David Blecken
2018年5月22日

広告界に「禅の調和」を:WFA理事長

世界広告主連盟(WFA)が東京で開催したグローバルマーケターウィーク。WFA理事長は、「混乱する業界にバランスを取り戻そう」と呼びかけた。カンファレンスのハイライトをご紹介する。

デイヴィッド・ウェルドン氏
デイヴィッド・ウェルドン氏

グローバルマーケターウィークも終盤の17日、WFAのデイヴィッド・ウェルドン理事長は「デジタルマーケティングにおけるエコシステムを大幅に改善しなければならない」と聴衆に語りかけた。

ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)の最高マーケティング責任者(CMO)も務めるウェルドン氏は、その場でWFAの「グローバルメディア憲章(Global Media Charter)」を発表。「今こそ超えてはならない一線を示すときです。クライアントやエージェンシー、メディアオーナー、プラットフォーム間の関係のバランスを修復し、大きな混乱を生んでいる業界に『禅的』な調和を取り戻すべきなのです」と語った。

同氏が指摘する「バランスの欠如」とは、世界中のマーケティング支出の4分の1がフェイスブックとグーグルの2社に集中している点だ。「これまでの業界の歴史で、たった2つの企業がエコシステムの中で圧倒的なポジションを占めることはなかった。これら2社が自らの責任を十分認識し、我々が安心して広告を出せるようなコンテンツを提供していくことを求めます」。

また、「ブランドもさらにステップアップする責任がある。エコシステムを通じ、広告主は人々にきちんと利益を還元するべき」と強調。また、「露出されるべきでないスペースに広告が出ないよう努めなければならない」とも。未成年にとって望ましくない食品やアルコールなどの広告の規制を、より強化していく考えを示した。

更に同氏は、「WFAはよりオープンで透明性の高いサプライチェーンの構築に努めている」とし、「データの適切な利用は確実に実行されなければならない」と語った。「ブランドオーナーである我々は適切な手段でデータを集め、利用する義務がある。だからこそ、これまでに前例のないエコシステムの改善を求めるのです。これが成し遂げられれば、新たな時代を迎えられる。トラブルに見舞われてきた業界は、変革のときを迎えています」。

グローバルメディア憲章は8つの指針から成るが、「まだプロセスの段階」と同氏。安倍晋三首相が経済政策にアベノミクスを導入した際引用した「3本の矢」の逸話にならい、「1本の矢は簡単に折れてしまうが、10本の束なら折れにくい」と述べた。

この日は他のプレゼンテーションも行われ、クリエイティブシンキングの重要性、グローバルマーケティングとローカルマーケティング戦略の対比、テック企業でクリエイティブに携わる人々の役割、サムソンCMOの役割などをテーマにセッションが行われた。以下、概要をまとめる。

議論よりも行動を

英国の作家で企業家でもあるクリス・バレス・ブラウン氏は、「マーケターたちは依然、ドアを閉ざした部屋の中にこもり、データを検討して未来を語り合うことに余念がない」と指摘した。

「クリエイティビティーにおいては視覚化が一定の役割を果たします。有意義なものを生み出す最良の方法は、たとえ荒削りであってもまずは形にすること」。その例として、自分の12歳の息子がアマチュアバンド活動を経てプロのミュージシャンになったことや、趣味でナイフ作りをしていた友人が売れっ子職人になったこと(彼の製品を購入するには今や3年半待たねばならないという)、窒息しそうな人の救助法を教えるため、自らを窒息寸前に追い込むトレーナーのこと(ブラウン氏も彼から教えを乞いた)などを挙げた。

「我々はいつも、この上なくスマートで完璧なものを作ろうとします。そのために、試すことを忘れてしまう。議論に多くの時間を割き、行動しないのです。経験値からデータを得て改良することが、創造に役立つのに……。実際の経験は何よりの学びであり、モチベーションであり、そしてエネルギーなのです」

グローバルVSローカル戦略

これに続くセッションは、グローバルマーケティング戦略とローカルマーケティング戦略のメリットに関するディベート。登壇者4名のうち、ローカル戦略を支持するのはパナソニックの山口有希子氏とクリエイティブスタジオ「デスオブバッド(Death of Bad)」 の曽原剛氏。グローバル戦略を唱えたのは資生堂の山本尚美氏とスタンダードチャータード銀行のサム・アーメッド氏。

