Staff Reporters
2020年12月01日

「40 Under 40 2020」:日本ブランドの若き才能

アジア太平洋地域(APAC)のマーケティング及びメディア業界で活躍する若手を、Campaign Asia-pacificが毎年選出する「40 Under 40」(40歳以下の40人)。先週は日本を拠点とする逸材をご紹介したが、今週は日本企業の下、他国で異才を発揮する4人を取り上げる。

「40 Under 40 2020」:日本ブランドの若き才能

エッジ・“エッグシー”・モンテロ

IXM[博報堂] マネージングディレクター、フィリピン)

エッジ・“エッグシー”・モンテロ氏


エッジ・モンテロ氏にはいくつものニックネームがある。友人たちが使うのは「エッグシー」。勤務先のアイディアズ・バイ・マッキーナ・アドバタイジング(IXM、博報堂が所有)では上司から「未来のビジネスリーダー」、同僚からは「クライアントチャーマー(顧客を魅了する人)」と呼ばれる。これらの呼称は決して大げさではない。多くの重要クライアントから、「真のパートナー」と呼ばれているからだ。

広告界の多くの者がそうであるように、モンテロ氏も叩き上げだ。この世界に入ったのは19歳の時。ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)のプロモーションマネージャーとして、フォードやシェル、クラフト、サンミゲールといった大手ブランドの販促計画のコンセプトをまとめ上げた。その後は10年以上にわたり、TBWAやピュブリシス 、サーチアンドサーチなどで主要クライアントを担当。電通のビジネス開発ディレクターに就任すると、トヨタ自動車やユニクロといった日本の大手企業との関係を深化させ、最重要クライアントに育て上げた。一時、ソレアリゾート&カジノに転職してクライアント側の業務を経験し、最終的にIXMへ。今は同社の成長に大きな貢献を果たす。

モンテロ氏加入後、IXMは過去2年間で数百万ドルの増収を果たした。同氏はマネージングディレクターに昇進、フィリピンにおける博報堂の執行役員にも名を連ねた。トヨタ・モーター・フィリピンは博報堂の主要クライアントとなり、IXMはコロナ禍以前の今年の事業目標を達成する勢いだ。従業員を解雇する企業が多い中、IXMはむしろ雇用増加を図る。

経験や知恵を若い世代に伝えることにも積極的。IMXでは経理部に多くの大卒新人を配属して育て上げ、その結果4人が昇進を果たし、社の経営委員に抜擢された。社外でも、家族で人権団体「モンテロ・メディカル・ミッション」を営み、フィリピンの貧しい地域に海外の医療専門家を派遣する活動に従事している。
 

フィル・エイドリアン

(電通インターナショナル クリエイティブグループ マネージングディレクター、シンガポール)

フィル・エイドリアン氏


2人の娘をこよなく愛するフィル・エイドリアン氏は、業界でのジェンダー平等を実現するため積極的にメッセージを発信する。電通が新しく設立した「APACインクルージョン・アンド・ダイバーシティ委員会」に名を連ね、人権団体「エンパワメント・オブ・ウイメン(Empowerment of Women)」ではアジアにおけるプログラムを牽引。さらに機会均等とダイバーシティ実現を目指すグーグルの取り組み「ウイメン・ウィル(Women Will)」のアンバサダーも務める。

こうした活動に加え、日常のクリエイティブでもインクルーシビティ(包摂性)の表現に熱心だ。ハイチとオランダ出身の父母の下でカナダに生まれ、これまで世界各国を旅行。そのきっかけとなったのは2009年に立ち上げた動画撮影のビジネスで、カルバン・クラインのデジタル戦略も担当した。電通がドバイでデジタル戦略とクリエイティブ機能を立ち上げる際、スカウトされて入社。同社最大のクライアントを2桁成長させた後、FCBグローバルに転職、ドバイ・リンクス(LYNX)では初めて中東勢にグランプリをもたらした。

2017年にdentsu Xへ移ると、シンガポール・オフィスの開設に寄与。クリエイティブグループを初めてグローバルに統合し、アジアの広告界で頭角を現した。また、複数の専門性に長けたチームを統率し、同社にとって今年最大の案件も獲得。

これまで様々な市場でキャンペーンを展開したインサイトが認められ、スパイクスアジアや電通のイノベーションアワードで審査員を務めるほか、業界の多くの主要イベントでレクチャーやワークショップをこなす。企業文化と従業員の幸福も重視し、今年8月には同社初となる「グローバル・ワークライフ・バランス・ガイド」をまとめ上げた。
 

エリンダム・バタチャリア

(電通 メディア・アンド・パフォーマンス チーフストラテジーオフィサー、インドネシア)

