David Blecken
2019年3月25日

五輪は「否定的報道」に耐えられるか

東京五輪の招致活動をめぐる不正疑惑の中、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が退任を表明した。果たして「オリンピックブランド」に傷はつくのだろうか。

3月19日、退任を表明し記者の取材に応じる竹田恒和JOC会長。(写真:チャーリー・トリバルー / AFP)
3月19日、退任を表明し記者の取材に応じる竹田恒和JOC会長。(写真:チャーリー・トリバルー / AFP)

五輪にまつわる醜聞は決して尽きない。先週、2020年東京五輪・パラリンピック大会招致を巡る不正疑惑の渦中にある竹田恒和JOC会長が退任を表明した。

竹田氏は国際陸上競技連盟(IAAF)前会長のラミン・ディアク氏とその息子への贈賄容疑を全面否定。だが報道によると、竹田氏の退任はトーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長が東京五輪開催まで1年を祝う今年7月のイベントへの出席を拒否したことがきっかけだったという。バッハ会長は、来日によって竹田氏を巡る疑惑に巻き込まれるのを避けた形だ。

スポーツ界最大のイベントとして、五輪は今でも計り知れないインパクトを生む。だがいまだ絶えることのない不正疑惑は、五輪の「影の部分」を忘れてはならないことへの警鐘に相違ない。2016年リオ五輪は予想以上の成功を収めたが、大会責任者だったブラジル・オリンピック委員会(BOC)のカルロス・ヌズマン会長は同様の贈賄容疑で逮捕された。

五輪の存在意義を損ねかねないこうした醜聞の中で、五輪はブランドとしての価値を維持していけるのだろうか。ラッキージェネラル(Lucky General)社傘下のスポーツスポンサーシップ・エージェンシー、ダークホース(Dark Horses)の設立者サイモン・デント氏は「永遠に続くブランドなどない」としつつも、「五輪ほどの興奮と熱狂を生むスポーツの祭典はありません。今後もスポンサーを魅了し続けていくでしょう」という。

「それは他のスポーツイベントでも同じ。最近では国際サッカー連盟(FIFA)の名が不正疑惑で大きく傷つきましたが、その後も“ショー”は続いています」

ロンドンでスポーツとソーシャルメディアのマーケティングを扱う独立系企業スナックメディア(Snack Media)のディレクター、ルパート・プラット氏は「五輪ブランドはさまざまな委員会 −− その多くは一時的な組織 −− によって守られている」という。汚職疑惑が起きるとこれら組織が衝撃の緩衝材となり、ブランド価値を守るというのだ。

「五輪のマーク、アスリート、大会、そして開催国……。これらが揃うことで比類なきスポーツと文化のイベントが成立する。人々が本当に関心を持っているのは、大会そのものだけです。五輪は絶対的なブランド。大会が始まれば、ほかのことは全て忘れられてしまう。ここに巨大なスポーツイベントの力の源があります」

デント氏は、疑惑を消し去るのに「大会の歴史とノスタルジアが大きな働きをする」という。「五輪スポンサーは大会のメリットを喧伝する素晴らしい働きをする。そのために準備段階での否定的報道は大概かき消されてしまいます。人々は五輪を商業的イベントとしては見ていない。大会のためにベストを尽くすアスリートを見れば、醜聞など忘れてしまうのです」。

「たとえ腐敗があっても五輪からはヒューマンなストーリーが必ず生まれる。オーディエンスはそれに共感せずにはいられないのです」

観測筋も、度重なる疑惑が致命的なダメージにつながるようなことはないだろうと見る。「IOCは無傷のまま存続していくでしょう。決して終わりがないわけではありませんが、大会が始まればそれ以前の出来事はあっと言う間に忘れられてしまう。これこそが五輪の最大のメリットです」。

「それが良いことだとは決して言いませんが、P&Gのような巨大な国際的企業が、風評によってブランドの一つを廃止しても存続していくのと同じこと。一つの大会でブランド価値を失うようなことがあっても、IOCは次の大会でまた新たな価値を作り上げてしまうのです」

では、今回の2020年東京大会に関する疑惑はどうなのか。五輪スポンサーのアドバイザーを務めるティム・クロウ氏はこう述べる。「今回の事件の意味は重大で、日本では大きなニュースになっていますが、国際的な影響はほとんどありません。特にFIFAやソルトレーク(2002年冬季五輪大会)の際の醜聞と比較すれば」。

事態が急速に悪化しない限り、海外に影響を及ぼすことはないというのが彼らの見方だ。「残念なことに、この手の汚職はあらゆるスポーツ界で当たり前。組織の人間はひと括りにして葬り去ってしまう」と同氏。

「日本で大会が始まる来年までに、この事件にまつわる報道は忘れられてしまうでしょう」とデント氏。「今の時点で東京大会はまだ英国人の視野には入っていない。スポンサー企業がさまざまな活動を始めるのは来春からだと思います」。

大会にとってより深刻な懸念は、何十年も続くドーピング問題だとクロウ氏は述べる。「五輪の精神を破壊しかねないより重要な問題です。しかし、それですら人々は忘れてしまう。五輪が生み出す特別な価値が、そうした疑念を棚上げにしてしまうからです」。

「組織の評判がガタ落ちになっても、その組織が催す大会が人々にとって特別なものであるならば、大会は存続していくことをFIFAは証明した。この点こそ、今のIOCにとって最も重要な課題なのです。大会をどのように維持し、時代に合ったものにするか。もしIOCが崩壊すれば、全てのスポーツ界もそうなってしまいますから」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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