まず山口氏は、「グローバル戦略はローカル市場の意味合いや特徴を無視しがちで、結果的に地域の消費者に受け入れられにくい」と指摘。曽原氏は、「記憶に残る食事というのは決して食べ物だけではなく、どのような文脈だったかが重要」と発言。そして「市場で弱者として戦う方法は、ブランドが主導する市場で取るアプローチとは全く異なる」と述べた。「世界的に認められている手法に追随するのは安全策です。本社の反感を得ないという利点がありますが、ローカルのオーディエンスには受け入れられないでしょう。マーケターはそのような姿勢を取るべきではありません」。

これに対し山本氏は、「傑出した人間的な洞察力こそ優れた仕事の源泉。ローカルにものを考えていたのでは、こうした洞察はなかなか生まれない」と反論。アーメッド氏は、「ミレニアル世代は文化的な違いをあまり気にしない」と前置きし、「最高の結果や作品は、自由なディベートから生まれる。過度にコンセンサスを重視した内輪的なやりとりからは生まれません」と述べた。

最後に聴衆の間で投票が行われ、54%がローカルマーケティングを支持、グローバルを若干上回った。

クリエイティブな人材を活用する

グーグル・クリエイティブラボのロバート・ウォン副社長は、「我が社は私が加わった10年前に比べ、より積極的にアーティスティックなバックグランドを持つ人々を雇用している」と述べた。同氏は自身がニューヨークを拠点としてきたことのメリットを挙げ、「本社で社の方針に黙って従うのではなく、それに対し客観的なアプローチができたと思う」。同氏はマーケターに対し、代理店と良好な関係を保つためのアドバイスも語った。

「まず、クリエイティブなバックグランドを持つ人々をチームに雇い入れることです。クリエイティブな人々は、代理店チームとの橋渡しになってくれる。次に、クリエイティブエージェンシーには業務遂行や戦略を任せるだけでなく、課題解決にも取り組んでもらう。彼らに“ウェイター”ではなく、“シェフ”の権限を与えるのです」

ロバート・ウォン氏

サムスンの課題は「一貫性」

サムスン電子のエグゼティブバイスプレジデントでCMOのイ・ヨンヒ氏とサムスン電子アメリカのCMO、マーク・マシュー氏が同社の課題について議論。イ氏はCMOの最大の課題として、「どうすればピントの合った、一貫したブランドメッセージを送り続けられるか」を挙げた。「ガバナンスが強すぎると、いつも問題が生まれる。グローバル性を維持するためには十分に戦略的でなければなりませんが、ローカル性にも対応できるよう柔軟性も身につけていなければなりません」。

イ氏は、広告代理店からより良い結果を引き出す唯一の手段は「求める成果を明確にすること」と述べた。「瑣末なことで代理店を惑わせてはなりません。戦略を明確にして、それを遂行してもらうのです」。

イ・ヨンヒ、マーク・マシューの両氏

マシュー氏は、「ブランドはいまだに自社の商品やサービスにとって重要でない目標を追求する、という罠に陥っています」と言及。同氏が以前勤めていたユニリーバでは、ブランドの目的とは「賢明な自己利益の追求だった」。「目的とは、可能性を広げるビジネスモデルの中核となるものでなければなりません」。この原則はサムスンでも変わらないという。「確かに、テクノロジーを扱う企業は責任感を持たなければならない。しかし社会的な目的は、製品が世界に与えうる影響に根ざしたものでなければならないのです」

ロレアルでの勤務経験を持つイ氏は、女性マーケターへのアドバイスも。「サムソンは男性中心の企業と見られていますが、ロレアルも決して男女平等ではありませんでした」。今ではサムスンのマーケティング部門の半数が女性だという。

「私にとっての課題は、昔からそんなに変わっていません」とイ氏。「技術系企業で働く女性は目立ちます。しかし私は自分の仕事に自信がありますし、正しいと信じることははっきりと口に出せます。自信とプロ意識を持ち、結果を重視することが大切なのです」。

(文:デイビッド・ブレッケン 編集:水野龍哉)

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