Matthew Keegan
2022年7月22日

リモートか、オフィスか クリエイティブへの効果

コロナ禍で日常化したリモートワーク。だが、社員のクリエイティビティーを引き出すのに果たして最善の手段なのか。各エージェンシー幹部に現在のワークモデルを尋ねた。

リモートか、オフィスか クリエイティブへの効果

テスラのイーロン・マスクCEOが従業員に対し、少なくとも週40時間の出社を求めたのは先月のことだ。それに従わない者は「辞職扱いにする」とも明言した。

リモートワークを認めようとしないビジネスリーダーは彼だけではない。新型コロナウイルスが特別な疾病でなくなるにつれ、多くのエージェンシーが従業員にオフィスに戻るよう働きかけている。だがクリエイティビティーが重視される業界で、これは最善のアプローチなのか。

意見は2つに分かれる。リモートワークはクリエイティビティーとコラボレーションを妨げるという人もいれば、オフィスでの様々な「雑音」を遮断し、クリエイティビティーを飛躍させる −− 多くのアーティストが自分のスタジオで創作に励むように −− という人もいる。

どちらが正解なのか、まだ明快な答えはない。英科学誌ネイチャーが5カ国で行った調査では、ビデオ会議はクリエイティブな発想を鈍らせるという結果が出た。だがアイデアの選択に関しては、対面ミーティングと同様の有効性があるともいう。

結論は出しづらい。だがマスク氏が言い張るように、エージェンシーも従業員をオフィスに連れ戻すべきなのか。それとも、変わりつつある働き方を元に戻すべきではないのか。

「マスク氏がどう考えようが、ワークモデルは進化しているのです」というのはディジタス・オーストラリアのクリエイティブディレクター、トーマス・マクマレン氏。「従業員も生身の人間であることを我々は改めて認識した。彼らに人生の3分の1をオフィスで過ごすよう強要することは、もはや適切ではないでしょう」

実は同氏も、部下にはできるだけオフィスにいてほしいと考えている。もちろん、あくまでも必要性があればの話だが。

「従業員が好むからリモートを取り入れる、というのは短絡的思考です。管理職層には、オフィスで働くことやアナログ文化の価値を率先して部下に示してほしい。人との触れ合いが仕事に良い影響を与えることを証明してほしいのです。そして、可能な時にはリモートも適切な働き方であることを示してほしい」

VCCPは3年半前にシンガポール・オフィスを開設した。以降、コロナ対応のワークシフトは2年近くに及んだ。今、従業員がオフィスに戻ったことをクレイグ・メイプルストンCEOは心から歓迎している。

「我々の基本はオフィスで共に働くこと。リモートはあくまでも補完的なもので、必要最低限の措置です。この2つの働き方が逆転することはない。従業員には自宅ではなく、オフィスで働いてほしい」

オフィスで働くことのメリットはコラボレーションの機会創出と、同僚やクライアントと過ごす時間にあると同氏はいう。「クライアントを再びオフィスに迎えられるのは本当に嬉しい。クライアントと向き合って仕事をし、関係性を深められるのは私にとって最大の喜びです」

柔軟性が生むクリエイティビティー

フルタイムのリモートワークか、それともオフィスか −− 二者択一ではなく、もっと柔軟なアプローチがクリエイティビティーを活性化させると考えるエージェンシーもある。

「コロナ禍でも我々の生産性とクリエイティビティーは落ちなかった。むしろ向上しました。これまでで最も優れた弊社の作品は、この3年間で生まれたのです」。こう話すのは電通インターナショナル・東南アジア担当人事ディレクター、イボンヌ・タン氏だ。「従業員を敬い、信頼し、かつ柔軟性を与えることで自分に最も適した働き方を実践してもらう。クリエイティビティーをさらに高めるため、このアプローチは引き続きニューノーマル時代の指針になります」

バイナーメディアAPACのマネージングディレクター、ティム・リンドレー氏は「週に5日間オフィスで働く時代は終わった」と話す。「自分の価値観に即した生き方を実践するため、人々は柔軟性を求めている。リモートで働くからといって、クリエイティビティーが制約を受けるとは思いません」

「弊社の従業員はリモートワークを『アートフォーム』の域に高めてくれた。対面のミーティングを一度もせずに、素晴らしい仕事をしてくれたのです。我々の仕事の多くはいずれにせよボーダーレス。国をまたがる従業員の間には強い絆があります。これは極めて重要なことです」

バイナーメディアは現在シンガポールにAPAC本社を建設中で、ハイブリッド型のワークモデルを導入する予定だ。

「オフィスのスペースはとても大きく、リモートで足りない部分を補完する役割を果たします。チームで共同作業をしたり、インフルエンサーと仕事をしたり、イベントを開いたり、コンテンツを作ったり……。従業員全員の絆がこれまで以上に強くなることを期待しています」

クリエイティブの質とリモートワーク

「コロナ禍になる前も、オフィスの中で優れたアイデアが出ることはあまりありませんでした」と話すのはDDBグループ・メルボルンのエグゼクティブクリエイティブディレクター(ECD)、プセンビ・キンスタン氏。

「弊社のクリエイティブはこれまでもリモートを活用してきた。通勤のバスや電車の中ではなく、外国や海辺の家、あるいは家族や友人たちと過ごす時間を増やし、仕事をこなす。そして週に1〜2日は自分の趣味に没頭する。こうした生活のリズムがより良いクリエイティブを生み出すのです」

