Sung Chang
2020年5月21日

「コロナ後」のクリエイティビティー

コロナ禍で、新たなトレンドが生まれつつある。ポストコロナのクリエイティブはどのように変わっていくのか。

「コロナ後」のクリエイティビティー

クリエイティビティーの本質に対し、その商業性をどう定義すべきか −− 我々マーケティング業界の人間がよく話し合うテーマだ。特に今は料理や子どもの養育など、日常生活の中でクリエイティビティーを発揮する人々が増えた。こうした論議はさらに盛んになるだろう。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、人の表現力はよりクリエイティブになった。自らマスクを縫い、エッツィー(Etsy、ハンドメイドやビンテージ品のオンラインショップ)に出品し、お気に入り料理や新しい料理の創作に励み、ティックトック(TikToks)の投稿に工夫を凝らす……。歴史を振り返ると、芸術のムーブメントの下地には人の活発な運動を見出すことができる。ルネッサンスが生まれたのは、異文化間のインタラクションが活性化したからだ。キュービズムはロシア革命によって触発された。モダニズムのきっかけは都市の発展と第一次世界大戦の非道さだ。では、今の我々はコロナ後にどのようなクリエイティビティーを見出すのだろう。すでに現れている3つの兆候について考えてみよう。

1.ソーシャルディスタンスが生んだ芸術

今、美術館やギャラリーは休館となり、文化的インスピレーションや学びを体感することはできない。芸術に興味がない人にとっても美術館は人気のスポットで、トリップアドバイザーが紹介するアクティビティーでは常に上位に入る。芸術はインスピレーションや安らぎで人の心をつなぐ「社会の鏡」だからだ。だが、じかに鑑賞できなくなったことで新たなトレンドが生まれた。デジタルでアクセスできる芸術だ。

ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館は、自宅にある日用品を使って名だたる芸術作品を再現しようと呼びかけた。このチャレンジには世界から多くの独創的な「再解釈」が寄せられ、オリジナル作品にも改めて関心が集まった。困難な時代にこそより多くの芸術が生まれ、新たなトレンドや技術が誕生する。それは歴史が教えてくれる。触媒の役割を果たすマーケターにとって、この史実は全く新しいキャンペーンやクリエイティブを生み出す上での重要な手がかりとなる。ブランドやクリエイティブにとっては、新たなムーブメントを後押しする好機なのだ。

ゲティ美術館が呼びかけた「チャレンジ」のツイート

2.ファッションとしてのマスク

人々がもっぱら自宅で過ごすようになり、衣料品の売上げは約60%減少した。だがヴォーグ誌は今後も発刊されていくし、ファッションのトレンドもなくなるわけではない。アパレル企業はPPE(個人用保護具)の生産に乗り出すことで、この状況にいち早く順応した。だがその理由は互助精神のほかにもう一つある。コロナ後の西洋社会で、マスクが「ニューノーマル」になるからだ。アジアでも当初、マスクはアレルギー予防のためだけに使われていた。だがやがて、都市生活のアクセサリーとして社会に受け入れられるようになった。西洋諸国でもこうした意識の変遷が起きるだろう。優れたN95マスクに加え、200ドルという高価なデザイナーマスクが販売されるようになったのは自然な流れなのだ。

デザイナーマスクが安全性や機能性を追求したプロダクトであろうと、単なるステイタスシンボルであろうと、この新たなアイテムは今後成長が見込まれる。スマートフォン用のアクセサリー市場が確立したように、これからはマスクもクリエイティブ表現の手段となろう。コミュニケーションのプロである我々は、今後この点を考慮してキャスティングや人物描写を行わなければならない。新たなブランディングやOOH(屋外広告)、そして自己表現の術として、マスクの概念を確立せねばならないのだ。

3.身近になる「食」

「食」がSNSを席巻してきたことは言うまでもない。インスタグラムでは旅行と音楽に次ぐ人気で、レストランビジネスや食文化に影響を与えてきた。しかし皆が自宅で料理するようになると、新しくてトレンディーなものよりサワードウパンやキムチといった身近なアイテムが求められるようになった(皆さんは、ダルゴナコーヒーを家で2度以上作ったことがあるだろうか?)。加えて、オーガニック野菜や全粒粉の食べ物よりも常温保存できる加工食品の売上げが伸びた。では、パンデミック収束後のインスタグラムではどのような食べ物が注目され、どのようなトレンドが生まれるのか。家でこもるための料理が引き続き人気を呼ぶのか、健康志向に再び脚光が当たるのか。

我々の食生活への考え方が逆転したとき、飲食関係のマーケターにとってクリエイティブ上の課題となるのは、健康や栄養価への意識をどのように身近な食べ物と結びつけるか、ということだろう。

ムーブメントの推進

トレンドやインスピレーションは、これからも生まれ続ける。だが鍵となるのは、誰がインスピレーションを与え、誰がフォロワーとなるかだ。5年前には「メイカーズムーブメント(ウェブ世代がデジタル技術を用いてものづくりを行う潮流。2010年に提唱された)」が浸透し、多くがそれに共鳴した。だが、この第2世代によるムーブメントは必要性と優先度に基づいたものだった。

芸術のムーブメントは大規模な社会的変革や、行動様式・価値観の変化から生まれる。そして我々は今、その創生を目の当たりにしている。重要なのは、あなたのブランドがそのムーブメントの一翼を担い推進役を果たしているか、あるいは単なる受け身なのかということだ。

経済が徐々に回復しても、人が新たに会得した考え方や習性は元に戻らないだろう。消費者はブランドをこれまでと異なる目線で捉え、異なる目的で利用するはずだ。人の行動様式が一夜で変わってしまったとき、自社のプロダクトやブランドはあなたの目にどのように映るのだろう。そして、より啓蒙されたオーディエンスに向けて、マーケターとしての自分をどのようにプレゼンテーションできるのだろうか。今、我々に問われている最大の課題と言えよう。

(文:スン・チャン 翻訳・編集:水野龍哉)

スン・チャン氏はPRエージェンシー「ウェーバー・シャンドウィック」のチーフ・インパクト・オフィサー。

提供:
Campaign US

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