Malcolm Poynton
2023年5月25日

AIの弊害 クリエイティビティーではなく「地球」

1つのAI(人工知能)のCO2排出量は、自動車1台のライフサイクル分の約5倍 −− ほとんど語られることのないAIの環境面への影響を考える。

AIの弊害 クリエイティビティーではなく「地球」

「恐怖」と「魅惑」 −− 新しいテクノロジーが導入されるたびに、クリエイティブ業界はこの相反する感情と葛藤を繰り返してきた。そして今、生成AIの登場が新たな火種を付け加わえた。

AIは人間の創造性と生産性を向上させるという声がある一方、ロボットは人間の仕事を奪ってしまうという懸念も囁かれる。

AIが生み出す成果はすでにクリエイティブ業界で証明された。AIによるアートワークが広告賞を取り、人気アーティスト・ドレイクとザ・ウィークエンドの声を模したAIによる楽曲が話題を呼んだことでも明らかだ。

ブランドの世界でも、飲料大手マルティーニやコカ・コーラ、リーバイスといったトップブランドが「表現力を高めるため」、AIで作ったキャンペーンを公開した。

しかし、ベテランロック歌手のニック・ケイヴはChat(チャット)GPTが作った「ニック・ケイヴ風の曲」を「人間性のグロテクスな模倣」とこき下ろした。一方で、歌手のグライムスは自身の声をAIが再現して歌を作ることを容認した。いずれにせよ、今のクリエイティブ業界ではAIを避けては通れない。

そして最大の懸念は、AIが我々のクリエイティビティーや仕事を脅かすのではないかということだ。

驚くべきことに、ブランドやビジネスの世界でしきりにサステナビリティーが論じられているにもかかわらず、AIが環境面に及ぼす弊害についてはほとんど話題にならない。急速に普及するAIが地球に致命傷をもたらすことは疑いの余地がないのだ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)は、1つのAIのトレーニングで排出されるCO2排出量は、平均的な米国車1台のライフサイクル排出量の5倍に匹敵するという調査結果を発表した。

これに基づけば、全てのAIのCO2排出量は航空業界全体のカーボンフットプリント(商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのCO2排出量)を上回る。そして1つのデータセンターの排出量は、5万世帯の消費電力のそれとほぼ等しいことを意味する。

今後テック企業のAI開発競争が激化すれば、地球へのダメージもそれだけ増えることになる。

もちろん、AIが気候変動対策に役立つという声も少なくない。送電システムの制御からエネルギー効率の良いビルのデザインまで、AIには様々な潜在性があるからだ。

だがAI開発を急ぐあまり、気候変動を加速化させてしまう事実から我々は目を背けてはならない。今必要なのは、そのプロセスにおける厳格な規制だ。

スウェーデンのウメオ大学でAIの社会性と倫理問題を教えるヴァージニア・ディグナム教授は、AIは「気候変動対策の救世主にも、破壊者にもなり得る」と話す。

今は多くのブランドが、新たに出現したAIをあれこれいじり回している段階だろう。今後、ビジネスリーダーや企業幹部はAIの本質を把握し、製造から物流に至る過程でどのような有効活用が可能か見定めねばならない。トリプルボトムライン(経済・環境・社会、3つの側面からの企業活動評価)の思考が必要なのだ。

AIは決して一過性のものではなく、今後我々の業界に定着していく。動画制作に関しても、実際の撮影とAIを利用するのとではどちらがコスト削減につながるのか、議論がより盛んになるだろう。AIが作るイメージと著作権の問題もクリアされねばならない。

その倫理性も、今業界が注視しなければならない問題だ。AIが作るイメージやモデルから生まれる「歪められた美」が、次世代にどのような影響を与えるかを真剣に討議せねばならない。

こうした問題の答えをAI自身に求めようという人もいるだろう。実は私も試してみたのだが、AIに人間らしい道義的な答えを求めることは無理だった。

我々の住む唯一の惑星がAIによって危機に陥る前に、人間の頭脳と行動力が試されている。


マルコム・ポイントン氏は、チェイル・ワールドワイドのグローバルチーフクリエイティブオフィサーを務める。

(文:マルコム・ポイントン 翻訳・編集:水野龍哉)

 
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