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2019年2月15日

世界マーケティング短信:広告大手の成長をリードするインターパブリック

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

リー・クロウ氏
リー・クロウ氏

リー・クロウ氏、TBWAを去る

TBWAのメディアアート担当グローバルディレクターであり、TBWAメディア・アーツ・ラボの創設者兼チェアマンのリー・クロウ氏が、75歳で辞任し、名誉会長となる。クロウ氏は、アップルの伝説的なCM「1984」など、独創性豊かで世の中に大きな影響を与えた広告を、多数手掛けてきた。

「クリエイティブの革命は起こる」と信じるクロウ氏だが、それはクリエイティブに携わる者たちがテクノロジーの正しい使い方を理解できて初めて実現するという。「テクノロジー主導でなく、アーティストがテクノロジーを道具として活用することに意識を集中させ続け、いかに新しいメディアツールが驚くほど美しい作品のキャンバスになり得るかを考え出す。そうすることによって、私が『スペシャル・メディア・アーティスト』と呼ぶもののターニングポイントになることを願っています」

広告大手各社が決算を発表

電通グループの2018年のオーガニック成長率は+3.4%、そのうち国内事業が+2.1%、海外事業(電通イージス・ネットワーク)が+4.3%であった。オムニコムグループ(+2.6%)やピュブリシスグループ(+0.1%)をしのぐ成長率だが、インターパブリック・グループ(+5.5%)には及ばなかった。

オムニコムグループのオーガニック成長率は+2.6%(通期)で、今年も同等となると予測している。第4四半期のオーガニック成長率は+3.2%であった。一方で、オムニコムより小規模なインターパブリック・グループは+5.5%(通期)、第4四半期は+7.1%。10月のアクシオム(Acxiom)買収が事業に与える影響は楽観的であると、マイケル・ロスCEOは語っていた。

ピュブリシスグループは先週、オーガニック成長率がわずか+0.1%であったことを発表。米国の日用消費財メーカーが従来型広告への支出を1億7000米ドル以上削減したと発表後にピュブリシスの株価が急落、これが響いた結果となった。

ARの時代、ついに到来か?

拡張現実(AR)は、使い方の難しさや使い勝手の悪さなどさまざまな理由から、商用利用が本当の意味で実現したといえないのが正直なところ。だがブランド側の熱が冷めたわけではない。レゴは今週、衣服を売るポップアップストアをロンドンで出店。店舗内にはスナップチャットのコード以外は何も無く、コードをスキャンするとマネキンやDJブース、アーケードゲーム機などが空間内に出現するという仕組みになっている。企画を実施したのは、1993年よりレゴとライセンス契約を結ぶデンマークのアパレル会社、カブーキ(Kabooki)。今日からは同市内で、ロンドン・ファッション・ウィークも開催される。確かにまだギミックの域を出ない技術だが、規模の大きさを考えれば、今後が期待できるといえよう。

アップルもまた、AR技術に本腰を入れるようだ。ブルームバーグによると、ARに特化したマーケティング責任者としてフランク・カサノバ氏を任命したとのこと。カサノバ氏はかつて、アイフォーンのシニアマーケターを務めた。

マスターカードが新しい決済音を発表

マスターカードが、新ロゴから社名を削除して1カ月、今度は新しいサウンドアイデンティティーを発表した。マスターカードで決済した際に(オンライン、オフライン共に)流れる決済音はさまざまな場所で耳にするため、ブランドの象徴といえる存在だ。ビザ(VISA)が2017年に発表した2音で構成される決済音よりも2秒長く、より印象的だ。決済音は、マスター(原典)のメロディーをもとに作られており(飛行機内で離陸を待つ間に流れる音楽のようだ)、このメロディーは他にも音を使うブランディングの場で活用されていく。同社のアジア太平洋地域担当マーケティング責任者、ルストム・ダストア氏によると、サウンドアイデンティティー開発の根底には、とても簡単に決済できるようになりクレジットカード会社の存在が忘れ去られるリスクが増す中で、マスターカードというブランドの存在感を高めたいという思いがあったという。

クリックスルー率至上主義への警鐘

広告キャンペーンの効果測定には、クリックスルー率よりも意味のある指標を重視するべきだが、数百もの広告主がクリックスルー率に重点を置き過ぎている――英インターネット広告協議会(IAB)がこのように指摘した。IABはBMW、ユニリーバ、P&Gなど100以上のブランドに宛てた公開書簡で、クリックスルー率のように「空虚な」指標を使うことをやめ、計量経済学的な手法やアトリビューション分析、ブランド認知への影響などといったアプローチから効果を計るべきだと提案している(ちなみに書簡の文体は、長く付き合った恋人に別れを告げる手紙のようなものである)。

「大切なのは、自分たちが長期的に目指すゴールは何で、それをどのように測定するかです」と、IABのジョン・ミューCEOはCampaignへの寄稿記事に記した。「最も入手しやすいデータに、重きを置き過ぎないでください」とも。おそらく英国のマーケターよりもクリックスルー率を愛してやまない日本のマーケターにとっても、このアドバイスは大いに役立つことだろう。

広告のない未来に備えよ

WARCによると、P&Gのチーフ・ブランド・オフィサー、マーク・プリチャード氏は米ラスベガスで1月に開催された見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」に登壇した際、マーケターは「広告の無い世界について考え始めた方がよい」と語ったという。「皆さんがご存知の広告というものは、もうあまり長く存続できないでしょう」とプリチャード氏。その代わりに、人工知能搭載の電動歯ブラシやパーソナライズド・スキンケアなど「スマート」な商品が、消費者とのダイレクトな関係構築を促すと同氏はみている。また、従来型の広告が衰退していく一方で、ブランドについて深く知りたいという生活者の欲求は高まると考えられている。

プリチャード氏のこの言葉に肝を冷やしたマーケターもいるだろうが、結局のところ、述べられていたのは常識的なものばかりだ。生活者がブランドに求めるのは、彼らの生活に何らかの形で役立つものである。そして広告の大半は役に立たず、本当にやりたいことを邪魔する障害物となっている。この現実をなるべく早く直視し、対応策をとるべきだろう。

人々はブランド哲学をもっと知ろうとするという、プリチャード氏の考え方は正しい。だがここで大切なのは「そのブランドは良き『市民』であるか否か」だ。このシャンプーは、女性のエンパワーメントを支援しているのか? この歯みがきペーストに使われているのは、熱帯雨林の伐採につながるパーム油か、それともエシカルな材料なのか? この飲料の容器は、海洋プラスチック汚染の原因となり得るのか、あるいは生分解性の材質が使われているのか? 2019年の、そしてその先の未来の消費者たちが知りたいのは、こういった事だ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

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