だが、オフィスこそ仕事仲間とのコラボレーションに最適の場であり、優れたクリエイティブワークを生む場と考える人もいる。

「クリエイティブブリーフの作成やアイデア出し、プレゼンテーション、フィードバックに関する打合せ……全て対面の方が良い結果が出ます」というのはVCCPのメイプルストン氏。「100%のリモートワークでは決して優れたクリエイティブワークは生み出せない。皆が集まることで刺激し合い、生まれるエネルギーは決してバーチャルでは生まれません」

バーチューAPACのマネージングディレクター、レスリー・ジョン氏は反対意見だ。「リモートの方がオフィスよりもクリエイティビティーを発揮できる」と主張する。

「オープンオフィスは従業員の直接的な交流やコラボレーションを活性化させるために考案されましたが、十分機能しないことが証明された。現代のオフィスはもうほとんどがそういうつくりになっていますが……」

節目節目でオフィスに集い、作業することの重要性はジョン氏も理解する。それでも個々に十分なスペースと時間を確保させ、1人で仕事に集中できるような環境を与えることが肝要という。

「決まった曜日や時間に出社させるのではなく、各々のチームがいつ集まればいいかを話し合って決める。このやり方がビジネスや生産性、クリエイティビティーの面で非常にうまく機能しています」

ウィーアーソーシャル・シンガポールのクリエイティブディレクター、アディティア・ディーパン氏は、1人で過ごす時間がクリエイティビティーにとってとても重要と話す。「時間とスペースを確保することで、アイデアをじっくり練ることができる。良いアイデアが浮かべば、ワッツアップ(WhatsApp)で即座に同僚にメッセージを送ればいいのです。1人でいることは、決してクリエイティブの妨げにはなりません」

「働く場所を自由に選べるスタイルは今後も続いていくでしょう。この業界ではその方が仕事の効率が上がると証明されています」

もちろん、アイデアの創出やコラボレーションのほかに、ピッチやクライアントとのミーティングもある。メイプルストン氏は対面のミーティングに優るものはないと訴える。「対面することで『化学反応』が起こり、関係性が深まり、アイデアを理解してもらえる。ピッチで優位に立てることは疑いの余地がありません」

「この数年はバーチャルで化学反応を起こさねばならなかった。バーチャルはミーティングの本当の意義を損ねてしまいます。さらにひどいことに、クライアントにはカメラをオンにすることすら拒否する人がいる。『ブラックボックス』の中で顔も見えない相手とコラボレーションをしなければならないのは、決して愉快ではありません」

さらに、クリエイティビティーとは「優れたアイデアを生み出すことだけではない」とも。「信頼するクライアントにアイデアを認めてもらわねばならないのです。バーチャルのプレゼンではパーソナルタッチが失われ、クライアントには否定と肯定の相反する印象を与えかねない。スキルだけではなく、チームの情熱を伝えることはバーチャルでは極めて難しい。ひと言で言うなら、我々は対面の方がより良いアイデアを売り込めるのです」

ハイブリッドは未来の形か

今後も対面を好む人、リモートを好む人で意見は別れるだろう。クリエイティビティーに関しても同様だ。人との直接的な交流からインスピレーションを得る人もいれば、他人に邪魔をされず、1人の方がクリエイティビティーを発揮できるという人もいる。ゆえに、今後は双方を認めるのが適切ではないか。ハイブリッド型こそ将来にふさわしいアプローチであり、あらゆる嗜好とワークモデルを包含できるのだ。

「人との直接的な触れ合いが生み出す効果はもちろん承知しています。特にクリエイティブプロセスではメリットが大きい。ですから、柔軟性のあるハイブリッドこそ将来の形でしょう。従業員は仕事と生活双方のバランスが取れますから」。こう話すのはMBCSマレーシアCEO、スタンリー・クレメント氏だ。「往復の通勤に費やす時間は大きな無駄。この時間を最愛の人との会話や近所への買い物、大好きな趣味、あるいは効果的な昼寝などに使えば、再びエネルギーをチャージでき、効率的に仕事ができる。結果的にメンタルヘルスを良い状態に保て、全体的な生産性が上がるのです。生産性こそ、我々が最も重視する点ですから」

TBWAフィリピンのチーフクリエイティブオフィサー(CCO)、メルヴィン・マンガダ氏は、過去2年間でクリエイティブプロセスが「いかに柔軟なもので、場所と時間に限定されないかを皆が認識した」と話す。

「この2年は皆が自宅に急造したオフィスで1人で働いていましたが、バーチャルではつながっていた。そのような状態でも我々は優れたキャンペーンを生み出しました。リモートワークはノーマルな時代の従来型思考では否定されたであろう、新たな可能性を示したのです」

実務面の課題を挙げるなら、「企業は個人の在宅用機器や通信費にもっと予算を割り当て、オフィスの経費を削減すべき」(マンガダ氏)。「我々はテクノロジーにもう一度目を向け、まだ十二分に活用できていないことを再認識すべきでしょう。旧システムで時間とお金、人材がいかに無駄に使われてきたかを改めて知ったのですから」

バーチューのジョン氏は、「我々がこれまで続けてきたハイブリッド型がコロナ禍で世の中に認められただけ。今後もこのスタイルを続けていく」と話す。

「各自で最適な働き方は異なる。ゆえに重要なのは、企業の文化やビジョン、目標を従業員に的確に理解してもらうこと。そして企業は個人やチームを信用し、適度な自由と柔軟性を与える。こうした方針が彼らのクリエイティビティーを最大限に引き出し、彼らは企業のニーズに沿った最大限の貢献をしてくれるのです」

(文:マシュー・キーガン 翻訳・編集:水野龍哉)

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