Chris Davis
2023年3月16日

「デ・インフルエンシング」は、目覚めた巨人だ

デ・インフルエンシングとは、いったい何か?そして、それは業界にどんな影響をもたらすのか?

「デ・インフルエンシング」は、目覚めた巨人だ

反乱」「アンチ広告の誕生」「インフルエンサーの終焉」──これらは、グーグルで「デ・インフルエンシングとは?」と検索すると出てくるキーワードの例だ。そしてこれについては、業界でもさまざまな議論が巻き起こっている。

インターネットで調べるか、ティックトック(TikTok)をスクロールすれば(#デ・インフルエンシングのビュー数は2億を超える)、それが「ソーシャルメディアを席巻しているトレンドの一つであり、インフルエンサーが火付け役となったネガティブな製品レビュー」の意味だと推測できる。

だが、あなたがブランドマーケターで、そう推測しているなら、最近の歴史の中でも最も象徴的なマーケティングの重要な変化を見落としているかもしれない。このトレンドにはもちろん課題も多いが、同時に、無視できないほど大きなチャンスと学びも秘められている。

デ・インフルエンシングとは何であり、何でないのか

まず、デ・インフルエンシングとは何かだけではなく、何でないかを理解することが重要だ。

デ・インフルエンシングは、キャンセルカルチャー(不買運動)ではない。もちろん、冒頭で紹介したようなインフルエンサーの終焉でも、インフルエンサーマーケティングの終焉でもない。むしろその真逆だ。

なぜなら、デ・インフルエンシングは、人にものを売るときにどうやって信用を勝ち取るかの方向性を示しているからだ。

その方向性は、インフルエンサーが、正直で詳細なフィードバックを通して「買ってはいけないもの」をコミュニティに共有することで、関与を示そうとする姿にも見てとれるだろう。

社会経済的・環境的な要因が働いている

デ・インフルエンシングは、社会・経済的要因に、地球の環境問題が重なって、「消費文化への嫌悪感」が醸成されたことの反映でもある。

つまり人々は、四六時中、何かを売り込まれることにうんざりしているのだ。特に、高度にフィルタリングされ、磨き上げられたレンズを通して、不健康な理想的生活を吹き込まれることに嫌気がさしている。そうではなく、地球が滅亡しないことをこそ望んでいるのだ。

「あなたに必要なもの」を次々と紹介し、それらを使うためにお金を費やすように促してくるオンライン広告の氾濫は、現在の経済の不確実性やそれが個人消費に与える影響とは、あまりに対照的だ。

人々は、(インフルエンサー自身も含め)生活費の危機をひしひしと感じており、消費スタイルを見直し始めている。そのため、最も人間的なマーケティング形態の一つに、大きな変化が起きているとしても不思議なことではない。

インフルエンサーマーケティングは、マーケターが優先的に取り組むようになったことで、2022年の世界市場規模が2019年から2倍以上に拡大し、164億ドル(約2兆2060億円)にまで達したと試算されている。かつて、インフルエンサーマーケティングは、主に認知度やエンゲージメントを高めるための、「ファネル上部」の活動と見なされていた。

それが大きく変化した背景には、ソーシャルコマースの進歩が大きく関わっている。そして、インフルエンサーはソーシャルメディアの枠を超え、他チャネルにまで進出することで、その影響力を証明してきた。

ブランドにとっては絶好の機会

インフルエンサーマーケティングは、ファネル全体に及んでおり、ここに絶好の機会がある。ブランドは、インフルエンサーと長期的かつ信頼性と透明性が高い関係を育む必要があり、その方法を知ることが不可欠になってきた。キャンペーン開発の早い段階で、インフルエンサーに参加してもらうことも必要だろう。

イングランド公衆衛生庁の仕事で、若者たちに新型コロナのワクチン接種やロックダウンの重要性を伝える必要があった際、我々はゲーム系ユーチューバーとフォーカスグループを開催し、「新型コロナウイルス感染症に関するルールを破りたくなる理由」についてヒアリングを行った。

