Surekha Ragavan
2020年5月14日

中国は「PR戦争」の敗者か?

「コロナ後」を見据え、中国は巨額の資金を注ぎ込んでイメージ回復を目指す。その戦略は果たして功を奏すのか。

中国は「PR戦争」の敗者か?

中国はもともと、多くの国々から好感を持たれているとは言えない。この数カ月、そうした反中感情は一気に高まりをみせた。特にコロナ禍で深刻な被害を受けた欧米は顕著だった。

要因は一つではない。新型コロナウイルス発生時の情報の隠蔽、感染者や死亡者数に関する公式発表への不信……疑惑が何であれ、中国のイメージは世界で大きく損なわれている。中国に今必要なのは、言うまでもなく透明性と信頼性だ。

プロパガンダかPR

失墜した評判を回復するため、中国政府は何十億ドルもの予算を使い、国の内外でPR活動に精を出す。

「中国政府がまず行ったのは、過去に国内で成功したツールの見直しです。それらを今、海外仕様に変換しようとしている」。こう話すのは、グローバルコミュニケーション企業「アリソン・アンド・パートナーズ(A+K)」でグローバル・コーポレート・アフェアーズを担うデビッド・ウルフ氏。

「つまりそれは、我々がプロパガンダと呼んできたものです。中国共産党は最近になって『パブリシティー』と呼ぶようになった。呼称が変わっても、内容に大きな差異はありませんが」

同氏は以前、A+K社の中国戦略担当マネージングディレクターを務めた。過去に、「中国におけるPR 〜 ブランドの構築と保護」という著書がある。

中国を糾弾する英国のタブロイド紙「ザ・サン」(電子版)の記事。「中国に賠償を求めよ」とある


中国共産党が現在行っている主たるキャンペーンは、従来型のオウンドメディアやアーンドメディアを活用したものだ。国内ではこれまで国民を「感化する」ために行われてきた。例えば、ディベートの中でジャーナリストが政府に都合の良い意見を誘導するなど、その手法はさまざまだ。

だがこれは、中国に限ったことではないだろう。世界のどこであっても、政府やブランドがジャーナリストを懐柔することはこれまで珍しくなかった。結果として、パブリックアフェアーズやライフスタイルといった幅広いジャーナリズムで偏向したストーリーが発表されてきたのだ。2020年の現在においても、客観性が極めて高い出版物やジャーナリストは稀と言える。

だがウルフ氏は、中国のやり方はこうしたケースと異なるという。「異議を唱えるジャーナリストを封じ込めるやり方は、一線を超えています。政府の影響力が弱まるとみれば、こうした記者を平気で追放してしまいますから」。

この3月、中国政府は米国の主要3紙、ウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズの駐中記者13人を事実上の国外追放に処した。より言論の自由が保障されているはずの、香港とマカオでの取材活動も禁止。新型コロナ感染拡大の最中に講じられたこの措置は、中国がコロナに関して何か隠しているのではないかという疑念を一層広げる結果となった。さらなる世界的な信用失墜につながったことは言うまでもない。

だがそれと同時に、中国政府が統制するアーンドメディアが世界の至る所で活動を活発化させた。中心的役割を担ったのが中国中央電視台(CCTV)や新華社通信、中国国際放送といった国家の所有機関だ。これらのメディアは世界各地で多言語によるサービスを展開する。

「中国におけるロックダウンが感染を防止しつつある」と、中国政府を讃える新華社通信のウェブサイト「新華網」


ソーシャルメディア上では、「50セント・パーティー(政党)」と揶揄される策略を推し進めた。これは、中国共産党から雇われたインターネットコメンテーターが投稿で党の政策を賞賛するたびに、推定で50セントを受け取れることから生まれた言葉だ。

「それでも、すべてのコメンテーターがお金を目的にやっていると取るのは間違いで、半数は純粋な愛国心から投稿している」とウルフ氏。現在、中国の「ペイドインフルエンサー」網はオンラインインフルエンサーをはじめ、各国政府官僚、国際NGO職員、学者などさまざまな職種に張り巡らされている。

「中国はこうした取り組みをこの数カ月で倍加させた。『コロナ禍に欧米よりもずっと迅速に対応した』という肯定的なイメージ作りは難しいにしても、ニュートラルなイメージだけは取り戻しておきたいからです」

ここで留意したいのは、中国共産党が100年近くにわたり国内キャンペーンを繰り返してきたという事実だ。「蒋介石と袂を分かった1920年代の国共分裂時に、共産党は国内での情報操作が飛躍的に上達した。特に周囲が追い落としを狙っているような状況であれば、そのスキルは確実に上がります」。

