Colten Nahrebeski
2016年9月27日

日本のオンライン上に浸透するおもてなしの心

おもてなしの心と、若い世代がショッピングに求めるスピードや効率性を、ブランドは折衷することができるだろうか。

コルテン・ナレベスキ氏
コルテン・ナレベスキ氏

日本の小売業におけるサービスは世界的に高く評価されている。消費者が大切なお客さまとして扱われる日本において、おもてなしの心は販売のあらゆる過程において見受けられる。地方の小さい店から東京の主要デパートまで、どこに行っても店内に入ると「いらっしゃいませ」という掛け声とともに、消費者は丁重なサービスで歓迎される。このサービスは、多くの国で見られるパッとしないサービスと対比され、日本を象徴するものとして認識されるようになった。日本を代表するデパートである伊勢丹は、そのサービスを「This is Japan」と声高々に主張している。

しかし、本当に「This is Japan」と言えるのだろうか?
アマゾンや楽天などのオンラインショッピングサイトの影響で、日本の消費者の購買行動は変化してきている。オンラインレビュー、簡単にできる商品比較、激しい価格競争などが、良品を低価格で手に入れる事だけを重視した、形式的な接客は必要ないという新たな消費者層を出現させた。東京に本社を置く最大手オンラインショップ、楽天の収益が2015年に59億米ドルを超えたことも、日本においていかにオンラインショッピングが消費者に受け入れられ始めたかを証している。

世界一のサービスが受けられるにもかかわらず、日本の消費者はなぜお店に足を運ばなくなったのだろうか?
長期低迷経済の文脈において、日本の若者は企業に生涯安定した雇用を求めることが、これまで以上に難しくなっている。親世代の贅沢な生活が想像できないほどに、現代の若者は、雇用や収入の不安定さに悩まされている。
少ない時間や予算を最大限に活用することは、もはや社会規範となっている。アマゾンの一時間以内に届く配達サービスを利用し、帰り道に注文すれば、家に着くまでには注文した商品が届き、アルバイトや用事をこなす忙しい生活の中での隙間時間が節約できる。10億米ドルの企業価値があるといわれるスタートアップ企業「メルカリ」の、アプリを基盤としたC to Cビジネスモデルは、効率的で高い利益率が見込めるオンライン経済を勢いづけている。

高年齢層にとっても、オンラインショッピングは欠かせないものとなってきている。国民の30%以上が60歳以上の日本において、デリバリーサービスの必要性は急速に高まっている。
では、「良いサービス」の定義が、安くて早くて便利であることへと変わってきている世の中で、日本の伝統的な小売店はどのようにオンラインを利用して生き残れるのだろうか? その鍵は、ユーザーエクスペリエンスにある。

楽天と、パーソナルケア製品を販売する「イソップ」のウェブサイトを比べてみよう。楽天は、バナー広告や見当違いのお薦め商品を大量に提示するため、結果として消費者は本当に必要な商品を探し出すことが難しくなっている。楽天の方法では、商品に関する情報攻め以外に、消費者との関係性は見られない。一方でイソップは、落ち着いて整頓された店頭の雰囲気をそのままウェブサイトに反映させ、具体的で分かりやすい商品情報を求める消費者のニーズを尊重し、親切なアドバイスを提供している。それぞれのカテゴリーのページには商品の用途を紹介する文があり、まるで店員に接客されているような体験ができる。どちらのサイトも同じような機能を提供しているにもかかわらず、イソップは日本の理想のおもてなしの形をより上手に反映させている。

日本の伝統的な小売業が得意とするおもてなしの姿勢と、オンラインショップのスピード、利便性、柔軟性を融合することにより、新たな可能性が生まれるのである。消費者を大切なゲストとしてもてなすということは、彼らのニーズにさりげなく応えることなのではないだろうか。
日本の若者はおもてなしの本来の価値を理解しているため、彼らのことや、彼らが求めるリテールエクスペリエンスを理解しているサービスモデルやブランドに惹かれている。オンラインビジネスへの参入のしやすさや、クリエイティブにアプローチできるという柔軟性を活用できる企業こそ、今後成功を収めるだろう。

(文:コルテン・ナレベスキ 編集:田崎亮子)

コルテン・ナレベスキ氏は、フラミンゴ 東京オフィスのリサーチ・エグゼクティブ。

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