David Blecken
2019年4月25日

日本の選挙に欠ける「真のコミュニケーション」

立候補者に関する情報は乏しく、投票率は低下するばかり……今の選挙に必要なのは騒々しいスピーカーではなく、有権者への真摯なアプローチだ。

中央区議の選挙ポスター掲示板
中央区議の選挙ポスター掲示板

統一地方選挙が行われたこの4月。東京では20日までの選挙運動期間中、相も変わらず候補者たちはスピーカーで街中に騒音をまき散らした。白い手袋をはめたアシスタントたちで鈴なりの選挙カー(この車は有権者の税金で賄われている)から、候補者はひたすら自分の名を連呼して手を振り続ける。聞くに値するような政策を訴える者はほとんどいない。候補者すらおらず、録音されたメッセージをがなり立てるだけの選挙カーもあった。

こうしたキャンペーン手法は、候補者たちがPRやコミュニケーションの意味をほとんど理解していないことを示す。だが、日本の選挙では典型的なスタイルなのだ。多くの有権者がそれに冷淡な反応を示すのは当然と言えよう。総務省によれば、今年の平均投票率は市長選で47.5%、市議選では45.6%にとどまった(この数字は米国に比べれば高く、地方選の投票率は15%を下回る)。

市民一人ひとりに直接影響があるはずの地方議会選の投票率は、1940年代から確実に下がり続けている。政府の統計によると、1947年に80%超だったのが、2015年には50%を下回るまでになった。

特に若年層は選挙への関心を失っているようだ。昨年の衆議院選 −− 投票率では地方選と同じような推移を示している −− における20代の若者の投票率は30%に満たなかった。ちなみに30代では43%だった。

選挙カーのスピーカーに蓋をし、選挙運動をする梶谷優香氏。


問題の一端は、有権者が賢明な選択をするための分かりやすい情報が十分に行き渡っていないことだ。

匿名希望のある大学准教授は、「候補者の情報を入手するのにひどく手間がかかり、時間を要するのが有権者にとっての大きな難点」と話す。それでもスピーカーを使った選挙運動は、少なくとも候補者にとって「まったく役に立たないわけではない」。

「名前を限りなく連呼しても政策を理解してはもらえないが、名前だけは覚えてもらえる」と同氏。東京都議会議員の鈴木邦和氏は、「ある研究で有権者は耳にしたことのある候補者に投票するという結果が出ている」という。「有権者が候補者を選ぶのにかける時間はせいぜい3〜5分。候補者を比べることすらせず、名前や所属政党、写真で判断する人も多いようです」。

鈴木氏は東京大学在籍中、「日本政治.com」というサイトを立ち上げた。政治課題を解説したり、投票マッチングサービス(候補者の情報を提供し、有権者が自分の考え方に最も近い候補者を選べる仕組み)を提供したりするサイトだ。

候補者は選挙ポスター掲示板でプロフィールを紹介するほか、ビラを配布することで政策を訴える。ある年配の有権者は、このビラが「最大の情報源」と話す。確かにビラは各候補者の比較を可能にするが、載っている情報は一貫性がない。手書きの公約や、時には政治と無関係の個人的な実績まで記載されており、奇妙な印象は否めない。東京都の中央区議選に出馬したある候補者は、彼が長年行ってきた献血の回数をアピールしていた。

コンサルティング会社マカイラの藤井宏一郎CEOは、こうしたキャンペーンは「投票に行こうという有権者の気持ちを間違いなくそぎ、政治のイメージを損ねる」と話す。だが、中にはほかとは異なるアプローチを試みる候補者もいる。中央区議選に立憲民主党から立候補した梶谷優香氏は、選挙運動にスピーカーを使わないことをアピールポイントとし、1700票を獲得して当選した。

地方選挙は当選に多くの票を必要としない。そのためこうした選挙運動は「費用対効果が高く、インターネットを使った本格的なキャンペーンなどはコストがかかりすぎる」と藤井氏。インターネットを使った選挙運動は2013年に解禁となったが、「最初の数年はうまく機能しなかった」とも。

「インターネットを使っても候補者は有権者をうまく取り込めず、政治や選挙に対する関心は低いままでした。今年の統一地方選でも、こうした状況はあまり変わらなかった」

視覚障がい者向けの選挙情報サイト「聞こえる選挙」をヤフーと共同で開発した電通のクリエイティブディレクター、木田東吾氏は「若者は政治への関心を失っている。自分たちの声は社会に反映されず、政治家は若年層へのアプローチを怠っていると考えている」と話す。「彼らが日常的に使っているメディアを利用して取り込めば、状況を変えられるでしょう」。候補者にとって従来的な「握手」や市民との直接交流も依然として重要ながら、「テクノロジーを活用することでより幅広いアプローチができるはずです」。

各候補者の訴えを載せた中央区の選挙公報


藤井氏は、「候補者は新しいプラットフォームを理解しようとしていない」ともいう。「若年層にアピールするため、多くは文章よりもイメージや動画を重視します。共産党が先月、TikTokにアカウントを作りましたが、これは特異な例。候補者の資質が最も大切なのは言うまでもありませんが、若年層にリーチするにはソーシャルメディアやブログが最善の手段でしょう」。東京都北区長選に立候補した音喜多駿氏は、新たな政党を結成するためツイッターを駆使、クラウドファンディングで1千万円以上を集めた。

中央区議選のもう一人の候補者、穂積勇起氏も選挙カーやスピーカーを一切使用しなかった。代わりに有権者と直接対話できるよう、ツイッターやグーグルマップで常に自分の居場所を公表。電子メールでも直接意見を募った。だが政党に頼らず無所属の出馬だったため、得票数985票で落選。それでも、煩わしい慣習を打破し、新しい世代の共感を呼び込もうとした挑戦であったことは間違いない。

選挙運動を意義あるものにする手法の一つが討論会だ。前出の准教授は、「候補者に公開討論会への参加を義務づけ、その模様を単独のサイトで中継するべき」と話す。

「候補者の資質を判断するにはそれが良い方法でしょう」と鈴木氏。だが昨今、討論会は滅多に開かれない。たとえ開かれても、候補者が司会者からの質問に答えるだけで終わってしまうケースが多い。「(そういうやり方では)候補者のレベルを上げ、有権者に意義ある情報を提供するという意味で不十分」と同氏。加えて、「当選者の議会活動を評価する仕組みも必要です」とも。

驚くべきことに、ロシアにはリアルタイムで市民が首長とコミュニケーションを取れるシステムがあるという。「モスクワでは市長がアプリを使って市民と毎週対話をし、その結果が政策に反映されています」(鈴木氏)。「民意をリアルタイムで汲み取る」ことで、市民は行政に継続的な関与ができる。それにより、有権者は次の選挙で場当たり的でない、賢明な選択ができるのだ。

(文:デイヴィッド・ブレッケン 取材協力:田崎亮子 翻訳・編集:水野龍哉)

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