Staff
2019年9月30日

命を救う手順がダンスチャレンジで拡散

いつ目の前で、人が倒れるかは分からない。命を救う心肺蘇生法を、楽しく学べるダンスチャレンジがこの夏、TikTokで話題となった。

命を救う手順がダンスチャレンジで拡散

短尺の動画を手軽に撮影し投稿できるプラットフォームとして、急成長中のTikTok(ティックトック)。アップテンポな曲に合わせて楽しく踊る動画の中に、覚えておくと人命救助に役立ちそうなダンスチャレンジがある。

心肺蘇生法(CPR)の普及を目的とした「#BPM100 DANCE CHALLENGE」だ。

この企画の背景にあるのは、交通事故や水難事故などの悲しいニュース。だが「事故数はもちろんですが、同様に生存率も重要だと考え、着目しました」と語るのは、日本赤十字社の軽部真和氏だ。

病気やケガなどが原因で心機能が停止した人に対し、2分以内に心肺蘇生を開始すれば、救命率は約90%だが、5分経過すると約25%にまで下がる。救急車が現場に到着するのにかかる時間は、平均8.5分(平成28年)。救急車到着までの間に、その場に居合わせた人たちが即座にCPRを開始することが、救命率の向上において肝要なのだ。

日本の心停止からの生存率は極めて低い

CPRは、胸骨圧迫と人工呼吸を組み合わせて行う。声をかけながら肩を叩いてみて、反応が鈍い場合には、119番通報とAED手配の協力を周りに仰ぐ。通常どおりの呼吸がないようであれば、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返すというのが手順だ(人工呼吸は省略しても可能とされる傾向にある)。かなりの速さで力強く、そして絶え間なく押し下げる胸骨圧迫を一人で続けるのは非常に疲れるため、何人かで交代しながら行うことが望ましい。

しかし、「特に日本の心停止からの生存率(10%前後)は、欧米(60~70%)に比べて極めて低いものでした」とTBWA HAKUHODOの荒井信洋氏は打ち明ける。「もちろん、さまざまな団体が講習やガイドブックを通じてCPRの普及に努めています。しかし、若者にとって、それらは楽しいものではなく、興味も認知も未だに低いという事実がありました」

そこで、水難事故などで心肺停止の患者が増加する夏に向け、若者へのCPR普及を目指す「#BPM100 DANCE PROJECT」委員会が発足した。心肺蘇生の手順をもとにした振り付けを、胸骨圧迫に適正といわれるリズム(1分間に100~120回)の楽曲に合わせて踊るチャレンジが、TikTokで7月1日より開始。ゴールは「BPM100のリズムとダンスを通じて、CPRの認知率を高めること。そして、いつか一人でも多くの人の命を救うこと」だという。

EXILE ÜSAが監修した約15秒間の振り付けには、倒れている人を発見してから救急車を呼び、胸骨圧迫を行うまでのポイントが盛り込まれている。

「#BPM100 DANCE PROJECTは、1分間に100回が最適といわれるCPRのテンポと動きを、ダンスと音楽に翻訳したエデュテインメント(教育的要素のあるエンターテインメント)コンテンツです。特に関心や認知の低い若者に対してCPRを普及させるため、日本赤十字社はTikTokと組んで、この体験を拡散させようと考えました」(荒井氏)

ユーザーの個性が、他のユーザーの参加を促す

体験を拡散させる手段として、TikTokを選んだ理由について、荒井氏は「人から人へ一つの動きが広がり、世界中の人が踊る。そんな様子を見て、この全く新しいプラットフォームの力を活用できると考えました」と述べる。特に、1分間に100回の胸骨圧迫が求められるCPRのリズムは、TikTok上で踊りやすいBPM100のリズムとシンクロしている。「リズム、そして動きを、楽しく広げ、体で覚えてもらう最高の場だと確信し、アイデアの開発を始めました」

ダンスとTikTokの力を掛け合わせることで、CPRはソーシャル上で急速に拡散していった。ローンチから約2カ月間で、動画再生回数3020万回、いいね数151万を獲得。これは、CPRのキャンペーンとして前例の無いほど高い数値なのだとか。

数値では測れない、予想外のインパクトも生まれた。Z世代だけでなく、年配の方や子どもまで幅広い人がこのダンスを体験したのだ。さらに、「驚くことに、現役の医療関係者も自主的に参加し、同じゴールに向けて手を取り合うことになったのです。その結果、若者と医療関係者が人命救急に関して、コメント欄を通じて意見や質問を交わすことになりました。こんな光景は、今までソーシャルメディアで見たことがありません」と喜びをあらわす。

プロジェクトを通じて荒井氏は、TikTokユーザーの創造性こそが、他のプラットフォームにはない強みだと確信した。「単に同じダンスが広がる訳ではなく、一つの振り付けに対してユーザーが自分の個性を発揮させる。その結果、見ていて楽しいだけでなく、自分もその輪に入りたいというインサイトを強く刺激するのです」。だからこそ、プロジェクトチームはCPRを、エンターテインメントコンテンツに翻訳することに成功したのだと語る。「これからTikTokは、数億人ものユーザーの多様なクリエイティビティーによって、さらに多くのブランドの課題を解決すると思っています」

「#BPM100 DANCE PROJECTを通じて、命が救われた事例はまだ報告されていません」と荒井氏。「しかし、我々の究極のゴールは、人がCPRを知ることではなく、人がCPRを実践して命を救うこと。一人でも多くの命を救うために、活動は続けていきます」

【クレジット】
TBWA HAKUHODO
佐藤 カズー(Chief Creative Officer)
荒井 信洋(Creative Director)
橘田 幸之佑(Communication Designer/Word Player)
袴田 喬(Digital Creative Lead/Art Director)

提供:
Campaign Japan

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