高等教育に進まずに就職するという道を選んだ人もいるはずだ。社会経済的にマイノリティーに属する人々やその他の少数派の人々が、一般的なルートを進まないケースはよく見られる。

私はこれまで、一般的ではないルートを歩んできた何人かの有能な人々(その誰もが一流のコミュニケーション専門家だ)と仕事をして、満足できる成果やメリットを得た経験が幾度もある。

ある人は、高等教育に進む機会が得られず、16歳のときに小売業でキャリアをスタートさせた。彼は現在、大手テック企業でグローバルコミュニケーション担当のシニアディレクターを務めている。別の人は、大学を中退して自分の夢を追いかけた後、PR業界に進み、最終的にエージェンシーを創設して成功を収めている。3人目は文章を書くのが好きだったので、メディア業界でインターンとして仕事を始め、今では有名なPRクリエイティブディレクターだ。そして4人目は、学校を出たばかりの18歳で、ロンドンのエージェンシーに同社初のインターンの1人として入社した。彼女は現在、英国の有名な非営利団体でコミュニケーション責任者を務めている。

彼らの誰もが、優れたPRコンサルタントになる可能性を感じさせるようなエネルギーと意欲を当初から見せていた。全員がクリエイティブだった(そう、優れたライターであり、コミュニケーターだった)のだ。彼らはみな、今までにないもの、つまり新しい考えや視点を組織にもたらした。そして、コミュニケーションの分野で素晴らしいキャリアを積み上げた。間違いなく、誰もが私より優秀だ。そんな彼らは、一般的な高等教育も受けていなければ、大学の学位も持っていない。

だが、彼らの才能と意欲、障害を乗り越える力、そしてちょっとした幸運がなければ、彼らがコミュニケーションのプロフェッショナルとして生きていく道は失われていたかもしれない。そうなれば、私たちの業界にとって、また彼らの才能に大いに助けられてきた同僚やクライアントにとって、大変な損失と言えるだろう。

偏見を打破する好機

では、私たちが雇用側としてできることは何だろうか。まず考えて欲しいのは、この業界に入ってプロを目指す人はみな大学の学位を持っていなければならない、という発想を捨て去るということだ。

先に挙げた4人はみな、学位を持っていない。

確かに、コミュニケーションがうまくできなければならないし、優秀で好奇心旺盛でなければならない。優れた文章を書ける能力も必要だろう。そうだとしても、大卒の資格が必要ということにはならないはずだ。

次に、従来とは異なる経歴を持つ人材を採用することに対して、よりスマートになろう。マイノリティーに属する人々を積極的に支援する計画を立てるとともに、高等教育に進まなかった人々に対し、実習プログラムを通じてキャリア開発の機会を提供することを検討しよう。また、国や地域で教育の不平等に取り組む非営利団体と提携して、マイノリティーに属する人々向けの有給インターンシッププログラムを開始し、優秀な若者にコミュニケーション業界で働く経験を与えよう。うまくいけば、彼らに自社を魅力的な就職先の一つと考えてもらえるはずだ。

これまで述べてきたように、やるべきことはまだたくさんある。同じ人材プールから人材を得ようとし続けるならば、今後も人材不足は続くだろう。しかし、実際にはまだ活用されていない数多くの人材が存在している。そして、彼らこそが真の変化をもたらす人材かもしれないのだ。


リー・ニュージェント氏は、アーキタイプのAPACリージョナルディレクター。PRCA Asia PacificのEquality, Diversity & Inclusion Committeeのメンバーであり、PRCA Asia Pacificの理事も務める。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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