Kim Lawrie
2021年9月10日

メタバースが変えるブランドと顧客の関係

ゲーム開発会社ロブロックスが、ゲームチャットプラットフォームのギルデッドを買収した。このメタバースへの動きはゲーム業界だけでなく、あらゆるブランドが注目すべきだ。

メタバースが変えるブランドと顧客の関係

米国のゲーム開発会社ロブロックス・コーポレーション(Roblox Corporation)は、ギルデッド(Guilded)-ゲーマーたちにコミュニケーションのためのさまざまな方法を提供するプラットフォーム-を買収した。これは、デジタルとフィジカルの境界が曖昧になった世界「メタバース」への関心が高まっていることを示している。

そしてこれはまた、あらゆるブランドに行動を促すサインでもある。

ロブロックスの自社の名を冠したアプリ「ロブロックス」が、2021年7月にApp StoreとGoogle Playのゲームカテゴリで売上トップになったのは事実だ。またギルデッドは、チャットアプリで有名なディスコード(Discord)のライバルとして、当初からオンラインゲームコミュニティを統合する目的でプラットフォームを構築していた。

この買収は、ロブロックスの野心がゲームだけにとどまらないことを示唆している。パンデミックへの対応策として同社が立ち上げたバーチャルイベントスペース「パーティー・プレイス(Party Place)」や、買収したギルデッドが保有する音声チャット、動画チャット、カレンダーとスケジュールの統合管理ツールなどからも、ロブロックスにゲーム以外の目的があることは明らかだ。

ロブロックスのオンラインツールは、今やゲームを超えて進化している。それにより、誰もが没入感のあるインタラクティブな仮想空間で、イマジネーション豊かな創作活動に取り組んだり、友人と楽しく過ごしたり、仕事に励んだりできるようになった。この空間でキャンペーンを展開することも可能だ。ギルデッドがロブロックスの傘下に入ることは、こうした進化のさらなる加速を予感させる。

「メタバース」という造語は、1992年にニール・スティーブンスンが発表した小説『スノウ・クラッシュ』で初めて登場し、その後ゲームと密接に関連付けられるようになった。過去1年半で、メタバースへの関心は大いに高まっている。2020年のコロナ危機では、すべてのブランドが迅速な対応を迫られた。ロックダウンにより、多くの人は仕事から娯楽、買い物、人付き合いまで、日常生活の大半を、画面を介したオンラインで行うことを余儀なくされた。

その結果、オンラインチャネルに移行する消費者は劇的に増加した。ある調査によると、食品と家庭用品の分野では、45カ国でオンラインの顧客基盤が平均30%以上の増加率を記録したという。この間、ブランドは急ピッチでデジタルサービスを構築し、進化させてきた。

したがって、パンデミック中に最も成功した企業が、ライバルにはないさまざまなテクノロジー関連の能力を備えていたことは意外ではない。

バーバリーは、同社初のデジタル製品となる非代替性トークンコレクション(NFT)を発売し、VISAまでもが(デジタルアート作品を購入して)NFTの世界に足を踏み入れた。そうした夏を経て、世界は「新型コロナウイルスと共存する」という新たな常態に向かいつつある。向かう先は、フィジカルでの活動とデジタルでの活動が混在し、いつでも変化する可能性のある「フィジタル(Phygital)」空間だ。

人々がより多くのことをデジタルで行えるようになり(ただし再び対面で行えるようになったことも増えている)、あらゆる企業がデジタルとフィジカルでのやりとりの最適なバランスを検討しているなか、ブランドは分水嶺となる瞬間に直面している。ブランドがいま到達した変曲点は、重大な試練と大きなチャンスの両方をもたらすものであり、この先へ進むには非常に重要な次の3つの課題に対処しなければならない。

第1の課題は、デジタルが自社の戦略の中で果たすべき役割を定義し、直近のデジタルへの追加投資を有効活用しつつ、今後の投資がブランドの強みとビジネス目標の達成につながるようにすることだ。

