Tetsuya Honda
2017年5月10日

「事実のおすみつき」と「共感のおすみつき」

情報過多な社会で、生活者の取捨選択を後押しするのは、事実系と共感系の「2つのインフルエンサー」だ。

本田哲也氏
本田哲也氏

 「インフルエンサー」が注目されている。2017年2月、日本でもっとも影響力のあるエンターテインメント企業のひとつである吉本興業は、およそ6000人の芸人をインフルエンサーとして活用する事業を開始した。今もっとも勢いのある女性アイドルグループである「乃木坂46」の最新シングル、その名も『インフルエンサー』は初登場でランキング1位を獲得。グローバルに目を向けても、世界最大の化粧品会社ロレアルは、インフルエンサー15人と年間契約した「ロレアルリーグ」を2016年に立ち上げた。

 私たちは情報が溢れる時代を生きている。生活者一人ひとりの価値観や嗜好は、これまでにないほど多様化している。こんな時代だから、誰もが誰かの「おすみつき」を求めている。生活者の情報選択や行動変容にインフルエンサーが果たす役割は、ますます重要になってきているのは間違いない。ただし、猫も杓子もインフルエンサーというわけにはいかない。「とにかくフォロワーが多いインスタグラマーを巻き込もう!」という安易な発想では、本来のインフルエンサーマーケティングとはいえない。

 今重要なことは、さまざまなインフルエンサーの役割を体系的に捉えることだ。マーケティングにおけるインフルエンサーという概念は一般化したが、同時に多様化もずいぶん進んだ。さまざまな専門家やエキスパート。華やかなセレブリティ。そしてブロガー、ユーチューバー、インスタグラマーといったデジタルインフルエンサー。この4月に私が上梓した『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』では、6つの法則のひとつとして「おすみつき」(=インフルエンサーによる信頼性の確保)を挙げている。今回は、戦略PRの観点からインフルエンサーの役割を大きく2つに整理してみよう。

 インフルエンサーが担うのは、第三者的なおすみつき=推奨・支持行為だ。しかし、その役割をさらに分解していくと、大きく2つの領域に分かれる。「事実のおすみつき」と「共感のおすみつき」だ。「事実のおすみつき」とは、主に専門分野の実証や実行であることが多い。事実系インフルエンサーは主に、特定領域の専門家やエキスパート。平たくいえば、「あの人がやるのだから間違いがない」というおすみつきだ。一方の「共感のおすみつき」は、心理的なフォロー効果を狙うものだ。「あの人が言うから心を動かされる」というおすみつきで、共感系インフルエンサーとしてはセレブリティやユーチューバー、最近ではインスタグラマーが相当するだろう。このように、どちらかといえばPRにおける事実系インフルエンサーは発信するコンテンツの信憑性を高め、共感系インフルエンサーは発信力そのものを高める。

もちろん、この2つはそれぞれが完全に独立した役割とも限らない。一人のインフルエンサーが、双方の役割を果たすことだってある。分かりやすい例で言えば、セレブ化した皮膚科の女性専門医(事実系インフルエンサーが共感系インフルエンサーも兼ねる)だったり、栄養学の専門性を身につけたママモデル(共感系インフルエンサーが事実系インフルエンサーも兼ねる)だったりといった具合だ。

 「インフルエンサーはどうやって巻き込むべきか?」――講演会などで真っ先に聞かれる質問だ。私が大切だと思っているのは、インフルエンサーの「発信文脈(コンテクスト)」だ。普段から何を主張しているのか、何を広めようとしているのか、何の第一人者なのか。ここをお金で買っているかどうかだ。普段から主張していないことを主張してもらうのに対価が発生していたら、それは純然たる「広告起用」である。

 よって、インフルエンサーの起用には、知名度やフォロワー数もさることながら、発信文脈の見極めも大事なのだ。同じ美容領域や健康領域でも、主張している文脈はインフルエンサーによって微妙に違っていたりする。この発信文脈が、こちらがPRする文脈に合っているかどうか。PRでつくりたい「空気」は、インフルエンサーの発信文脈に齟齬がないものかどうか。これこそ「お金で買えない」最たるものだ。

(ブルーカレント・ジャパン)


本田哲也
ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長

(編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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