Abby Ellin
2016年8月12日

セレブリティーにクリエイティブ・ディレクターは務まるのか?

バカルディからポラロイド、ブラックベリーに至るまで、米国では企業がヒップホップ界の大物や俳優たちに「クリエイティブ・ディレクター」の肩書きを与えている。多忙を極める彼らスターたちは、実際に「仕事」をしているのだろうか? その内幕に迫る。

ウィル・アイ・アムは意外にも、インテルの「クリエイティブ・イノベーション担当ディレクター」だった。
ウィル・アイ・アムは意外にも、インテルの「クリエイティブ・イノベーション担当ディレクター」だった。

グラミー賞を受賞した音楽プロデューサーであり、ラッパー、ファッション・デザイナーでもあるスウィズ・ビーツは、先ごろバカルディの「カルチャー担当クリエイティブ・チーフ」に就任した。

ビーツ(37歳)は電話インタビューでこう語った。
「この組み合わせは自然なことだ。バカルディはブランドの枠にとどまらず、本気でクリエイティビティーの力を生かそうとしている。こんな企業は今までになかったよ」
「もちろん、ある程度ブランドを打ち出していくことは必要だ。だが大きな目的は、クリエイティビティーの力を有機的かつ、確実に大衆に伝えていくことなんだ」。
「大衆の味方」を自認するブロンクス出身のヒップホップ・スターは、「伝道師」としては確かに最適なのかもしれない。

バカルディのCEOであるマイク・ドーラン氏は、「スウィズをパートナーに迎えたのは、スピリッツやカクテルの売上を伸ばすためだけではありません。人々のライフスタイルや文化的体験に直結するものとして、バカルディ・ブランドをより確立していくためなのです」と語る。

ブランドや製品とは何の関連もないのに、セレブリティーにあやかろうとする企業はバカルディだけにとどまらない。

専門的テクノロジーとは無縁のグウェン・ステファニーはHPの、レディー・ガガはポラロイドの、ジャスティン・ティンバーレイクはバドライト・プレミアムの、それぞれクリエイティブ・ディレクターを務めた。ホリデイ・イン エクスプレスはコメディアンのロブ・リグルを迎え入れるため、わざわざ役職を設けた。またニック・キャノンは、ラジオシャックのチーフ・クリエイティブ・オフィサーの要職にある。ジェイ・Zに至っては、ブルックリン・ネッツバドワイザーをはじめとする多くの企業と契約し、次々と商品を世に発表した。「素敵な髪のベッキー」相手だろうが誰だろうが、浮気をしている時間などあったのだろうか。

こうしたセレブリティーのクリエイティブ・ディレクターたちは、莫大な報酬を受け取る以外、企業のために一体何をするのだろう(そもそも彼らに何かの役割があれば、の話だが……)。その答えは、質問する相手によって様々だ。

ブランド側に尋ねると、「戦略の立案やブレインストーミング、事業計画の作成などに加わってもらっている」という答えが返ってくる。例えばステファニーはHPのCMに登場し、デジタルカメラ、フォトスマートR607の3000台限定モデル「原宿ラバーズ(Lovers)」をデザインした、と言われる。

同モデルの発売時、ステファニーはこう語っている。
「私のアルバム『ラブ.エンジェル.ミュージック.ベイビー.』と同じように、日本のテイストを取り込んだファッションやアクセサリーのラインを立ち上げることになったの」
「カメラは正に今の時代のアクセサリー。ユニークでお洒落なバージョンがあってもいいじゃない? だからこのカメラは超カワイイの」。

またポラロイドのデジタルカメラ内蔵メガネ「Polarez GL20」は、レディー・ガガがプロデュースしたことになっている。このメガネは見たものを撮影でき、ガラス部分にある液晶画面にはその画像が表示される。

リグルがこなした「最大の仕事」は、ホリデイ・イン エクスプレスの客室すべてに新しいコーヒーメーカー、否、「コーヒー抽出システム」を導入したことだ。彼のこの「スマートな貢献」は、同社のYouTubeインスタグラムツイッターフェイスブックなどのページで紹介されている。

リグル曰く、「キューリグ社製の押しボタン式コーヒー抽出機を全室に導入して、僕のこのマシンに対するほとばしる情熱をホリデイ・イン エクスプレスに送り続けるんだ」。

こうしたセレブリティーの活用を、マーケティング業界関係者は効果的であるとも、大衆に受け入れられるとも考えていない。

マッキャン・ニューヨークのアソシエイト・クリエイティブ・ディレクター、マーサ・ウェスト氏はこう述べる。
「多くの俳優やミュージシャンが、ブランドにとって有意義なクリエイティブ・アイデアをもっていることは否定できません。だとしても、彼らがアイデアをきちんとブランドに提案し、それが承認を得る、というプロセスは守られなければならない」
「ブランドとセレブリティーの関係が長続きしないのは、それなりの理由があると思います。彼らが役職に就くだけでなく、実際にクリエイティブ・ディレクターの仕事をしようとすれば片手間で済むわけがない。ほとんどのセレブリティーには、そのような時間はないでしょう」

CPBマイアミでエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターを務めるジェイ・ジェラーディ氏は、こうしたクリエイティブ・ディレクターなどの役職は「ブランド大使」を言い換えたに過ぎない、と指摘する。

「若干進化したやり方で、同じことを繰り返しているだけです。少なくとも消費者が納得してくれれば、という考えなのでしょう。(企業側が)少々切羽詰まっている感じを受けます」

RLMパブリック・リレーションズのCEO、リチャード・ラーマー氏はさらに手厳しい。同社はセレブリティーのクライアントをもち、このようなオファーを扱うこともしばしばなのだが、「企業とセレブリティーのこうした関係は、全くのデタラメです。ほとんどのブランドは、時間と金と労力を浪費しているだけ。うまくいくとは決して思えませんね」と語る。

セレブリティーを起用することの相乗効果が、実際どれほどのものかは疑わしい。問題なのは、ほとんどの場合コラボレーションの信ぴょう性が、メラニア・トランプのスピーチ並みということにある。

例えば、ブラックベリーのグローバル・クリエイティブ・ディレクターを務めたアリシア・キーズ(夫はスウィズ・ビーツ!)は、アプリ開発者やコンテンツ制作者、リテーラーたちと肩を並べて仕事をした、ということになっている。「音楽から書籍、ビデオ、アプリに至るまで、ブラックベリー10のパワーを生かし、エンターテインメント配信の強化や消費の促進で、今後キーズが主導的役割を果たしていく」と同社は発表した。

ところが間もなくキーズは、iPhoneでメールを送っている姿を偶然にも捉えられてしまったのである。彼女はニューヨーク・タイムズに、「私の心を射止めたモバイル・デバイスは、ブラックベリーだけ」と語っていたのだが……。キーズは謝罪をするどころかハッキングされたと申し立て、ブラックベリーは彼女を解任した。

他の企業は、この「過ち」から教訓を得ようとした。ラジオシャックのチーフ・レベニュー・アンド・マーケティング・オフィサー、マイケル・テイトルマン氏は、同社とニック・キャノンの関係は「嘘偽りのないもの」と言う。テイトルマン氏によれば、キャノンの方から昨夏、同社と関わりがもてないか打診をしてきたという。
「我々とニックとの繋がりは、彼の生涯を通して続いていくものです。それはほとんど運命的なものと言ってもいいでしょう。キャノンが8歳の頃、彼の祖父が亡くなり、遺品としてミキサーなどの音楽機材を譲り受けた。だがもちろん彼は、どう扱っていいかわからない。そこで地元サンディエゴにあるラジオシャックの店に行き、音楽機材の使い方を教わったのです。この話は彼のお母さんから直接聞きました。もちろん、本当の話だと思っています」

テイトルマン氏は、キャノンにどれだけ報酬を支払っているのか、そもそも報酬があるのかどうかさえ明かそうとはしない。「彼とは文字通り四六時中、コミュニケーションをとっています」とは言うのだが。

「ニックとのコラボレーションは、信じられないほど順調です。彼は木曜日はまる一日、当社で過ごす予定です。彼からは数か月前にクリスマス向けの製品に関してのスペックや色、機能などについて意見をもらっていて、最終段階にあるプロトタイプの確認をすることになっています。アイデア出しから始まって、開発のすべての過程に彼は関わっているのです」

このような企業とセレブリティーの合体が成果を生むかどうかは、別問題だ。ジェラーディ氏がかつてインテルの仕事をしていたとき、同社はクリエイティブ・イノベーション担当ディレクターとして、ミュージシャンであり活動家でもあるウィル・アイ・アムを雇っていた。だがこのインテルのアイデアは、失笑を買っただけだった。「彼がマイクロプロセッサーの開発会議で発言している姿など、誰も想像しようとしないでしょうから」と同氏は笑う。

それでも、ブラック・アイド・ピーズのリーダーでもあるウィル・アイ・アムは、新作コンピューター・チップの発表イベントに集まった想定外の聴衆を魅了した。「若者たちが大挙して、彼の話を聞きに来ました」とジェラーディ氏。

バカルディは、ビーツは「単なる『ブランド大使』ではない」と強調している。彼は実質的パートナーであり、12月にアート・バーゼルで開催したイベント同様、8月11日から14日にかけてサウス・ブロンクスで行われるアート・フェアのプログラム監修に参加しているという。

「これはアーティストが収益の100%を手にできる、あり得ないイベントだ」とビーツ。「バカルディとのパートナーシップで、単に『バカルディを飲もう』と言ってボトルを掲げるのではなく、クリエイティブなやり方で文化の融合を実現できるんだ」

(文:アビー・エリン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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