Chris Arnold
2021年5月07日

マーケとCSR、パーパスを担うべきはどちらか

パーパス(目的、存在意義)を伝えるメッセージの管理を担うべきなのはマーケティング部門だろうか、それとも、企業の社会的責任(CSR)の担当役員だろうか。

マーケとCSR、パーパスを担うべきはどちらか

消費者がブランドに求めるものが増え、価値と社会的責任を標榜するブランドに目を向けるようになっている。消費者の心をつかんでロイヤリティの獲得やブランドエクイティの形成を進めるには、こうした価値についてのコミュニケーションが極めて重要かもしれない。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、多くのブランドは、社会情勢を見つめ直し、社会的インパクトを生み出すプロジェクトを支援し、関心の高さを示すことが必須になってきた。気候変動に対する懸念も未だに深刻であり、消費者は言葉だけではない、企業の実際の行動を目にしたいと考えている。

そこで、今回はこの問題を探るために、最高マーケティング責任者(CMO)、コーポレートコミュニケーションの責任者、最高サステナビリティ責任者(CSO)などの意見を聞くとともに、筆者が創業したコミュニティエンゲージメント企業Connect 2による100社へのオンライン調査を分析した。

さまざまな部門の協力はうまくいっているだろうか。課題は何だろうか。そして、パーパス駆動型マーケティングがうわべだけのものにならないようにするにはどのような方法があるのだろうか。

成功のためには、最初から各部門の連携が必要だという点では、多くの人の意見が一致していた。社会に訴えるべきことを企業のCSR部門が一方的にマーケティング部門に通達するというのも、マーケティング部門が勝手に事を進めるというのもいけない。

そこで難しいのは、この両部門のカルチャーや考え方が大きく異なるということだ。今回の調査で、この両部門の協力がうまくいっていると回答したのはわずか25%であり、この2つの部門の信頼は必ずしも良好ではない(10%は関係がよくないと回答している)。

あるCSOなどは公共の場で、パーパス案件をマーケティング部門に任せるというのは、「スポーツカーの鍵を十代の子供に渡す」ようなものだと語っている。

Connect 2が両部門の管理職を対象として2021年2月に実施した調査によると、コーポレートパーパス(企業の存在意義)とブランドコミュニケーションは概ね並行して行われているものの、必ずしも歩調が合っているわけではないと、CSRチームとマーケティングチームの半数以上(68%)が考えていた。歩調が合っていると考えているのは3分の1未満であり、13%は実際に衝突が生じていると感じていた。

調査では、42%がコーポレートパーパスは顧客価値と「いくらか」は結合しているがまだ進展が必要だと考えており、20%が実際にアップデートを進めていた。うまく融合しているという回答は25%で、「ぴたり」と融合していると回答したのはわずか6%だった。

縦割り思考の余地はない

コーポレートパーパスと消費者が抱く価値とがうまく一致していないのだとすれば、マーケティング部門はこの問題に取り組み、消費者へのメッセージを作り直す必要がある。マーケティングとは結局のところ、ブランドと顧客をつなぐものなのだから。

ほとんどの人が、パーパスによってブランドの価値と魅力が高まると考えており、その考え方はほぼ全員が一致している。また、半数以上の企業がパーパス駆動形のマーケティングへの投資を増やしている。

グラクソ・スミスクライン(GSK)でコミュニケーションやロビー活動、持続可能性などの担当ディレクターを務めるサイモン・アッシュウェル氏は、「消費者は、ブランドが社会や環境に『良いことを行う』ことを期待しており、良いことを行うのは我々の価値であると同時にビジネス上の利益にもかなうのだ」と述べている。同氏は、GSKの各ブランドに社会的責任を伴うパーパスを組み込むことは非常に重要だと考えている。

近年、サステナビリティを最優先課題にしているCEOは多い。マーケティング側がCSRにも精通し、CSR側ももっと顧客とつながる必要があることには疑いの余地がなく、そのためには、両者がそれぞれ適応する必要があるだろう。

パンデミックがこの変化の触媒になったのは確かだ。ダイレクトライン(Direct Line)のCMOで、今はCSR担当のリサ・トレンブル氏と、彼女と密に協力しているマーク・エバンズ氏は、「パンデミックの影響でアジェンダが2年分は進んだ」と語る。ダイレクトラインはこの危機に迅速に対応し、コミュニティとの取り組みを支援するため350万ポンド(約5億3130万円)の基金を創設した。「この件では、縦割り思考や勢力争いの余地はなく、全員が協力してくれた」とエバンズ氏は続けた。