エリンダム・バタチャリア氏


エリンダム・バタチャリア氏が電通インドネシアに移ってきたのは昨年暮れ。電通は事業プロセスやマネジメントなど、抜本的な構造改革の最中だった。同僚からは「改革王(king of turnaround)」というニックネームを授かり、クリエイティブ、メディア、CRM(顧客関係管理)などあらゆる部門を指導。様々な機能を整理してメディアとパフォーマンス部門をモデルチェンジし、他のブティックエージェンシーへの仕事の流出を防ぐため構造的な非効率性を除去した。

「改革王」は見事に期待に応えた。過去11カ月で9件の新規メディア事業を獲得し、電通における「勝率」の記録を更新。新規事業の売上高は総額で5000万米ドル以上に達した。フィリップ・モリス・インターナショナルには地域初となる総合的メディア戦略を提供。オンラインショッピングサイトのラザダ(Lazada)・インドネシアとは、ピッチへの参加なしで1年の契約延長にこぎつけた。

「今は競争が激化し、継続的なチャレンジが求められる時代。バタチャリア氏のチームによる戦略立案・実行で、日々のアクティブユーザー数とトップオブマインド(第一想起)はこの4カ月で2桁の伸びを示しました」。こう話すのはラザダ・インドネシアのモニカ・ルディジョノCMO(チーフマーケティングオフィサー)だ。

冷静で的確なコミュニケーションを取ると定評のあるバタチャリア氏。これまで15年間、インドや中国、東南アジア諸国でビジネスを牽引したが、その指導力の確かさは関わった企業の離職率に表れている。業界の平均が約40%なのに対し、同氏が担当した部署は15%という低さ。メディアエージェンシーで有能な人材が減り、インハウスの取り組みを始めるクライアントが増える中、目下の責務は社内のスキルと製品開発力の強化でサービスのクオリティを高めることだ。

インドネシアで新型コロナウイルスの感染が拡大すると、電通イージス・ネットワークとグーグルによるプランナー向けオンライン講座を企画。迅速なソリューションを提供するスキルを向上させることで、クライアントに従来型ビジネスからeコマースプラットフォームへの事業モデルの転換を促した。このライブ配信は、200人以上の電通の従業員が受講した。

ニールセン・インドネシアと設立したブログの運営・管理委員会、さらにはインドネシア政府のデジタルマーケティング協会のメンバーにも名を連ね、広告効果測定に関するエコシステムの再構築にも取り組んでいる。
 

パトリック・ディロイ

(アイソバー・コマース マネージングディレクター  /  電通コマース チーフグロウスアンドストラテジーオフィサー、香港)

パトリック・ディロイ氏


パトリック・ディロイ氏の起業家精神のルーツは、若くして携わった在香港ドイツ商工会議所発行の業界誌の編集。雑誌で関わった起業家たちのストーリーに刺激を受け、1年後には広州に移って自身の会社を設立、欧州企業にウェブサービスを提供した。従業員が20人規模になると、会社をインドの金融サービス会社NXGコンサルティングに売却。次に、アジア企業向けのeコマースソリューションプロバイダー「ブルーコム」を共同設立した。やがてブルーコムはフランスのスポーツブランド「デカトロン」やLVMHといった大手ブランドをクライアントに獲得。この躍進振りが電通の目にとまり、同社は2016年にブルーコムを買収。「アイソバー・コマース」と改名し、ディロイ氏は2017年、マネージングディレクターに就任した。

同氏のリーダーシップのもと、アイソバー・コマースはAPAC全域に300人以上の従業員を抱える企業に成長し、年平均成長率は120%。ウィーチャットやLINE、ネイバーといったエコシステムパートナーと共に市場優先のインテグレーションを牽引し、マイクロソフト、ASUS、ユニリーバ、資生堂、ソニー、ウェスファーマーズ、フィリップスといった大手企業をクライアントに獲得した。同氏曰く、「過去3年間で主要クライアントは1社も失っていません」。特筆すべきは、こうした業績を非常に低い離職率 −− 10%以下、業界平均の4分の1ほど −− で達成したことだ。

この4月にはアイソバー・コマースでの職務に加え、電通コマースのチーフグロウスアンドストラテジーオフィサー(最高成長・戦略責任者)にも就任。これまでの実績を考えれば妥当な人事と言えよう。新たな役職ではAPAC全域の電通のコマースとエクスペリエンス、そして2000人以上の専門スタッフを管轄。今年はコロナ禍で消費者の購買行動が急速に変化し、コマース分野はその対応に追われた。ディロイ氏はオンラインショップの迅速な活性化を目指す小売業者に向けたソリューションと、デジタル化への様々なプロセスを示すB2Bのコマース変革戦略で対処。電通のクリエイティブ担当グローバルCEOジーン・リン氏は、「彼は最も進歩的で情熱的な起業家の1人。自ら範となって、目標達成のために全力を尽くしてくれる」と評価する。

40 Under 40 2020」の全リストはこちらから

(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)

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