Rahul Sachitanand
2022年3月25日

2021年APAC主要エージェンシーのサステナビリティ評価

エージェンシー・レポートカード分析:調査に協力した大手エージェンシー41社は、サステナビリティが最重要課題であることには同意したものの、その実践と施策にはばらつきがみられた。

2021年APAC主要エージェンシーのサステナビリティ評価

少なくともここ数年、APAC(アジア太平洋地域)のエージェンシー各社は、サステナビリティへの投資とその投資の拡大計画をアピールしてきた。そうした投資の狙いは2つあり、ひとつは、自社のサステナビリティスコアを改善すること。もうひとつは、環境に配慮し、ますます厳しくなる環境基準を満たすためのベストプラクティスをクライアントに助言することだ。

これらの施策の中には、すでに一般的になっているものもあるが(再生可能エネルギーの使用や再利用可能な製品の使用など)、エージェンシー各社は、サステナビリティの評価を上げるため、その他にも多種多様な手段を適用している。

Campaign Asia-Pacificが最近公表した「エージェンシー・レポートカード2021」では、エージェンシーのパフォーマンスを測定するための指標として、初めてサステナビリティが追加された。具体的には、DEI(多様性、公平性、包摂性)とサステナビリティを組み合わせた評価軸となっており、エージェンシーの評価区分(業績、イノベーション、マネジメント、クリエイティビティおよび有効性など)の一つとして追加されている。DEIとサステナビリティの評点は、10点満点中、DEIへの配点が7点、サステナビリティの配点が3点となっている。エージェンシー・レポートカードの評価方法の詳細はこちらで確認できる

対象となった41のエージェンシー(そのほとんどが、様々な分野に関する質問に詳細な回答を寄せてくれた)にとって、明らかにDEIとサステナビリティは、評価を上げるのが最も困難なカテゴリーのひとつだった。この分野で改善がみられたエージェンシーはわずか7社であり、一方、評価を下げたエージェンシーの数はそのほぼ2倍にのぼる。高評価となったエージェンシーの多くは、サステナビリティに関する卓越したパフォーマンスよりもDEIのパフォーマンスで評価を上げていた。

しかし、サステナビリティ基準を評価するのは今回が初めてであり、比較すべきベンチマークがないこともあって、定量的な数値化は極めて困難だった。そこで、今回の分析では、エージェンシーが実施した施策の質的な考察に重きを置いている。今回、一部のエージェンシーでは大きな前進が見られたが、他方では、社内のサステナビリティ活動の詳細や、社外向けの活動の成果を十分に明らかにすることなく、この課題に対して非常に保守的な態度に終始するエージェンシーも数社あった。

エージェンシーネットワークや各エージェンシーは、社内のサステナビリティ活動を強化しつつ、サステナビリティ推進のベストプラクティスを確立し、クライアントに的確にアドバイスできるリーダーを登用することが急務だと感じていた。WPPのエッセンス(Essence)やピュブリシスなど一部のエージェンシーは、広告キャンペーンが環境に与える影響を評価するためのカーボンカリキュレーターを作成した。しかし、多くのエージェンシーがいまだに石油関連企業をクライアントに抱えていることを勘案すると、こうしたカリキュレーターの効果と、サステナビリティへのコミットメントの実態について、疑問の目が向けられるのも無理はない(参照記事:「Why do so many agencies continue to work with fossil-fuel companies?」)。

Campaignが、41のエージェンシーネットワークのパフォーマンスを評価した結果、その大半が、サステナビリティのアジェンダを推進するため、グローバルな指針に従っていることが明らかになった。電通、WPP、オムニコムなどのエージェンシーネットワークは、積極的なサステナビリティの目標を掲げ、傘下のAPACエージェンシー各社もそれに沿って行動していた。一方、この分野におけるピュブリシスとハバスの達成内容は、それほど野心的なものではないように見えた。

電通 アナ・ラングレー氏


電通
は、サステナビリティ分野のリーダーとしての存在感を強めた。日本に本社を置く電通は、電通インターナショナルの最高サステナビリティ責任者にアナ・ラングレー氏を任命し、その取り組みを支援するための一連の施策を展開した。電通は回答の中で、戦略と目標を実現するためにソーシャルインパクト運営委員会(SISC)を2019年に設立したこと、そこでは電通インターナショナルCEOのウェンディ・クラーク氏が議長を務め、ラングレー氏や他の地域の幹部が参加していることを説明していた。

主な目標は、2040年までにネットゼロ(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)を達成すること、2030年までに誤った認識や固定観念に挑戦するキャンペーンで10億人へアプローチすること、2030年までに10万人の若者がより良いデジタル市民になれるようサポートすることに集約されている。「サイエンス・ベースド・ターゲッツ・イニシアチブ(Science Based Targets Initiative)」によると、ネットゼロの目標が確認されたのは7社に過ぎず、電通はその1社だという。