また、英国の移動体通信企業O2は先日、ウィル・カークパトリック氏を持続可能性および社会的インパクト担当の責任者に任命した。同氏はマーケティングの経験を生かし、「ソーシャルグッド」への情熱をもってこの任務にあたることになった。そのため、彼ならコーポレートパーパスをブランドパーパスに転換できるだろう。

カークパトリック氏は、CSR戦略とマーケティング戦略の間に落ちているチャンスを見いだすには、マーケティングやビジネスのマインドセットに適応する必要があると考えている。

「顧客が気に掛ける社会問題はどこにあるのか。そして自社のブランドと能力ならどこに意味のある変化を作り出せるのか。これを正しく認識することで、顧客のための価値を高めることができ、それによりブランドの意義はさらに高まり、注目も集まるのだ」とカークパトリック氏は言う。

O2との統合が進行中のバージン・メディアは、最高執行責任者(COO)のジェフ・ドッズ氏の監督下で、社会問題に重点を置いた5年間のサスティナビリティプランを立ち上げたばかりだ。このドッズ氏も元CMOであり、そのアプローチは、マーケティングが基盤になっているだけでなく、行動にも重点を置いている。

パーパス駆動型マーケティングは、消費者に心地よさをもたらすだけでなく、マーケティングとしてはこれを十分機能させることで、売り上げを増加させ、ロイヤルティを構築し、ブランドエクイティ拡大にもつなげなければならない。

世界広告主連盟(WFA)が先ごろ開催したリーダーシップカンファレンス「Themes for 2021」では、GSKのアジア太平洋地域のメディア責任者、サイラス・ルイス・メイラス氏が、今年の最大の問題のひとつとして、マーケティングとコーポレートコミュニケーション(つまりCSR)の考え方の統一を挙げた。消費者がそれを求めている限り、「パーパスとパフォーマンスを結びつける」ことはビジネス上の大きなテーマのひとつになるだろう。

パーパス駆動型マーケティングは、強引さを抑えた「大胆な」アプローチによって、新しいルールを採用する必要があると、多くの人が考えている。ブランドは単に大規模なメディアキャンペーンを展開するだけではなく、その行動と消費者とのエンゲージメントを通じて、より有意義な方法で消費者を引き寄せる必要がある。問題は、マーケティング側がそのやり方を変えられるかだ。

適切な指標が必要

そのためには、従来のコミュニケーションとは異なる方法論で、信頼できる「本物」として認識してもらう必要がある。口先だけの約束や大げさな主張、環境に配慮しているように装ういわゆる「グリーンウォッシング」を長年続けてきたため、ブランドが良いことをやるといっても消費者にはなかなか信用してもらえない。ましてや、地球を救うなどということは、信じてもらえるわけがない。

測定可能性は両部門間で議論になる、もう一つの課題だ。マーケティングが採用している手法には、CSR部門からすると「あやふや」に見えるものがあり、CSR部門側で改めて別のインパクトを測定しなければならないことも多い。RoP(パーパスの収益)の測定はビジネスにとって極めて重要だが、誰もが認める真の方法論はない。

元テレフォニカで、グッドエンデバー(Good Endeavours)の創業者であるリサ・バスフォード氏は、「社会的インパクトを測定するには、より革新的な方法を考える必要があり、マーケティング指標とCSRの指標を統合する必要がある」と述べている。

ブランドがパーパス駆動型の効果的なマーケティングを求めると、マーケティング部門とCSR部門の間に緊張関係が生じるため、双方が適応して互いの視点を理解することが必要になってくる。どちらもビジネスを前進させる重大な責任を負っているのだから。

マーケティングカインド(Marketing Kind)が先ごろ開催したセミナーでは、マーケティングの権威であるセス・ゴーディン氏が次のように話していた。「ミッションステートメントは、消費者からすれば行動になってはじめて価値をもつものだ」。ポストコロナの世界では、CSR部門、マーケティング部門、どちらのリーダーも、このことを十分理解しておかなければいけないだろう。


クリス・アーノルド博士は、クリエイティブ・オーケストラ(Creative Orchestra)のクリエイティブディレクター。著書に『Ethical Marketing and The New Consumer』がある。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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