Staff Reporters Ryoko Tasaki
2023年4月28日

エージェンシー・レポートカード2022:博報堂

COVID-19対策の緩和や、デジタルの新技術への投資などにより、博報堂のビジネスは回復した。しかし組織文化の創出やDEIへの対応を、より優先させていく必要がある。

米津玄師×PlayStation「遊びのない世界なんて」
米津玄師×PlayStation「遊びのない世界なんて」

博報堂は2022年に、大きな目標をいくつか設定していた。一つは、従来からの広告やメディアを超えて成長し、より統合的なフルファネルのマーケティングサービスに集中すること。コールセンターや人材会社との新たな業務提携や、100名を超えるエンジニアの雇用が、提供するビジネスソリューションの多様化に寄与している。

もう一つの目標は、日本以外のアジアでの事業とより緊密に連携することだ。その大きな第一歩として同社は、博報堂DYグループのデジタルメディア・エージェンシー「デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)」と「H+(エイチプラス)」を発足した。これはアジア太平洋(APAC)地域内10市場の22社を横断したネットワークで、地域のトップテクノロジーに焦点を当てたチームを活かし、アジア全体のクライアントに向けたデジタルサービスの開発を迅速に進めていく。

博報堂のイニシアチブは称賛に値するが、実益につながるか確認するには、あと1年待つ必要があるだろう。博報堂の事業の大部分は、今もテレビなど伝統的なメディアのクリエイティブが占める。傑出したクリエイティブとまではいかなくとも、良いクリエイティブを生み出し続けている。しかしこの地域全体で前進していくためには、組織文化やDEIといった懸案事項に取り組む必要がある。

カテゴリー 2022 2021
ビジネス成長 B   C+
イノベーション B B-
DEI & サステナビリティー C- D+
クリエイティビティー & エフェクティブネス B- B
マネジメント C C+
*2021年の評価は新たなポイント表に基づくもの。ポイント表についてはこちらから

ビジネス成長 (B)

博報堂にとって、2022年は事業が非常に好調だった。博報堂DYホールディングスの売上高(2021年10月~2022年9月)は前年同期比10.7%増と過去最高を更新した。さらに売上総利益は同13.6%増と大きく伸び、このことを今回の評価で考慮した。国内に20拠点を構え、デジタルマーケティング支援を手掛ける東証一部上場企業ソウルドアウトを買収したことが、国内での売上高の大幅な伸びに寄与したとみられる。

他にも、COVID-19対策の緩和に伴い多くのサービスが再開され、新しいコミュニケーションが必要とされるようになったことで、政府や自治体からの案件が非常に多くなった。また半導体不足の改善によって、国内自動車メーカーからの仕事も増えた。

国外に目を向けると、シンガポール、ベトナム、台湾などの市場で、ライブイベントの復活とペントアップ需要(繰越需要)の恩恵を受けた。タイではDtoCのクライアントと共に、マーケティング活動が回復した。インドでも、マーケティング・テクノロジーへの新たな需要による利益を享受している。一方マレーシアでは、独立系デジタルエージェンシー「キングダムデジタル(Kingdom Digital)」を買収し、同国での拠点を拡大した。

他の日本のエージェンシーと同様、博報堂は新規獲得や失注について公表せず、クライアントの情報を明らかにしない。だが東南アジアで獲得した数々の大型案件には、中国の自動車メーカー、世界的な日用消費財大手、ASEAN市場でのアルコール飲料大手、フィリピンの通信会社などが含まれる。

イノベーション (B)

博報堂は新しいベンチャーの立ち上げや市場動向への投資を恐れず、従来からイノベーション領域を得意とする。同社のクリエイティブ・テクノロジー・ラボ・ビート(Creative technology lab beat)はその一例で、これまでにAIを用いて動画広告クリエイティブを高速リサイズする「H-AI MOVIE RESIZER」や、検索連動広告をAI技術で支援する「H-AI SEARCH」など4つのプロダクトを展開している。

シンガポールに本拠を置く日本発のステーク・テクノロジーズと昨年9月に新会社を設立した他、hakuhodo-XRチームなどを介して、2022年にAR(拡張現実)やメタバース、VR(仮想現実)に投資してきたのは、他の広告会社と類似する点だ。だが、支出に対するリターンがどの程度になるのかは、未だに曖昧としている。AIの領域では、機械学習を活用してクライアント企業の課題やデータ環境を深く理解するべく、マーケティングの次世代化を支援するデータサイエンスブティックを発足させている。

さらに、フルファネル型のマーケティングへの対応力を進化させるというミッションについては、100億円規模の研究開発予算を持つ博報堂テクノロジーズを設立し、持株会社全体を広範にサポートしていく。同社や、上述したエイチプラスのAPACネットワークへはかなりの額の投資が行われており、グレードアップが見込めるだろう。


DEI & サステナビリティー (C-)

博報堂の女性正社員は日本で4分の1以上、APACでは半分以上を構成しているにも関わらず、女性の上級管理職の割合は非常に低く(国内は10%未満、APACは約30%)、DEIの面で後れを取っている。賃金格差に関する監査は実施されておらず、行われる兆候もみられない。

