
「ブランドは自社製品の販売のために、ソーシャルメディアをどのように使えばよいですか?」とCampaignはソフィアに尋ねた。すると「マーケティングは、私がもっと学ぶべきものの一つです」との答えが返ってきた。
「中国で最も人気のあるブランドは?」と質問したら、こんな返事が飛び出した。
「では、私がものすごくドラマチックなことを言うのでは、いかがでしょうか? ビーチボーイズはビートルズよりも、はるかに素晴らしかった。私が言いたいのは、これだけです」
ハンソン・ロボティクス社(本拠地:香港)の最も高度なロボットで、サウジアラビアの市民権も持つソフィアは、自然な会話をしながら60種類以上もの表情を浮かべることができるという。ソフィアやその他の人工知能(AI)ロボットは、データを集めて分析する能力は高い。だがマーケティング専門家を代替できるかといえば、まだ前途遼遠といわざるを得ない。
Campaignはこのたびマーケティングソサエティが香港で開催したイベント「ソーシャルAI:ニューフロンティア」にて、ソフィアと話す機会を得た。(以下の動画を参照)
ソフィアは、インタビューには的確に対応できなかったかもしれない。だが、マーケティングのあらゆる部分において、ロボットが果たせる役割があるはずだと、ハンソン・ロボティクス社のジャンヌ・リムCEOは主張する。
「ソフィアは人間の形をしているため、ユーザーに語りかけて膨大な情報を集めるチャットボットとして機能することができます。一般的にマーケティング専門家は世の中のユーザーを引き込もうとしますが、AIは適切な顧客がどこにいるかを、より的確に分析することができます。例えばソーシャルメディアで、多くの人々がAIについて語っているとしましょう。それを誰が語っているのか、彼らが何に関心を持っているのかなど、情報源について明らかにし、興味を持ってもらえるコンテンツを作成できるのです」
マーケティングソサエティのダレン・チャクリー代表は「生活者とつながり、より深く理解し、リアルタイムかつパーソナルに対応することを、AIは可能にしてくれます。これが秘訣です。このような長所を、もう無駄にしたくはありません」と語る。
AIが過去に成功したCMのストーリーラインや要素を分析し、いかにCMを制作できるのかを、我々はこれまで取り上げてきた。その例として挙げられるのが、昨年のレクサスの60秒CM。新型レクサスESに命を吹き込まれるというストーリーは、AIが全て書き上げた。
「AIは、物事の遂行基準を引き上げることができます。人々はその基準に追いつこうと尽力し、凡庸なままではいられなくなります」とリム氏。
ハンソン・ロボティクス社はソフィアを用いて、標準となる統一のロボットプラットフォーム「セージ(Sage)」を開発中だ。これによってさまざまなサービスを一つにまとめ、ソフトウェア開発者やサービスプロバイダーと共に、ヘルスケア、カスタマーサービス、教育などの分野に売り込むことが可能となる。
同社のプロダクトラインには、人間型ロボットの拡張版ともいえる「バーチャルAI」もある。これはユーザーがウェブサイトやアプリ、その他さまざまなバーチャルプラットフォーム上でAI駆動型のキャラクターを展開し、顧客との対話に活用できるというもの。
「これほどまでに変化が速く、そしてその多くが水面下でどんどん進んでいるということに、とても驚かされます。キャセイパシフィック航空やHSBC(金融グループ)などのブランドや企業がこの技術を活用し、顧客とのより良い関係構築に役立てています」とチャクリー氏。
「AIは、顧客の未来の行動を予想するためのインサイト獲得に役立ちます。そして我々は顧客のニーズに合わせ、事業やサービスを変えていくことができます。なぜならば我々は今、自分たちではなく顧客を第一に考え、顧客起点のビジネスを構築しているからです」とも。
判断するのは、人間
そうはいっても、マーケティング専門家の仕事はAIロボットに奪われていない。人間が今も戦略の意思決定を行うからだ。だが彼らには今後、マーケティング自動化ツールなどといった新しいスキルを習得するようにとのプレッシャーが、ますます強まるかもしれない。
「ロボットは基本的に、仕事を奪うものではなく、仕事のスキルを習得しているもの。人間は常に、仕事の中で進化します。テクノロジーは止まることがなく、規模拡大に貢献してくれます。旧態依然とした仕事の進め方よりも、もっと多くの仕事をより効率的にこなせるようになるのです」とリム氏。
だがマーケターは新しいスキルを習得し、より良い意思決定をできるようになるべき、とも強調する。
「広告界のプロフェッショナルは、見栄えの良い広告を制作して公開し、売上増につながっているか確認できます。昨今は誰もが広告にオンラインで接触するので、これらの作業は基本的に全て自動化する必要があります。その結果、マーケティングの専門家はマーケティングを自動化してくれるソフトウェアを熟知しなくてはならなくなります。キャンペーンの戦略やゴールの設定はまだこれからも必要であるため、マーケターはおそらく、もっと戦略レベルで貢献することとなるでしょう」
(文:マー・ジンジン 翻訳・編集:田崎亮子)