David Blecken
2019年1月23日

ゲーミングの先を見据える、Twitch

アマゾンのゲーム専門ライブ配信サイト、Twitch(ツイッチ)。コアユーザーを確保しつつ、リアルライフをテーマとしたコンテンツの導入や主流ブランドとの協働に活路を見出す。

ジョン・アンダーソン氏。
ジョン・アンダーソン氏。

日本は長きにわたりゲーム業界のメッカとして君臨してきた。だが(ほかにもたくさんあるように)この国の1つの矛盾は、eスポーツやTwitchのようなストリーミング配信プラットフォームがなかなか根付かないことだ。現在同社はオープンレック(OPENREC)やニコニコアプリ、ユーチューブなどとしのぎを削りあう。日本市場で広告営業ディレクターを務めるジョン・アンダーソン氏は、「認知度の向上」を差別化の課題に掲げる。

同氏はシアトルで13年間、Xboxの広告やオース(Oath)社の業務に関わり、現職に就いたのは1年ほど前。日本文化の信奉者で三味線の名人という側面を持ち、キャリアのスタートも東京・パナソニックのマーケターだった。Twitchは今年、どのような方向に行くのか。また、広告主に求められるアプローチとは何か。アンダーソン氏がCampaignの質問に答えた。

日本での使命

Twitchが日本で展開する主たる理由は、他市場同様、「我々のユーザー(コンテンツクリエイター)が好きなことをして生計を立てられるようにすること」とアンダーソン氏。コンテンツ体験の邪魔になりかねない広告のセールスマンに同氏は嘲笑的だが、自分自身に関しては「収益化のためのオプション」と言ってはばからない。「広告収入は有望な若者やゲームを愛する大人たちのための資金になります。広告を売れば売るほど、そしてより多くのブランドが関与すればするほど、我々の原動力であるコンテンツクリエイターたちの収入が増える」。

では、日本の平均的なコンテンツクリエイターはどれだけの収入を得ているのか。同氏は具体額に言及しないが、「ニンジャ」の異名を持つ米国のストリーマー、タイラー・ベルビン氏が月収50万ドル以上稼ぐことを引き合いに出す。「日本でもゲームだけで生計を立てている人々はいます。ただ、ストリーマー全体のどれぐらいがそうなのかは分かりません」。

コンテンツ:ゲームを超越して

Twitchからすると、「日本市場は数年前の米国のような状況」。すなわち、「現在注力すべきはコアなゲームコンテンツであって、今後の道のりは長い」。「今最適なのはゲーミングです。よりインタラクティブなものが好ましい。スイートスポットは、2時間かそれ以上のもの。それより短ければ、何とかそこまで引っ張っていきます」。

だが、将来的にはリアルライフを取り上げたコンテンツが重要な役割を果たすという。「先進的な市場では既にそうなっています。日本でもこの種のコンテンツの視聴時間は2倍になった。ゲーマーのパーソナリティーが好きになれば、彼らの普段の生活が知りたくなる。彼らがゲームをやっていないときに何をしているのか、こうしたコンテンツで知ることができるのです」。

リアルライフのコンテンツは、増え続ける訪日客の加速化にも効果をもたらすと考える。「固定ファンを持つ我々の米国のゲーマーが、日本各地を訪れるとしましょう。例えば、スノーボードをしに北海道へ、というように。そして数時間のストリーミングをする。我々がそれを短く編集してユーチューブで公開すれば、誰もがそれを見ることができます」。「我々のコアなビジネスはあくまでもゲームであり、その意識は変わりません。その一方で、ゲーム以外の分野にも大きな関心を抱いています」。

新たなブランドにチャンスを

当然ながら、広告主の裾野を広げることもTwitchの関心事だ。つい最近、ブルームバーグビジネスウィーク誌は「Twitchのオーディエンスはハードコアなゲーマーに限られ、どちらかと言うとブランドにはアピールしない」と報じたが、アンダーソン氏はこれに反論する。確かにそのリーチ数は侮れない。Twitchの資料によれば、個性豊かなストリーマーが毎月300万人、ビジターは平均で1日1500万人以上いるという。

同氏は日本に関するデータを公開しないが、ユーザーの1日における平均消費時間は100分という。だが男女比は8対2で、男性に偏り過ぎていることも認める。「市場が拡大すれば、よりソフトなゲーマーが集まってくるでしょう。そうした人々もユーザーであるとブランドに知ってもらうことは極めて重要」。

