
デジタルエージェンシーのデプト(Dept)は、人工知能(AI)システムをローンチし、このAI基盤が、2025年までに収益の10%をもたらすと見込んでいる。
このAIシステムには、40人のデータサイエンティストとエンジニアが配置され、世界中のクリエイティブ、メディア、エンジニアリング、デザイン等のスタッフ400人の専門知識が活用されている。現在、デプトには世界全体で約4000人のスタッフがいる。
デプトは、6年前から社内業務やクライアントワークにAI技術を取り入れてきたという。
2022年には、収益の30%がAI関連からもたらされたというが、この比率は、同社が開発またはインテグレーションしたAIツールを用いた業務から得られた収益に基づいて算出されたものだ。
デプトがこれまで手がけた、AI関連の仕事の大半は、大規模なクリエイティブ案件の一部として実施されたものだという。例えば、イーベイの「MCM Comic Con」キャンペーンでは、ジェネレーティブAIでトレーディングカードが作成できる拡張現実(AR)体験を開発した。また、AIを利用して、ジャストイート・テイクアウェイ・ドットコムの大規模なパーソナライゼーションを実現し、フィリップスのデータ分析の改善も支援した。
マインドバレー(MindValley)、シーコー・ホールディングス(Seacor Holdings)、ヒューム・エーアイ(Hume AI)など、いくつかのクライアントは、機械学習オペレーション(MLOps)やAI体験のためだけにデプトと提携している。米国聴覚障害児協会もデプトのクライアントだ。デプトは協会のために、手話アルファベット学習のための機械学習ハンドトラッキングシステムを開発した。
「過去数年間にわたる高度な経験と専門知識の蓄積は、まだ実験段階にある競合他社とは一線を画している」と、デプトのCEO、ディミ・アルバース氏は、Campaign USの取材に対して述べた。
同氏は、デプトのAI基盤の立ち上げは、AIにとって極めて重要な時期と重なったと語る。オープンAI(OpenAI)が2022年11月にChatGPTを公開したのを皮切りに、マイクロソフトやグーグルもチャットボットへの投資に踏み切ったからだ。
「ChatGPTの登場によって、あらゆるブランドやエージェンシーの取締役会で、AIが議題に上るようになり、今その重要性はかつてないほど高まっている」と、アルバース氏は語る。
デプトでは、2025年までに売り上げの10%がAI基盤から、80%がAI基盤を活用した業務からもたらされるようになると予想している。
デプトで新技術担当バイスプレジデントを務めるイザベル・ペリー氏によれば、クライアントは「AIの活用を強く望んでいるが、設計や倫理、運用等に関わる複雑な問題のために、尻込みしていることが多い」という。
クライアントからは、厳しいマクロ経済環境のなか、効率を高めるためにAIを使いたいという要望が特に多いと、アルバース氏は明かす。そのほかでは、顧客インサイトを明らかにしたり、購買意向を予測して顧客生涯価値を高めたりする取り組みにAIを利用したいというリクエストもよく見られるという。
この数週間、大手テクノロジー企業や広告会社から、AIを使ったコスト削減計画が続々と発表されたが、デプトのAIは「雇用を削減するものではなく、より多くの雇用を創出する」ものになるはずだと、アルバース氏は言う。
「AIは、私たちの仕事やそのやり方に多大な影響を与えるだろうが、私たちが驚異的なペースで成長を続けるのに役立つと信じている。人がAIに取って代わられることはないが、長期的には、AIを使える人材に置き換わっていく」と、アルバース氏は続けた。
デプトの新しいAI基盤はトレーニングやスキル開発の機会も提供するため、データサイエンティストやエンジニアだけでなく、同社のスタッフ全員がAIを使えるようになるのだという。
「AIを単独の存在として捉えるのではなく、カスマージャーニーの改善に不可欠なパーツの一つとみなすべきだと考えている」と、アルバース氏は語った。
「私たちが今、目にしている変化は、AIの力が、もはやデータサイエンティストやエンジニアだけのものではなく、好奇心や創造性を持つすべての人の手にもたらされるという事実を示している」(アルバース氏)