しかし、電通はこの目標達成に向けたエージェンシーの取り組みや、マーケットでのユニークな取り組みについては、あまり詳しく説明しなかった。とはいえ、傘下の一部エージェンシーから、この目標に向けた取り組みの一端を垣間見ることができた。電通のネットワークで最古参のメディアエージェンシーであるカラ(Carat)は、人々のエクササイズと環境保護のための寄付を組み合わせた「Carat for Change」イニシアチブについて報告した。これは、参加者がアプリでトレッキングを行った距離を計測し、その距離に応じて寄付を行うもので、参加者の健康増進と世界自然保護基金(WWF)への資金供給の両方につなげることを意図した取り組みだ。この資金は、主に海洋プラスチック除去に当てられている。

一方、WPP傘下のクリエイティブエージェンシー、メディアエージェンシー各社は、サステナビリティの取り組みを、世界規模のコミットメントの軸としている。そうしたコミットメントの下、ネットゼロを達成する目標年を、自社事業については2025年、サプライチェーン全体については2030年に定めた。例えば、クリエイティブエージェンシーのオグルヴィは、アジェンダ、オペレーション、ソリューションを推進するため、アジアのネットワーク全体から、グループ、ビジネスの各リーダーを招集しタスクフォースを組成した。一方、オグルヴィ・コンサルティングはサステナビリティに取り組む部署を立ち上げ、元BBDO幹部のアンディー・ウィルソン氏をサステナビリティのアジア統括責任者として迎え入れた。

アクセンチュア・インタラクティブによるサステナビリティの推進は、親会社であるアクセンチュアの取り組みに歩調を合わせたものだ。2025年までにネットゼロを達成する目標を掲げ、世界各地でCO2排出削減プロジェクトに取り組み、土地に在来種を植林する、生物多様性を再構築する、農業をより持続可能なものにするといった活動に取り組んでいる。また、「サステナビリティ・スクワッド」を設置し、アクセンチュアのチーム全体がサステナビリティのプロジェクトやキャンペーン、課題に共同で取り組めるようにした。

2021年の総合評価で首位を獲得したオムニコム傘下のTBWAは、グローバルなコミットメントに取り組むことに加え、APACにおけるサステナビリティの最前線についても詳細に報告してくれたエージェンシーのひとつだった。同地域では、各エージェンシーが2022年の売上の1.5%に相当する時間を、サステナビリティへの取り組みに充てることをKPIとして掲げている。

TBWAは、フィリピン事業部を2021年に3つの小さなオフィスに移転し、従業員の通勤時間を短縮したほか、オセアニア全体でエネルギー源として化石燃料を使わないことを決定した。同じオムニコムグループのクリエイティブエージェンシーであるDDBは、シンガポールでアップサイクル(不用品に付加価値をつけて商品化すること)を推進する「Lamppost Project」の第4回を開始し、インドでは「DDB for Good」を立ち上げた。

他では、インターパブリック・グループ(IPG)のCEOであるビル・コーブ氏が、2040年までにネットゼロ企業になることを約束した。APACでは、マッキャンが2021年に同地域の完全なカーボンフットプリント監査を実施する意向だと述べた。一方、メディアエージェンシーについて見てみると、サステナビリティへの主導的な取り組みは、気候変動対策だけにとどまらず、従業員の多様性や公平性、データプライバシーなど、他の要素も取り入れたものとなっていた。

先にも述べたように、エージェンシーネットワークやエージェンシーによるサステナビリティ投資の多くは、実は外部に向けたものであり、環境課題への関心の高まりをビジネスに取り込むという狙いがあった。アクセンチュア・インタラクティブは、2021年にクライアント向けに2つのサステナビリティ商品を開発したが、内容は非公開としている。同社傘下のクリエイティブエージェンシーであるザ・モンキーズは、保険会社NRMAインシュアランスの動物保護キャンペーン「Every Home is Worth Protecting」の新たな映像を制作した(下の動画)。

一方、オグルヴィは回答の中で、同社が取り組む課題の例示として、貧困との戦い、中産階級の増加と都市化による環境への影響、企業へのネットゼロ達成の圧力、代替エネルギーへの移行、DEI推進などを挙げた。同社はすでにサステナビリティ分野でクライアントを支援しており、ネスカフェによる中国でのサステナブルなコーヒー栽培方法の支援や、ECモール「ショッピー(Shopee)」とユニリーバによる「Clean Home Clean Nation」のパートナーシップなどの例がある。

オムニコムグループの中では、TBWAが「TBWA Sustain」を立ち上げ、パーパスドリブンのビジネストランスフォーメーションコンサルタントとして、社内およびクライアント向けのサステナビリティ活動に取り組んでいる。主な作品には、水ブランドの「Cool Ridge(クールリッジ)」が導入した100%リサイクルのペットボトルがある。同キャンペーンでは消費者に向けて、できる限り本商品を買わずに再利用可能な水筒を使い、次善の選択肢としてCool Ridgeのボトル入り飲料を選ぶよう推奨している。また、旧来の電気・ガス供給事業者であるオリジン・エナジーとの契約を終了し、代わりにスマートエネルギー分野のベンチャー企業アンバー・エナジーとの提携を選択している。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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