目下のところコミュニケーションをとっているのは「ほとんどがゲーム業界に関係する企業」。だからこそ「これまで提供した広告には全て関連性があり、オーディエンスが広告メッセージを拒否するときに使うアドブロックの対象となるリスクも少ない」。だが今年の大きな目標は、ゲーム界と縁のないブランドを呼び込むことだ。「そうしたブランドに我々の事業の中で成長し、ストリーマーの収入確保をサポートしてもらいたいのです。つまり彼らをどのようにコーチングし、実のある対話に招じ入れるか。それが今年の課題です」。

ホームエンターテインメントやフードデリバリー、そして特に金融サービスなどは潜在性が高い分野と同氏は見る。「ゲーマーは急速に、誰もディスクを買わないような世界に移行しつつある。ゆえにさまざまなトランザクションにクレジットカードが必要になります」。だが日本では今のところ、こうした傾向はまだそれほど強くないという。「ゆっくりと時間をかけて変わっていくでしょう。常に誰かにカードを持ってもらいたい企業側からすれば、興味深いアングルではないでしょうか」

Twitchへの誤解と「エチケット」

ゲーミングに疎いエージェンシーの人々は、Twitchが独自のコンテンツを制作していると考えがちだ。だが実際はそうではない。「制作を手がければ、フリーのクリエイターをサポートしていくという我々の核心的テーマを歪めてしまう。Twitchはサービス企業なのです。スポンサーシップを頼めるようなコンテンツはありません。事業の中核にあるのは、消費者にコンテンツをストリーミングしてもらうこと。ある意味、啓蒙活動です」。

広告がコンテンツの邪魔をしないよう、細心の注意も払う。Twitchの広告はほとんどがスキップ可能なフルスクリーン動画で、ストリーミングの冒頭で流される15〜30秒のプリロールだ。「一度見れば、視聴者は問題ないと思ってもらえるでしょう」。「ミッドロール広告をどこで流すかは、ストリーマーの裁量。ディスプレイ広告は極めて稀で、目立たないところに表示されます。我々が最も注力しているのは、皆さんがいかにゲーミングの映像を楽しめるかということ。ですから提供するブランドの動画も、皆さんが楽しめると我々が判断するものです。一度体験してもらえれば、違和感はないと思ってもらえるはず」。

広告コンテンツに関しては、広告主には音量のレベルなどに注意するよう促す。「消費者は自分のオフィスや電車の中であれば、ヘッドホンをします。広告を作るときはどうしてもテレビなどを想定して、部屋中に音が鳴り響くような目一杯のオーディオレベルにしてしまう。それでは消費者を怒らせるだけ。いきなり大きな音を聞かされれば、広告などどうでもよくなってしまいます。Twitchや他のオンライン動画プラットフォーム向けに広告を制作する際は、消費者の環境をよく考慮すべきです」。

それに動画は、短ければ短いほど良い。「これまでの経験からすれば、最も効果を発揮する広告は15秒から30秒まで。それ以上は必要ありません」。

eコマース

Twitchを利用するのは、その大半がゲームパブリッシャー。ストリーマーは彼らのゲームに1日平均で2時間、時には5時間没頭する。それでもある種のブランドにとっては、「インフルエンサーマーケティングがより効果を発揮するでしょう」。ただし、「ある程度はインフルエンサーがうまくゲームをこなせないと意味がありません。さもなければタイアップのコンテンツも実のないものになってしまい、逆効果です」。

Twitchがアマゾン傘下であることを考慮すれば、ゆくゆくはeコマースと直接リンクすることは時間の問題だろう。「この件に関しては多くの可能性があります。ただ、それらをまだ公表していないだけ」。「アマゾンとはさまざまな調整を行っています。そのうちクライアントには、Twitch上での購買行動がブランド認知に利点があることを分かってもらえるでしょう。まだ打合せを重ねている段階なので、関連するデータはありません。ただeコマースは、我々が大いに興味を持っている分野です」。

2019年の優先事項

目下の最大の関心事は、当然ながら新たなブランド、特にこれまでゲーム界と関わりのなかった企業をTwitchに呼び込むことだ。「日本ではまだブランドが慎重に参入しつつある段階です。ゲームコンテンツへの出稿に慣れるため、ブランドはまだサポートやアドバイスが必要。欧米市場では既にブランドが独自で対応していますが」。

ドイツではマクドナルドがeスポーツへの投資を視野に、独サッカー連盟とのスポンサー契約を解消した。eスポーツのプロ化が1年前に承認されたばかりの日本ではこうした大胆な動きはまだ先の話だろうが、この市場が魅力的であることは間違いない。では、アンダーソン氏は売上目標をいくらに設定しているのだろう。「具体的には申し上げられませんが、あえて言うなら2018年は野心的な目標を達成した。今年と来年は、更に野心的な結果にしたいと考えています」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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