Gunjan Prasad
2023年5月18日

2023年カンヌライオンズ審査委員長、八木義博氏が語る:「機能より想い、効率より夢」

カンヌライオンズ・インダストリークラフト部門審査委員長インタビュー:電通の八木義博氏が、最高の作品を選ぶためのプロセス、インサイト、感性について語る。

電通の八木義博氏
電通の八木義博氏

 芸術的な表現を得意とするクリエイターの八木義博氏は、日本で最も国際的な賞を受賞したクリエイターの一人であるだけでなく、ベテランの審査員でもある。2012年と2017年の2度にわたってカンヌライオンズの審査員を務めたほか、D&AD、クリオ賞、ADFEST、スパイクスアジアなど、さまざまなフェスティバルで審査員を務めてきた。

八木氏は、今年のカンヌライオンズ、インダストリークラフト部門の審査員として、そのシンプルさを追求する審美眼とデザイン原則への深い造詣を生かし、クリエイティブのビジョンの独自性や洗練された技術を審査する。カンヌライオンズに先立ち、Campaignは八木氏にインタビューを行い、受賞作を生み出すさまざまな美学について話を聞いた。

今年のカンヌライオンズでインダストリークラフト部門の審査員を務めるにあたり、最も心躍ることは何ですか?

人は、美しいものを見ると喜びを感じます。しかし、そうした喜びを実感できる人はどれくらいいるでしょうか?これこそが、社会の進歩や繁栄を測る真の尺度だと私は信じています。

人と文化に繁栄をもたらす経済活動を支えつつ、私たち一人一人の生活を美しく輝かせてくれるようなブランドの作品を見つけたいと考えています。カンヌライオンズは、そのような試みを世界と共有する場なのです。

インダストリークラフト部門をどう定義しますか?また、パンデミックによって、何か変化はあったでしょうか?

インダストリークラフト部門は、ビジネスとアートが出会う最も刺激的な場です。クラフト(作品)は、人々の知覚に働きかけ、心を揺さぶります。それは、消費者がブランドと接するときに、その手触りを感じられる最終地点です。私たちが審査するのは、ブランドのビジョンや声が、最終成果物でどのように表現されているかです。

ほとんどの企業やブランドは、見過ごすことができない問題に対して、何かしたいという思いから生まれます。例えば、パナソニックという企業は、都市を走る電車を初めて見た創業者が、電気の力をすべての家庭に届けたいと強く望んだことから始まりました。ホンダは、自転車にモーターが付いていれば、妻の買い物が楽になるという創業者のひらめきから生まれました。

これは、自己満足のために絵を描くのではなく、自分なりの方法論で、世界に問題を提示しようとするアーティストと同じです。社会の問題を発見し、解決することは、ビジネスであると同時にアートでもあるのです。それはとても美しく、楽しいものであるはずです。優れたクラフトマンシップは、ブランドの極めて人間的な思いそのものに、形を与えることができます。ブランドの経済活動と現実社会の豊かさを一致させ、調和をもたらすものであるべきです。

この部門で「世界最高の作品」を見つける基準は何ですか?

作品の技術的な品質だけではなく、そのブランドが、自らの倫理観に従い、アーティストが表現したいと思うことに、本気で取り組んでいるかどうかです。そして人々が、そのブランドを、本気で応援したい、共感したい、対価を支払いたいと思い、選んでいるかどうかです。

最高の作品は、ブランドの声やトーンを伝えることで、ブランドとユーザーの感情的な結びつきを強くするはずです。そうしたことがより深いレベルで行われるなら、それはとても美しいものになると思います。便利さよりも豊かさ。機能よりも想い。効率よりも夢、です。

大きさやスケールも重要な要素ですが、人間性に根差した、未来に伝えるべき価値観も探したいと考えています。最高の作品を見つけるため、他の審査員の皆さんの見識や知性、感性を大いに頼りたいと思っています。

過去のカンヌライオンズのインダストリークラフト部門で、業界のクリエイティビティを証明する画期的な事例となったキャンペーンをいくつか紹介してください。

アニメーションや音楽を駆使して、人間にとってかけがえのない水の根源的な価値とその水に対するブランドの愛を、改めて人々に伝え、人々の結びつきを強くする作品です、数々の賞に輝いた、このエビアンのCM「ウォーター・ボーイ(Water Boy)」を見て、ぜひインスピレーションを感じてください。

NTTドコモの「森の木琴」は、人々にふと足を止めさせる映像作品の一つです。間伐によって生じる木材で作られた携帯電話製品のCMなのですが、ずっと聞いていたくなるようなサウンドデザインがとても効いています。製品のデザインや仕様よりも、ブランドの森や木への愛が語られており、一気に引きこまれるプロジェクトになっています。

(インタビューの内容は簡潔でわかりやすいように編集している)

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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