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2018年11月22日

世界マーケティング短信:「遺伝子研究」に挑むブランド

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

東京・二子玉川で展示されたパナソニックの「ゲノムハウス」
東京・二子玉川で展示されたパナソニックの「ゲノムハウス」

遺伝子解析の活用について、議論が必要だ

パナソニックはマッキャン・ミレニアルズと共に、人間の遺伝子データを活用して住まいをデザインするコンセプト展「GENOME HOUSE(ゲノムハウス)」を、21日より開催している。今回の展示でモデルとなったのは、ジーンクエストの高橋祥子CEO。同社は、個人の体質や特徴に対する一般の関心が高まってきている中で、2013年に創業した、遺伝子解析を行うベンチャー企業だ。展示されているモデルハウスは、乾燥肌を補うためベッドリネンにシアバターが織り込まれていたり、起床時間が遅めである高橋氏が気持ちよく目覚められるよう調光する照明を導入、祖先がインドネシアにいたと解析で判明したため同国産の床材や植物を配するなど、同氏の体質を反映したデザインとなっている。

個人の遺伝子データに基づいた製品づくりという考え方は常識外れとか、恐ろしいものとすら考える者もいるだろう。一方で、データ主導型のインサイト(洞察)の最高峰とみる者もいるだろう。パナソニックのイノベーションチームのチーフデザイナー、今枝侑哉氏によると、このプロジェクトの潜在力について議論を進めるには、コンセプトを実際に形にしてみることが必要だったという。人々が足を運びやすいよう、展示会場は若いファミリー層に人気な二子玉川を選んだ。パナソニックが遺伝子解析に関心を持った理由は、マーケティングに活かすこと自体にあったのではなく、人々の暮らしを最適化したいと望んでいたためだ、と今枝氏。だが遺伝子データがマーケティングの世界にも大きな影響を及ぼすことは、マッキャンのような会社が関与していることからも明らかだろう。今枝氏はまた、このテーマは率直な議論が必要だろうと語っており、その点において我々も同意する。近いうちに、詳細を検討していく予定だ。

プログラマティックの成長は頭打ちか

調査会社ゼニスは、世界におけるプログラマティックメディアへの支出が今年は24%増で、来年は伸びが鈍化するという最新予測を出した。2019年はデジタルメディアへの広告支出のほぼ3分の2がプログラマティックとなり、19%増の840億米ドル(約9兆4千万円)に。2020年は更に成長が鈍り、17%になると発表。世界における2大市場は米国(406億ドル)と中国(79億ドル)だ。

ニュースの視点:
成長の鈍化は、プログラマティックが多くの国々でデジタルメディア取引の主要な手段になったことを表す。更にゼニスはその要因として、より多くのブランドがプログラマティック広告の効果を高めようとデータやインフラストラクチャーに投資していることを挙げる。プログラマティックは広く取り入れられるようになり、多くの企業がインハウスで行うようになった。だが透明性と、時に根本的な理解が欠けていることもあり、多くのマーケターにとって依然ハードルとなっている。

醜聞続くフェイスブック、徐々に窮地か

広告界の分析に関し、世界で最も耳目を集めるアナリストと言ってもいいピボタル・リサーチのブライアン・ウィーザー氏。同氏は今週、「マーケターはフェイスブック(FB)の利用を真剣に考え直した方がいい」というメッセージを投資家に向けて送った。これは、FBの新たな不当行為を暴いた11月14日付のニューヨーク・タイムズ紙の報道を受けてのもの。FBは同社を批判するアクティビストの信用を傷つけるキャンペーンを展開するなど、世論を歪める取り組みを行ったというのだ。いまだに巨額の収益を得ているFBだが、「度重なる否定的報道で、今後は徐々に弱体化していく可能性がある」とウィーザー氏。

「マーケターがすぐに支出を抑えるようなことはないかもしれないが、FBへ投ずる予算の精査は厳しさを増すだろう。次の不祥事でFBの幹部が釈明に費やす時間が増すように」。更に「FBで働く、あるいは今後働こうとする人々がモラルを重視するかどうかを問わず、同社が人材を確保し、維持できるかというのは投資家が考慮すべきもう1つの無形的要素だ」とも述べている。

グーグル、パブリッシャーを財政面で支援

グーグルは、アジア太平洋地域のジャーナリストとパブリッシャーに向けた基金を設立すると発表した。「報道への斬新なアプローチと新たなビジネスモデルのサポート」が狙い。「アジア太平洋GNIイノベーションチャレンジ」と名付けられたこのプログラムは、選んだプロジェクトに最大で30万ドルを支給し、グーグルが総経費の70%までを賄うというもの。これは同社が3月に立ち上げた「グーグル・ニュース・イニシアチブ(GNI)」の一環。パブリッシャーに持続的な収入源を提供、蔓延するフェイクニュースに対抗し、質の高いジャーナリズムを世界で直接的にサポートしていくことを目的とする。

ニュースの視点:
フェイスブックとともに出版界を破壊したとされる企業の、正しい方向への小さな1歩だ。それでも、このプロジェクトに対するグーグルの動機は今ひとつはっきりしない。同社がデジタル広告を独占しているという事実は別としても、パブリッシャーは数多くの課題に直面している。率直に見れば、この取り組みは業界のイノベーションを促し、サポートするとして結果的には歓迎されるだろう。グーグル自体のイノベーションは減速した。だからと言って、同社がパブリッシャーのようなプレッシャーを受けているわけではないが、テック業界の企業はどこも現状に甘んじている余裕などないことも確かだ。

D&Gが示した、中国での失敗例

イタリアの高級ファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」が中国で非難を浴びている。中国人モデルが巨大なイタリア菓子を箸で食べようとするユーモラスな動画が、人種差別に当たるというのだ。この作品は皮肉にも「DG Loves China」というシリーズの一環。同ブランドにとって中国は最大市場の1つで、あるソーシャルメディア評論家は「D&Gが愛しているのは中国そのものではなく、中国のお金なのだろう」と皮肉っている。

ニュースの視点:
高級ブランドは依然、ソーシャルメディアにふさわしい表現方法を見つけあぐねている。今回の人種差別は別にしても、最高級市場を狙うブランドにとってユーモアをはき違えたアプローチは危険性をはらむ。また今回の件は、アジアでマーケティングを行う欧米ブランドがいまだに実情をまったく理解していないことも表している。中国で高級品ブームが起きたのは既に10年ほど前のこと。市場に適応する時間はブランド側に十分あったはずだ。

標準的イギリス英語は不人気 

テレビ局だけでなく広告主も「よりフレンドリーな」英語の方言を好み、上流階級風のアクセントで話す声優は敬遠される −− そんな興味深い記事をウォール・ストリート・ジャーナル紙が掲載した。こうした傾向は確かにしばらく続いていたが、このところ加速化し、「BBC英語」を話す俳優は職を見つけるのに苦労するほどだという。

振り返って、日本は中産階級を基礎とした平等主義的社会を誇りとしている。だがマスマーケット向けのブランドが、秋田弁や青森弁を広告に取り入れる可能性は果たしてあるのだろうか。

もう1つ、今週注目すべきはアップルのホリデーシーズン向け広告。3分間のアニメーションで、他人から拒絶されるのを恐れクリエイティブな才能を公にしない女の子のストーリー。あなたはどう受けとめるだろうか。



(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

来週のニュースレターの発行は、お休みさせていただきます。

提供:
Campaign Japan

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