同社では今年、会社が社員の声に耳を傾けていると感じさせるような施策を少しずつ開始した。従業員の意識調査の実施、妊娠やLGBTQ+のインクルージョンといったテーマに関する「コンサルテーション・デスク」の設置、介護・育児・月経などについてのセミナー開催などが、その例だ。

より進歩的な措置を取ったのは博報堂とTBWAによるジョイントベンチャーで、事実婚や同性婚を他の社員と対等の立場で登録し、生理休暇を認めた。

サステナビリティーに関しては、CO2や廃棄物の排出量削減での進歩が2021年3月期の統合報告書に記されているが、2022年の数値は現時点では入手できない。温室効果ガスの削減率を可視化する「デカボスコア」のクライアントへの提供や、企業の社会的責任を果たすためのサプライチェーン向けガイドラインの開発などがみられたが、まだ他社に先を越されている。

DEIのイニシアチブに関しては、評価がわずかに高くなった。しかし博報堂はもっとDEIに対する前向きな姿勢を示し、優先事項として実際に改善していく必要がある。それが達成されるまで、この項目の評価はこれ以上高くなることはないだろう。

クリエイティビティー & エフェクティブネス (B-)

博報堂は2021年の作品が評価され、昨年はスパイクスアジアで34作品、カンヌライオンズで7作品が受賞あるいは最終選考に選出されるなど、アジア太平洋地域で合計100以上の賞を獲得している。それとは対照的に、今年のクリエイティブには物足りなさを覚えるが、注目に値する傑出したキャンペーンがある。

同社のネットワークが手掛けた「静岡市プラモデル化計画」は、2022年度グッドデザイン賞を獲得した。これはプラモデルの全国出荷額の約8割を占める静岡市の地域再生プロジェクトで、郵便ポストや公衆電話など公共物を、組み立て前のプラモデルのパーツのように演出したものだ。同様に、富山県朝日町で手掛けた住民同士のライドシェアも、社会に貢献する作品の好例といえる。

だが、博報堂の最高傑作といえば、やはり米津玄師を起用したソニーPlayStation「遊びのない世界なんて」だろう。博報堂DYホールディングス傘下のSIXが手掛けた独特な世界観のこの作品は、米津玄師のミュージックビデオと、PlayStationのキャンペーンを兼ねており、この点は同社が5年前に制作したコピー用紙ブランド「Double A(ダブルA)」と米ロックバンド「OK Go(オーケー・ゴー)」のコラボレーションとも似ている。しかし今回の動画は再生回数が2倍近く(約3,800万回)に達し、PlayStationならではの「遊び心」を見事なまでに体現した。この作品が、博報堂のクリエイティブの評価を平均点以上に押し上げることとなった。

マネジメント (C)

博報堂は正確な離職率を公開していないが、日本では1社に長く勤務する従業員が多く、定着率が高くなる傾向にある。しかしAPACの他地域では、離職率の課題は依然として残る。

このような理由や、従業員のスキルセットを多様化するという目標のため、博報堂はキャリア面談に多くの時間(5,736時間)を割いた。また外部の新しいスキル・トレーニング・プログラムを200講座開始し、受講資格のある人の半数以上が自発的に受講した。

それでも今年の同社のマネジメントは評価が下がった。ビジネス成長とイノベーションの評価の高さは、同社がお金を稼ぎ、それを使う能力が高いことを反映したものだ。一方でDEIやクリエイティビティーのスコアが低いのは、エージェンシーとしての強い組織文化の創出に課題が残ること、そしてリーダーシップ層が業界内で最も多様性に欠けていることに起因する。

よりエシカルな調達ガイドラインを開発した同社だが、経営陣は東京五輪の入札談合スキャンダルに巻き込まれ、昨年11月に家宅捜索が入った。12月には同社の担当者が、いくつかのプロジェクトを単独で応札するために電通や五輪組織委員会との談合に関与したと認める供述をした

この非倫理的な行為が、ほんの数人によるものだったことを願うばかりだ。「捜査および調査に全面的に協力する」という誓いや公式の謝罪はあったが、このような不祥事を容認しないという姿勢を社内外にもっと強く示し、再発防止の措置を積極的に講じることはできたはずだ。

テレビ(35%)
マーケティング&プロモーション(26%)
インターネットメディア(16%)
クリエイティブ(14%)
その他メディア(9%)

サステナブル・マーケティング・サービス
クロスカテゴリー・サービス・プラットフォーム
クリエイティブ・テクノロジー

セントラル・デパートメント・ストア(タイ、小売大手)
本田技研工業
花王
三菱自動車
森永
日産自動車
パナソニック
スズキ
ソニー
トヨタ自動車

B+: 売上高が大幅に伸び、過去最高を記録した。メタバースのソリューションを増やしたり、社会問題に取り組み解決するための専門事業を多数立ち上げるなど、マーケティングサービスの領域を積極的に拡大した。

(文:Campaign Asia-Pacific編集部、翻訳・編集:田崎亮子)

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