Grace Chen
2021年10月15日

最先端D2Cブランドから学ぶべきこと

成功したD2C(Direct-to-Consumer)ブランドは、直販事業者だけにとどまらず、しばしば一般の消費者ブランドをもインスパイアするような、最先端のマーケティングを実践している。

コアラマットレスの広告
コアラマットレスの広告

D2Cというビジネスモデルは歴史上常に存在してきた。露天商から、顧客の名前や好みを知っている訪問販売員まですべてがそうだった。しかし現代において、D2Cとは、小売店を通して販売する伝統的なアプローチをとらず、消費者に直接商品を販売するブランドを意味する。

D2Cのビジネスモデルは、もはやブランドのバリュープロポジションを表すだけでなく、(個々の市場の傾向に合わせながら)市場シェアを拡大するために、ブランドが独創的に編み出した戦術をも含むようになった。そして、こうして編み出された戦術は、あらゆるブランドに教訓を授け、ビジネスモデルに適用することを可能にしている。

ソーシャルメディアでのプレゼンスを高める

世界のインターネットユーザーの4分の1以上が、ソーシャルメディアの広告を通じてブランドや商品に出会い、さらに43%がソーシャルネットワーク上で商品について調べている。つまり、フェイスブック、インスタグラム、ピンタレスト、LINE、TikTok、小紅書(RED)、微信(WeChat)などのソーシャルメディアプラットフォームが、グーグル検索に代わる消費者との最初のタッチポイントになっているのだ。したがって、D2Cブランドから得た学びを全体的な戦略に適用することが、それ以外のブランドにとっても鍵になってくる。

例えばナイキは、ソーシャルメディア上の1億6500万人のフォロワーを活用してD2Cコマースの売上高を伸ばし、2020年の全売上の33.1%を占めるまでに成長させた。他の大手ブランドも、ソーシャルメディアのハッシュタグを活用したり、消費者に商品レビューを投稿してもらったりといった形で、こうした流行に乗っている。ロレアルはTikTokを活用し、マスク着用への偏見を解消するための「#LetsFaceIt」と題したチャレンジを展開した。このチャレンジは170億回近くの動画再生につながり、2020年に最も成功したTikTokキャンペーンの一つになった。

ダイナミックなオンラインコンテンツ

D2Cブランドは、多様なマーケティングコンテンツを作成し、eコマースサイトに表示されるコンテンツを常に改善し続ける必要がある。これはつまり、それぞれのプラットフォームや市場に合わせてコンテンツを微調整し再利用することを含め、さまざまなソーシャルメディアプラットフォームに対応したマーケティングコンテンツのエコシステムを構築するということだ。D2Cブランドはまた、消費者の購入意欲を高めるため、最高の商品イメージも用意しなくてはならない。

オーストラリアのD2Cマットレスブランドであるコアラ(Koala、2015年に創業し、最初の12カ月間で1300万オーストラリアドルを売り上げた)は、D2Cのeコマースサイトを自社で運営し、その魅力をアピールするさまざまなコンテンツを制作してきた。届いた箱からマットレスを取り出す手順を説明する動画や、「ニュースフィードから広告を消すためにコアラのマットレスを買った結果」といった、ついクリックしたくなる見出しのFacebook広告や、ワインが注がれたグラスを置いたマットレスの上に人物がジャンプして座る「ゼロ・ディスターバンス・テスト(150万回以上再生)」のような型にはまらない動画などだ。同社のマーケティングコンテンツには、商品の特徴を紹介する通常の内容のものと、フォロワーの増加を目的とした単純にユニークで楽しいものとが混在している。

自社コンテンツを完全にコントロールするD2Cブランドの強みの一つは、アジャイルなコンテンツ開発ワークフローと堅牢なコンテンツ管理システムにより、コンテンツを容易に制作管理できることだ。加えて、マーケティングコンテンツに接する消費者の好みを把握し、それに合わせて次のマーケティングキャンペーンを調整することも容易となっている。

物理的な包装を重視

待ちに待った荷物が届く瞬間は、消費者体験のかなりの部分を占める。多くのD2Cブランドは、開封の体験が消費者の記憶に残るようなパッケージングデザインをしている。これにより、ブランドのフォロワーがソーシャルメディアプラットフォームで商品情報をシェアする機会も増える。さらに一部のブランドは、ソーシャルメディアに投稿して商品写真をシェアしたり、ブランドをタグ付けしたりした消費者にプレゼントを用意して、こうした行動を促している。

スキンケア、メイクアップブランドのグロッシアー(Glossier)などはその一例だ。オンラインの美容ブログとしてスタートした同社は、オンラインチャネルとバイラルコンテンツだけで、わずか数年で評価額10億ドルのブランドに成長した。グロッシアーの物理的な包装は、ミニマルデザインで、ピンクの緩衝材に包まれており、いくつかを並べてみると補完しあうメッセージが書かれているなど、ソーシャルメディアとの親和性が非常に高いコンテンツとなっている。これによりグロッシアーは、消費者からのフィードバックを容易に収集することができ、消費者と直接エンゲージするためのチャネルも確保している。