中国式コミュニケーションへの不信

だが中国共産党がどれだけ巧みにメディアを操ろうとも、中国国外の、特に非中国系の人々から信頼を得るのはたやすいことではない。国内ですら、国民は国営メディアより家族やインフルエンサーを信頼する傾向がずっと強いのだ。

「中国が事実を隠蔽」 −− ワシントン・ポストの記事を引用して中国を非難する、トークショー・ホストのツイート


「国際的信用があるメディアのジャーナリストを追放すれば、中国が透明性を度外視していることがはっきりしてしまう。これは大きな問題です。世界の人々に信頼されたければ、中国も我々の共通ルールに従う必要がある。言葉よりも行動が、常に雄弁に物語るのです」

「美辞麗句を並べ、どのように素晴らしい映像を見せようとも、言行不一致であれば人々の信頼を勝ち取ることはできません」

だがこうした今の中国の立場は、逆に「世界でのイメージを変える大きなチャンスになる」ともウルフ氏はいう。

「もし、中国政府がこのように言ったらどうでしょう。『事実をすべてお話ししましょう。このパンデミックは我々にとって初めての事態です。例え我々が過ちを犯していたとしても、真実を話せば世界の人々が教訓を得られますから』」

「これこそ、国内外から本当の信頼を獲得するためのアプローチです。ほんの一歩だけ、前に踏み出すだけでいい。そうすれば一夜にして達成できるのです。しかしこれまでのように詭弁で逃れようとするのなら、信頼の確立には長い歳月がかかるでしょう」

「マスク外交」は是か非か

中国はこれまで強硬手段を用い、短期間で新型コロナを克服しようとしている。そして今は、そこから得た教訓を世界に向けて発信する時 −− 少なくとも中国はそう考えている、と西側諸国はみる。

他国に医療物資や医療従事者を送る中国の取り組み −− しばしば「マスク外交」と呼ばれる −− は、西側から懐疑的にみられている。「その最も大きな理由は、援助の実態にあります」とウルフ氏。

「西側は、中国が欧州に行っている援助は本義的な援助ではないと捉えている。実際は有償の援助ですから。それに、中国が公表している感染者や死亡者数は疑わしい。そうなると、さまざまな疑問が浮かび上がります。中国の援助は果たして彼らが言うほど効果的なのか。であるなら、彼らの医療手段をすべて受け入れるべきなのか。あるいは、物資を受け入れるだけでよいのか。はたまた、ほかの事態を想定しなければならないのか……」

中国・武漢から戻った医療チームを出迎える瀋陽の人々


報道では、アジアの国々は中国からの援助に対してずっと好意的のようだ。カンボジアやフィリピン、ミャンマー、パキスタン、マレーシアなどに派遣された中国の医療チームは現地で温かい歓迎を受けた。それはなぜか。

「文化的な共通性にあると思います。中国はこれまで、アジアでポジティブなプレイヤーとしてのイメージを確立するために多大な努力を続けてきた。その結果、中国が政治・経済的に成し遂げてきたことはアジアで称賛を受けています。相手に銃口を突きつけずにここまで自国の地位を高めたのは、アジアの国として史上初めてでしょう」

「同時にアジア諸国は、『龍』と近しい関係を築いても『鷲』を追い払うようなことはしたくない。地域での超大国の影響力は均等に保っておきたいのです。どちらか一方が主導権を握るのは、望ましくないと考えています」

一方のトランプ米大統領は、自身の政策の稚拙さを隠すことも狙いつつ、新型コロナを「中国ウイルス」と公言するなど中国の行動を率先して批判してきた。

ニューヨーク・タイムズは、米国務省が「他国への援助に関して中国とパブリシティーで競っていく方針を固めた」と報道した。それを示すかのように、国務省のサイトには今回のパンデミックで「対外援助に約5億米ドル(550億円)が投じられた」と記され、マイク・ポンペイオ国務長官は「今後、米国ほどさまざまな形で支援を行っていく国は世界にないだろう」と発言した。

こうしたシナリオになると、中国の問題も浮かび上がる。5月初旬には、「中国共産党が世界からの批判に対抗するため、国粋的な姿勢を強めている」という報道があった。中国外交官が赴任国の経済への打撃に言及したり、感謝の意を表明するよう強要したりしているというのだ。

救いの手を差し伸べる行為がPR戦略そのものであったとしても、「中国を拒絶する理由はない」とウルフ氏。「少なくとも今の時点で、中国からのこうした圧力を多くの国が訴えているわけではありません。今問題になっているのは、医師を受け入れるか否かという話。平和維持軍の受け入れではないのです」。

つまるところ、人命に優先されるPR戦略や国際政治の課題などない −− ということなのか。

(文:サレハ・ラガヴァン 翻訳・編集:水野龍哉)

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PR Week

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