そのフォーカスグループで得られたさまざまなインサイトは、その後のキャンペーンで、重要なメッセージやポジショニングを考える際の参考となった。

また、英勅許公認会計士協会(ACCA)との仕事では、Z世代に「会計士は刺激的なキャリアだ」と考えてもらえるよう、意識変革を促すことが課題だった。我々は、インスタグラムストーリーを使ってアンケート調査を行い、Z世代のオーディエンスが会計という仕事をどう捉えているかについてのインサイトを集め、それを元に、インスタグラム、ティックトック、スナップ(ARレンズ)等でキャンペーンを展開した。

また、常設のアンバサダープログラムを通じて、イベントへの関心と参加申込みを促進した(ガーディアンのオンラインイベントは、過去最多の申込み数を記録した)。その後我々は、ACCAの新入生の動向を追跡できるようになった。

キャンペーンをケーキにたとえるなら、インフルエンサーは、ケーキの飾りではなく、小麦とイーストだ。インフルエンサーこそが主体なのだ。現在目の当たりにしているデ・インフルエンシング運動が、それを証明している。

建設的な批判にも対応できるプランが、かつてないほど重要になっている。ブランドはこれを、コミュニティー・マネジメントを強化するチャンスと捉えるべきだろう。

批判を恐れるのではなく、率直なフィードバックを喜んで受け入れた方がいい。インフルエンサーとそのオーディエンスの会話に参加(ときにはリード)すれば、より効果的に関わることができる。

コメントにも積極的に回答し、そこから得られたインサイトを製品開発に生かすべきだ。そして、フィードバックを採り入れた成果を、コミュニティにも伝えよう。

TikTokという目覚まし時計

我々のBytesights(バイトダンス調査)データでは、#デ・インフルエンシングの流行はすでにピークを越えたようだが、これが単なる一過性のトレンドでないことは確かだ。このようなコンテンツは新しいものではないし、今後も続いていくだろう。

これは「何かに反対」しているわけではない。「フォトショップで加工された雑誌広告」への反対運動や、「顔が全く違うセルフィー」に対する抗議キャンペーンを覚えているだろうか?

そうした反対運動とデ・インフルエンシングが違うところは、デ・インフルエンシングのほうがはるかに網羅的で、おそらくは前者をも包含しているということだ。

デ・インフルエンシングは、私たちが目覚めさせなくてはならない巨人であり、そのための目覚まし時計がティックトックという形を借りてアラームを鳴らしたのだ。

ティックトックは、フィルターも加工もない、リアルなコンテンツの代名詞だ。完璧に調整されたアルゴリズムのおかげで、人々(特に若者)が、自分の属するトライブ(コミュニティ)を見つけ、育む場所になっている。

ティックトックは、インフルエンサーとブランドがともに、数百万人のファンから脚光を浴び、収益をあげる発射台の役割を果たしているが、一方で、小規模なマイクロインフルエンサーや帰属意識の高いマイクロコミュニティを育む場にもなっている。

ブランドが顧客に対して誠意を示したいと思うように、インフルエンサーも、コミュニティに忠誠を示したいと思っている。

現在目にしているデ・インフルエンシングを、その始まりまでさかのぼると、ティックトックのマイクロコミュニティで、好きなものや嫌いなものについて、本音をぶつけ合って語りあう場面にたどり着くはずだ。

人は人を信じる

今、インフルエンサーマーケティングがうまくいっている理由は、そもそもこの方法がうまく作用する原理と同じだ。つまり、人は結局、ブランドより人を信じるということだ。

私たちがデ・インフルエンシングという現象で目にしているのは、突き詰めれば、「マーケティングに正直さと信頼性を求める声が高まっていることの表れ」だと言えるだろう。信頼は、人々が本当に価値を認め、関わりたいという思いとつながっている。

ブランドは、こうした現象を、インフルエンサーと上手く連携し、ターゲットオーディエンスと効果的にエンゲージするチャンスと捉えるべきだ。私たちが暮らす激動世界の現実に即して、耳を傾け、学び、対応する必要がある。

インフルエンサーマーケティングの幅広い魅力と強力な成果を得るためには、インフルエンサーの「真実の声」を受け入れ、長期にわたる誠実なパートナーシップを構築することが必要だ。

何よりも、マーケティングとは、もはや単に「売ること」だけではあり得ないのだ。皮肉なことだが、この事実を早く認めれば認めるほど、成果は早く手に入るだろう。


クリス・デイビス氏は、Brainlabs傘下Fanbytesのグロース責任者。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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