パーソナライズされた商品

1950年代に心理学者のジョージ・ミラーが行った研究によると、人が一度に処理できる選択肢の最適な数は7(プラスマイナス2)だという。私たち消費者は、パーソナライゼーションやオプションを好むが、選択肢が多すぎると購買行動が遅くなることがある。消費者を億劫がらせず、パーソナライズを実現するために行う、クイズ形式の質問は、消費者が、選択肢の多さによって思考停止してしまうのを避けるために、D2Cブランドが採用してきた手法の一つだ。

ユアーズ(Yours)などのD2Cスキンケアブランドは、消費者に肌のタイプやライフスタイル、生活環境などを尋ねる質問を行うことで、各人の肌の悩みを把握し、それに合わせた処方を推奨するという流れによって、注文のプロセスを簡素化している。これには、消費者にとっても、自分の肌にあった成分を含むいくつものスキンケアブランドを確かめるといった手間を省き、自分に合ったスキンケア商品をすぐに入手できるといったメリットがある。

このようなD2Cのコンセプトをうまく利用したB2Cブランドの一例が、モンデリーズだ。同社が立ち上げたサイトoreo.comでは、消費者が「オレオ」の色やフレーバーをパーソナライズしたり、画像やテキストを追加したりできる。このサイトにはまた、オレオを使ったデザートのレシピや、オレオグッズのアイディアなども掲載されている。こうしたパーソナライゼーションは、消費者を惹きつけ、また消費者がソーシャルメディアに投稿できるユニークなコンテンツともなっている。

サブスクリプション型D2C

パークコーヒー(Perk Coffee)やフックコーヒー(Hook Coffee)といったサブスクリプション型のD2Cブランドは、マルチタスクをこなす多忙な人々のために購入プロセスを簡素化した好例だ。消費者は自分の好きなタイプのコーヒーを選び、飲み方に合わせた挽き方を注文できる。いちいち選ぶのが面倒な場合は、毎回新しいフレーバーが届くようにリクエストすることも可能で、消費量に合わせて配送スケジュールも選択できる。

サブスクリプションモデルは、教育関連のD2Cブランドにも広がっている。キウィーコー(KiwiCo)やリトルパスポーツ(Little Passports)、それに、アジアで同様のコンセプトで展開するインドのビッグブックボックス(Big Book Box)、マレーシアのアトム&ザ・ドット(Atom and the Dot)は、忙しくて時間も専門知識もない親たちに代わり、児童の年齢に応じたテーマの教材を提供して人気を博している。こうしたサブスクリプションの教育パッケージは、忙しい親たちを支援すると同時に、一緒に教材に取り組みながら、親子の絆を深める機会も提供している。

ブランドパーパスを明確にする

多くのD2Cブランドにとって、ブランドのパーパスとミッションこそが戦略の要となる。その顕著な例が、ディーバ(Diva)やフリーダムカップス(Freedom cups)などが手がける生理用品ブランドだ。これらのブランドは女性の月経体験を改善するという目標と同義になりつつある。より快適で環境に優しい生理用品を生み出すというミッションが、ブランドの認知度向上と世界的なファンの拡大につながっている。

D2Cスキンケアブランドいくつかも、メッセージの前面に社会的責任を掲げている。クレイブ(Krave)はスキンケアにおけるシンプルさの重要性を消費者に伝え、ルーキビューティー(Rooki Beauty)はスーパーフードを使用するクリーンな商品を開発した。D2Cブランドは、ブランドのミッションとパーパスに注力することによって、売上高と市場シェアを伸ばすだけでなく、そのブランドミッションを本気で市場に広め、啓発しようとするならば、ほとんどのB2Cブランドよりもはるかに多くの努力を要するのだ。

店頭での体験の充実

ここ数年で、完全オンライン型のブランドが、リアルな店舗空間の活用に乗り出しつつある。2017年にオンラインストアのみでスタートしたイウイガ(Iuiga)も、実店舗をオープンし、消費者が実際に主要な商品を見比べて購入できる機会を提供している。こうした店舗内の体験で意図されているのは、販売でオンラインと競い合うことではなく、消費者にとってのブランドの印象を強化することにある。

B2CからD2Cへの転換で先行しているブランドも、小売スペースを販売だけでなく、消費者とのインタラクションを活性化する場として活用し始めている。ナイキが中国の広州にオープンさせた「Nike Rise」では、来店者はナイキのアプリを使用して、店内で地元のサッカーチームの試合やランニングクラブの申込みができる。

世界の最新トレンドをリードするD2Cブランドから、従来型ブランドが学べることはたくさんある。D2Cブランドは、消費者のニーズを深く理解し、それに基づいて購入体験を向上させてきた。オンラインのマーケットプレイスが過密化しノイズが増えるなか、これを達成するのは容易ではない。それでも、D2Cの成功者たちは、消費者の心をつかむことに尽力し、従来型ブランドにはないような顧客ロイヤルティを獲得している。


グレース・チェン氏は、シンガポールでパッケージング、マーケティング、ブランドコンサルティングを手がけるSGKのエンタープライズ・ソリューションズ・マネージャー。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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