David Blecken
2017年4月25日

日本での躍進のカギは、ダイバーシティーの力強い推進

日本法人マッキャン・ワールドグループ ホールディングスの社長就任から1年になるチャールズ・カデル氏は、大きな社会的課題に取り組むことで同社の地位向上に努める。

チャールズ・カデル氏
チャールズ・カデル氏

チャールズ・カデル氏がシンガポールから東京に拠点を移し、マッキャン・ワールドグループ・ジャパンおよびアジア太平洋地域を指揮するようになって1年余り経った。日本法人をより魅力的な職場にする上での大きな取り組み、変革への姿勢、そしてどのような足跡を残したいか語ってくれた。

日本市場が世界から再評価されていることを楽観視していると、昨年日本に移る前に語っていました。今もその見方は変わりませんか?

ええ、ビジネスにおいては今もそう思っています。中国経済が減速し、国際的な成長をどこに求めたらいいかと模索するクライアントが今、日本市場を再評価しています。この基本的な流れは変わっていません。各国のクライアントが日本への関心を高めており、日本市場への投資額を増やしています。その多くが、オリンピックがもたらすビジネスチャンスを見込んだもの。日本企業の海外進出は永遠のテーマでしたが、これまで大きな影響力を持つことはできていませんでした。しかし今、BtoB(企業間取引)でCRMを導入しており、状況が変わってきています。日本市場への投資という決断が結実してきており、見方を変える理由は見当たりませんね。

マッキャンのアジア太平洋地域における収益性という面で、日本はどのような立ち位置ですか?

近年は中国が成長しているので、日本はアジア太平洋地域の中で2番目の市場です。

片木康行氏が退任した理由は
 
日本でマッキャンというブランドに、大きな変革をもたらす必要がありました。そして、それは新しいリーダーシップの下で行うのが最も効果的だと、お互いに考えたためです。

東京に移ってから遂行した、最も重要な変革は何ですか?

ほぼ人材関連に尽きますね。アジアでの人材獲得は非常に難しいものでしたが、日本はそれをはるかに上回る、これまで経験したことがない熾烈さです。当社を、仕事をするのにベストな場所にしていこうと注力しており、そのためには現状を大きく変える必要があります。例えば女性やワーキングマザー、若者が職場で役割を果たしたり、発言できるようになれるよう、ポジティブアクション(被差別者への優遇措置)に取り組んでいます。労働環境にも目を向けており、勤務時間や在宅勤務など、もっと柔軟な仕組みが必要だと考えています。ホットデスキング(複数人でデスクを共有すること)を導入すれば、スタッフが常にオフィスにいる必要もなくなるでしょう。通勤はほとんどのオフィスワーカーにとって辛いもの。だからこそ在宅勤務が可能であることや、それを会社として技術的に支える姿勢であることを強調しています。

プレミアムフライデーは導入していますか?
 

はい。でも単なるきっかけに終わらせず、組織の根幹となる概念として定着させていきたいと考えています。時間外労働には目を光らせ、最小限に抑えるべく尽力しています。

キャリアプランニングも重視しています。皆がマッキャン・ワールドグループをフル活用できるようにするにはどうしたらよいか、考えねばなりません。社員には海外勤務の選択肢を提示する他、世界におけるマッキャンのプレゼンスを活用し、自分が大きなネットワークの一員であることを実感してもらえるように務めています。

スタッフの評価方法も変えています。マネージャーは、部下が休暇をきちんと取り、健やかに仕事に臨めるよう監督する責任を負っています。多国籍企業の広告会社で働くことにはメリットがある、そう我々は信じていますから、その点を日本でも協調していきたいですね。

マッキャンが目指すワーク・ライフ・バランスには、クライアントも賛同していますか?

全てのクライアントに、社員の労働時間管理への協力を依頼しました。「誰かを必要以上に忙しくさせようと意図する人などいない」ということが起点となっており、信用・信頼が根底にあります。しかし現実には、広告会社はクライアントにノーと言えないという考え方や、締め切りを抱えているというクライアントの事情もあります。なので、広告会社とクライアントの仕事の進め方を見て、双方が何をどのように変えることができるかを考え、実行していくことが必要なのです。

それは「午後10時消灯」ということになりますか?

いいえ、それはやっていません。一人一人の労働時間をきめ細かく見て、スタッフが毎日、毎週、毎月、何時に退社しているかを把握しています。報告とフィードバックのサイクルを徹底して回す仕組みもあります。重要なのは、形だけの取り組みでなく、問題の本質を見極めること。文化や社会の慣習に挑むことになるので、時間もかかるでしょう。「午後10時消灯」と言うよりずっと難しい仕事ですし、率直に言って、そんな掛け声は意味がありませんね。

誰もが変革の必要性について語りますが、現実には、今までと違った人材を採用することに広告会社はまだ消極的です。これに対してはどのような取り組みを?

先週、41名の人材担当者を朝のミーティングに招き、私たちが望むのはどんな人材なのか説明しました。今までのやり方に興味は無いということを伝えたかったのです。当社がやりたいことを実現するには、今までと同じ大学で同じ学位を取った、同じような人に目を向け続けていてはだめでしょう。関心があるのは興味深い人々、面白い人々です。我々が求める資質を備えた人がいたら、適したポジションはいくらでも見つけることができるのですから。今年は21人の新卒を採用しましたが、これほど多くの人を採用したのは数十年の間で初めてです。その理由を問われれば、私は「彼らは若く、会社を前進させてくれるから」と答えています。

上級職の採用はどのように考えていますか?

キャリアの途中にある人を採用することには何の異論もありませんが、どのレベルの話であれ、外部から人を連れてくることは重要です。しかし、実績を上げることなくビジョンを語るのは、あまり意味がないと思います。

最近マッキャンのある女性クリエイティブディレクターに取材したところ、「女性の問題について意見を述べるとフェミニストのように見られるから控えるように」と複数の男性の先輩から言われたと語っていました。これについてのあなたの見解をお聞かせください。

これは私たちが非常に改善していきたい点です。文化や慣例の中には、間違っていると思われるものもあり、その結果、女性管理職やワーキングマザーの数が少な過ぎるという状態をもたらしています。だから、ポジティブアクションに力を入れているのです。ダイバーシティーとは、ただ単に多様な人材がいればいいというものではありません。当社は女性管理職や、子どもを持つことを選択した女性の数を増やしていきたいと考えています。「家族を持つには一番いい会社だと思ったから」という理由で選ばれる会社になりたいですね。

しかし、プレッシャーがかかっているのは子どもを持つ女性だけではないことも、忘れてはなりません。子どもを持つ男性や、高齢の親を抱える人たちも同じなのです。フレックスタイム制は子を持つ人のためだけのものでなく、今後もっと大きなテーマになるでしょう。日本の労働環境、そして人々の暮らし方に変化を起こし、足跡を残したいですね。とても壮大な目標だと思います。

(文:デイビッド・ブレッケン 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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