David Blecken
2017年9月14日

ミレニアル世代が広告主に与える影響とは

ブランドがあらゆる属性の顧客層を視野に入れているか、日本の若い世代はますます厳しく見定めている。

シャワーで罪悪感を流せるという牛乳石鹸の主張に、視聴者は共感しなかった
シャワーで罪悪感を流せるという牛乳石鹸の主張に、視聴者は共感しなかった

日本の消費者は、あまり騒がないと思われてきた。ブランドのメッセージに消費者が不満を持つと、中国などでは暴動にまで発展することがあるが、これまで日本の消費者は、ブランドを軽蔑することはあったとしても騒ぎはしなかった。ブランドや商品が気に入らなければ購入を控え、それについて(少なくとも公然とは)語らないという姿勢だった。

この傾向が変化しつつある。この1年を振り返ると、配慮に欠けた広告主の態度に非難の大合唱が起こることがたびたびあった。中には、広告主が名の知れたブランドではなく、非難が集まることがなければ誰も気にも留めなかったであろうケースも見受けられる。最近話題となった例は、官能的な女優を起用した宮城県の観光誘致の動画だ。性的な表現とも受け取れる言葉や映像が多用され、多くの苦情を受けることとなり、最終的には配信中止となった。

昨年、鹿児島県志布志市が特産の養殖ウナギを紹介した風変わりな動画「うなぎのうな子」も、同様な運命を辿る結果となった。水着姿の女子高校生がウナギに姿を変え、食べられてしまうという描写を、人々は性差別や誘拐を是認するものと感じてしまったのだ。

この類の広告を作った地方都市の役人は、批判の対象になりやすい。しかし大手ブランドが同様な怒りを買っているのも事実だ。サントリーは特に不運だったといえる。4月に放送された焼酎「ふんわり鏡月」のCMシリーズは、画面に男性の姿は登場していないものの、女性とその上司の男女関係を連想させるととらえられてしまった。

サントリーはこれを教訓とできなかったようで、7月に打ち出した新たなビールの広告動画シリーズも、即座に非難が集中することとなった。若い女性が出張中のビジネスマンと飲食を共にする様子が描かれており、明らかな女性蔑視という理由で非難を受けたのだ。

似たような例では、HISトラベルが昨年発表したキャンペーンがある。フライト中に女子大生の隣に座れるという、男性を対象にしたキャンペーンで、これも短命に終わる結果になった。この手の話題は尽きることがない。

人々が冷静さを失うテーマは性差別だけではなく、ソーシャルメディアでは時として、些細なことでも炎上する。4月に放送された三ツ矢サイダーのCMには、トランペットを吹いている女性に二人の女友達が後ろから飛びついて驚かせる場面があるが、女性が前歯を折るのではないかと視聴者が問題視し、ちょっとした騒ぎとなった。だが、批判が噴出する広告には、批判されるだけの根拠があるのだろう。6月に公開された牛乳石鹸のショートフィルムには、父親が子どもの誕生日よりも同僚と飲みに行くことを優先させることを是認しているとして、非難の的となった。

数年前であれば、人々はこのようなCMに驚きこそすれ、深刻な拒絶反応までは起こさなかっただろう。消費者のリアクションの変化は世代のシフトによるもので、マーケターはその点にしっかり目を向ける必要があるだろう。

ここに挙げた事例の多くは中年男性層を対象にしたキャンペーンで、彼らが抗議を申し入れたとは考え難い。ソーシャルメディア上で憤慨しているのは、収入があろうとも消費には消極的なことで知られる、比較的若い人たちだ。ビールのCMに抗議した人たちの多くは、そもそも日頃から普通のビールを飲んでいなかったり、ビールブランドには無関心かもしれない。しかし、確固たる価値観を重んじる彼らは、ブランドが何かをミスした途端に、それがどの広告主であれ、激しく非難するのである。

「ブランドは、商品を購入しない人たちにも順応するアプローチを考えなくてはなりません」と話すのは、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンのコンテントディレクターであり、オグルヴィ・パブリック・リレーションズ・ワールドワイド・ジャパンのマネージングディレクターでもある関満亜美氏だ。「若い人たちはお金を使いませんが、企業を追い込み、戦略を変えさせてしまう力を持っています」

文句を言う人たちのことを「上品ぶっている」とか「ユーモアを理解しない」などと簡単に片付けるのは間違いだろう。エデルマン・ジャパン代表取締役社長のロス・ローブリー氏によれば、最近の事例に対する人々のリアクションは「日本が多様性の受容に向けて歩み始め、性別役割分業が変化しつつあることの表れ」とのこと。かつては一般的だったステレオタイプで、商品を売ることはもはやできないのだと語る。

今、人々は親の時代とは異なるライフスタイルを模索している。牛乳石鹸の広告は、ワークライフバランスに代表されるようなミレニアル世代の価値基準とはそぐわない生き方を描いたために、反感を招くこととなった。日本生産性本部の最近の調査を例に見てみると、企業で勤務する若い社員は、同僚と勤務時間以外に付き合うことや残業について、かつてないほど関心が低いという結果が出ている。

国際的なソーシャルメディアの普及や、国際経験が豊かな人が増えたことで、日本のミレニアル世代は意見を率直に述べることに臆さなくなったと、ローブリー氏は指摘する。

これは、広告やマーケティングの部署に古風な人材を多く抱えた、伝統のある企業にとっては大きな課題だ。そのような企業は今後、災難を防ぐために「ターゲットとする消費者のみならず社会の変化も念頭に置くよう、視野を広げていく必要がある」とローブリー氏は言う。最近矢面に立たされた企業は、ターゲット層の深堀りにおいては何も問題が無かったのだろうが、「世界が向かう方向が変化し、当初打ち出した方向性はもはや適性を欠いていた」のだという。「社会の変化はこれからも速いペースで続くでしょう。企業はしっかりそれを見極めなければなりません」

成否を左右するのは、エージェンシーとクライアントの双方における、年齢や性別の多様化の推進だろう。男性と女性が対等に関与することによって、性差別を含む広告が世に出ることはなくなる。そして、さまざまな世代層がプロジェクトに参加することで、現実を反映した、人々の共感を得る作品へと昇華するだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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