Bob Hoffman
2023年2月09日

名声:広告の本質とは何か

ほとんどのブランドが、差別化やポジショニング、パーパスといったものに気を取られているが、真に目指すべき本質は、そのカテゴリーにおける名声だ。

名声:広告の本質とは何か

 筆者の信念は、広告に「絶対」はないという原則に基づいている。私たちにあるのは可能性と確率だけだ。

私たちがつくる広告は、その効果が保証されているわけではない。私たちが練る戦略は、必ず成功するという保証があるわけではない。他よりもうまくいく可能性が高い──それが私たちにできる精いっぱいのことだ。自分たちの広告活動に確信を持つことは愚かであり、妄想に過ぎない。

こうした点に同意できるのであれば、これから筆者が主張することも理にかなっていると思えるはずだ。

私たちの手にあるのが、可能性と確率だけだとするなら、私たちは次のように自問する必要がある。ビジネスの成功につながる可能性が最も高い広告の成果は何か?筆者の答えは明白だ。それは名声にほかならない。

世界で大成功を収めているブランドには、1つの共通点がある。それは、大成功を収めているブランドは有名だということだ。有名なブランドは、有名ではないライバルに対して、非常に大きな優位性を持っている。

伝統的なマーケターや広告主はしばしば、差別化、ポジショニング、あるいは「ブランドの意義」が、ブランドの成功を左右する広告の重要な要素だと主張する。「理由」のない名声は空虚であり、価値がないという言葉も聞いたことがある。ポジショニングや差別化は名声に実体を与えるものであり、広告の最初の仕事だという言葉も聞かれる。つまり、ポジショニングや差別化こそが、名声を活かす鍵だということだ。

筆者は、これは間違いだと考えている。それどころか全く逆だと思っている。名声こそが最強のポジション、最大の差別化を生み出すのだ。

どのようなブランドにとっても、最も強力な差別化要因は、そのカテゴリーで最も有名であることであり、最も強力なポジションは、そのカテゴリーで最も有名なブランドであることだ。

名声にはプラスのイメージがいくつも付随しているが、その関連性は必ずしも論理的なわけではない。具体的には、信用できる、親しみやすい、信頼性が高いなどのイメージだ。どのようなブランドでも、「信用、親和性、信頼性」を訴求することで、差別化を図り、ポジショニングを描くことはできる。しかし名声は、わざわざ訴えなくても、これらの長所が伝わるという、ユニークな力を持っている。

ほとんどのカテゴリーリーダーに共通することは何か?それは通常、最も有名であることだ。

有名ブランドは、たとえ差別化やポジショニングが多少曖昧であっても、誰も聞いたこともないようなブランドに後れをとるようなことはない。そのブランドがいかにしっかり差別化し、ポジショニングを図っていようとも。

つまり、名声は成功を保証するということだろうか?もちろん、そうではない。ビジネスの成功には、広告とは無関係な、いくつもの要素が関係している。しかし、広告が影響を与えられる要素のなかで、成功に最も貢献できるのは名声だということだ。

ここで明白な疑問が生じる。ブランドはどのようにして名声を得るのかということだ。製品が明らかに優れていて、口コミで広がるブランドもある。これが有名になるための最善の道筋だ。グーグルは当初、こうして有名になった。

幸運に恵まれるブランドもある。ニュースのネタとして興味深く、取材陣も喜んで追いかけるため、コストをかけずとも、大量にメディアに露出するようなブランドだ。フェイスブックやテスラはこうして有名になった。

独創的なPR、巧妙な演出、リーダーのカリスマ性、あるいは、これらの組み合わせによって有名になるブランドもある。つまり、名声を獲得するための道筋はいくつもあるということだ。そして、これらはどれも良い方法だ。

有名になるための道筋で最も高くつくのが広告だ。それは、最も高価だが、最も信頼できるものであり、有名になる道筋のうち、唯一金で買えるものといえる。

大きな成功を目指しているブランドにとって最も説得力がある、広告の目的は、有名になるということだ。そして、すでに有名なブランドにとっては、それは有名であり続けることになる。広告の秘策をいくら探しても、名声ほどビジネスの成功に貢献できるものは、ほかにない。

ターゲットを絞ったマーケティングでは、ブランドは有名になれない

現在、広告業界が取りつかれていることの一つが「精緻な1 to 1」ターゲティングだ。広告が最も貢献できるのが名声だということに同意するのであれば、「精緻な1 to 1」ターゲティングがこれと対極にあることは明白だろう。

1対1のターゲティングは、目先の売り上げには貢献するかもしれないが、カテゴリーリーダーを目指すブランドには向かない手法だ。

一人一人に語り掛けていても、決して有名にはなれない。カテゴリーリーダーになるためには名声が不可欠であることを認めるなら、1対1のメディア戦略の問題点が見えてくるはずだ。

広告とはそもそも、一人ずつ説得するのは非常に効率が悪いという理由から発明されたものだ。ところが今、私たちは後戻りすることを決意したようだ。掃除機を1台売りたいのであれば、もちろん、戸別訪問すればいい。しかし、100万台売りたいのであれば、掃除機を有名にする方法を考えた方がいい。

ニューヨーク、タイムズスクエアのマクドナルド

マーケターが人通りの多い場所に出店しようとするのはなぜか?タイムズスクエアにマクドナルドがあるのはなぜか?英国ロンドンのトラファルガースクエアにアップルストアがあるのはなぜか?そして、田舎町にはないのはなぜか?それは、ブランドに接する人が多いほど、売れる確率が高くなるからだ。

それでは、目立つ場所に出店したい理由も、目立つメディアに広告を出したい理由も、同じであることを、なぜマーケターは見ようとしないのだろうか。

どういうわけか、広告となると、マーケターはトラフィックの少ない環境を選ぶべきだという支離滅裂なことを信じ込んでいるようだ。事実、広告にとって最も効率的な環境は、最もトラフィックの少ない環境、つまり、1対1の環境だと言われている。

ターゲットを精緻に絞った1対1の広告は、本質的にプライベートな広告だ。それに対しマスをターゲットにした広告がマス広告だ。プライベート広告で有名になったブランドはない。

最後にもう一つ。広告で有名になるには2つの道筋がある。それは、広告に多額の予算を投じること、そしてもう一つは素晴らしい広告をつくることだ。


ボブ・ホフマン(Bob Hoffman)は広告を題材にした本を執筆し、ベストセラーも多数。広告やマーケティングをテーマにした講演でも国際的に活躍している。「Ad Contrarian」というニュースレターブログを運営しており、本記事はそこからの転載だ。過去には、独立系エージェンシー2社および国際的エージェンシー米国法人のCEOを務めた。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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