これに対処するためには、あらゆるプラットフォームで、あらゆるインタラクションを網羅する、統合されたデジタルマーケティングキャンペーンを計画し、メッセージに一貫性を持たせる必要がある。そして、目標を達成するためには、デジタル体験をフィジカルな空間と統合することが、かつてないほど重要になっている。

これは、メタバースが生み出す利点を認識し、デジタル空間がブランド体験をどのように向上させるかを理解した上で、それを付加的なものとは捉えず、より積極的に活用し、消費者とのフィジカルなインタラクションもデザインし直すことを意味する。

その好例が、新しい高級ブティックのブラウンズ(Browns)だ。

ロンドンを拠点とするファーフェッチ(Farfetch)が最近立ち上げたこの未来型店舗は、デジタル技術(コネクテッドミラー、AR試着室、ハイタッチサービス等)の導入により、実店舗における消費者の滞在時間を延ばし、オンラインにおける接客もよりシームレスに行えるようにしている。

第2の課題は、フィジカルとデジタルの双方の空間でのコミュニケーションのバランスを取り、ブランドがこの両方の空間から得られる価値を最適化、最大化することだ。

ブランドにとって重要なのは、「リモートファースト」の観点からデザインし、増え始めたフレキシブルなユーザー層への対応を優先することだ。これは、リモートの顧客を補足的なものとみなさず、むしろリモートに合わせた最適化に取り組むことを意味する。対面とオンラインのギャップを埋め、対面でもオンラインでも顧客がFOMO(取り残されることへの不安)を感じないようにすることを優先すべきなのだ。

このような形でフィジカルな環境を再構成して、オンライン体験を最適化した好例が、イエーガーマイスター(Jagermeister)の「#SavetheNight」だ。このスピリッツブランドは、最初のロックダウン直後にオンラインでグローバルキャンペーンを開始し、パンデミックに見舞われた店舗を資金面で支えるとともに、アーティストやクリエイター、バーテンダーらをサポートした。

1年後には、店舗の営業が再開されたにもかかわらず、同社はそれまでのコンテンツに対するアプローチを完全に変更し、コンテンツの長さを調整したり、デジタルとフィジカルの体験を統合したりするなど、対面とデジタルの両方で、すべてのコンテンツをオンライン向けに最適化した。

第3の課題は、予期せぬ変化が続く傾向がますます強まる世界で、時代から取り残されることなく、柔軟性を保持するために、デジタルとフィジカルを融合させるイノベーションのマインドセットをどう培うかということだ。

ブランドはこうした要求に応えるため、すべてのチャネルで一貫性のあるデザインを行い、将来的に予期せぬ変化があったとしても、消費者とのあいだの重要な接点を途切れさせずに維持することが、とても重要となるだろう。

また、製品やサービスをよりデジタルやリモートに適したものに変え、メタバースのさらなる進化に合わせさまざまな活動を生み出す新しいプラットフォームにも注目し、探求し続ける必要がある。つまり、ブランドはデジタルとフィジカルのアプローチを統合し、個々のチャネルを介したインタラクションであれ、チャネル間のインタラクションであれ、すべてをシームレスにすることが求められる。

ここまでの説明は、冒頭のロブロックスのメタバースに向けた動きにつながっている。同社と同様な野心を持つ企業は他にもある。例えば、エピックゲームズは「メタバースの先導者」になると宣言した。フェイスブックもロブロックス風のプラットフォームを開発したクレイタ(Crayta)を買収し、「メタバース企業」になるという新たな目標を声高に掲げた。

これらの企業は、単に相互接続されたソーシャルアプリやハードウェアを構築するだけではなく、分散型で、大多数のアクセスが可能な、最大級の相互接続体験を構築することをミッションとして掲げている。

これはまさしく、ブランドへ目覚めを促すサインなのだ。


キム・ローリー氏はエンジン・クリエイティブ(Engine Creative)のクリエイティブ・テクノロジー部門責任者。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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