Jessica Goodfellow
2021年4月16日

BBCワールドニュースの今、そして未来

コロナ禍のニュース制作、フェイクニュースへの対応、国家による情報操作、そして24時間ニュースの将来 −− BBC国際ニュースチャンネルの責任者が語る。

BBCワールドニュースの今、そして未来

世界で何億人もが視聴者するグローバルチャンネル、BBCワールドニュース。そのマネジメントは、いかなる状況でも決して容易ではないだろう。ましてやコロナ禍の今、ニュース制作には数多くの難題が立ちはだかる。ロックダウン(都市封鎖)、移動制限、虚偽情報への対応、国家による情報操作……その責任者としての役割は極めて重い。

「まさしく、チャレンジとしか言いようがありません」と話すのは、同ニュース部門責任者のリズ・ギボンズ氏。「私がこの役職に就いたのは、ちょうどパンデミック(感染症の世界的流行)が始まった昨年の5月。職場に来られるスタッフの数は限られ、業務の流れを劇的かつ迅速に変えなければなりませんでした」

同氏はBBCで約12年間、編集と企画制作に携わった。前職は、時事問題を取り上げる番組「ビクトリア・ダービシャー」の編集。だが同番組はコスト削減のあおりを受け、昨年初めに打ち切りとなった。

BBCワールドニュースが放映されているのは、世界200以上の国と地域に及ぶ。それらのほとんどがロックダウンとなり、同氏は早急に2つの課題と取り組んだ。1つは業務の合理化。そしてもう1つは、在宅勤務でも番組放送を可能にするテクノロジー面の強化だった。

「いくつかの番組を打ち切り、英国内の支局もできる限り整理しました。プロデューサーたちはテクノロジーを活用して、自宅の居間や寝室から番組を放送した。これまでにない試みでしたが、極めて迅速に対応できたと思います。いくつかの番組ではプレゼンターが在宅で司会を務め、被インタビュアーの中継にはズームやスカイプを活用した。テクノロジーへの依存度は飛躍的に高まりました」

リズ・ギボンズ氏


在宅での司会やズーム取材は、スタジオ放送とまったく異質のものだ。当初、ギボンズ氏は取材の質と量を何とか維持していこうと考えたが、「新しい放送技術の進化で、結果的に両方とも向上した」

「テクノロジーを活用してより幅広い人々の取材をする −− この手法は今後も続けていきます。取材を受ける側も、スタジオにいるのと自宅の居間にいるのとではまったく違う。自宅の方が、自信を持って受け答えをしてくれます」

制作のプロセスや番組の見せ方が大きく変わっても、BBCの視聴者数に悪い影響は出なかった。逆に、その数は増加。BBCの視聴者数調査「グローバル・オーディエンス・メジャー」によれば、昨年の世界の週間視聴者数は過去最多の1億1200万人を記録。パンデミックの最中、BBCは世界の5億世帯以上に向けて発信された。

「視聴者数にはとても満足しています。重要なニュースを日々放送しながら、大きな変革を実行する −− そのような状況でも数が落ちなかったのですから」

スタッフが在宅勤務をしても視聴者数を増やせたのなら、最新機材の揃ったスタジオはこれからも必要なのだろうか。

「デジタルメディアが浸透し、人々の『ノーマル』に対する概念やニュース番組への期待は変わったと思います。これからしばらくは、市場経済と計画経済が共存する混合経済が世界で続いていくはず。そうしたなか、もっと幅広い未来を見据えても24時間ニュースの役割はなくならないと思います。ニュースを伝えるプレゼンターの役割も、たとえ視聴者が時代遅れだと感じたとしても、決してなくならないでしょう」

同様に、デジタルはニュースの内容をますます深化させている。「でもそれが、リニアテレビ(従来型テレビ放送)の終焉を意味するものではありません」

「我々の編集室はマルチメディアに対応しています。記者たちはラジオやテレビ、オンラインなどそれぞれのメディアが何を求めているかを十分理解し、そのすべてに対応できる。デジタルオーディエンスは明らかに増加傾向にあるので、我々の将来の事業の中心は間違いなくデジタルプロダクトになるでしょうが」

BBCオンラインのオーディエンス数はテレビを凌ぐ。今年2月のBBC.comのユニーク訪問者数は1億2200万人で、PV(ページビュー)数は10億回、ビデオビュー数は2900万回に達した。昨年1年間で最もオーディエンスが伸びたのはアジア太平洋地域(APAC)で、ユニーク訪問者数は48%増。11月には4四半期連続でAPACで最も人気の高い国際ニュースサイトとなり、ユニーク訪問者数は前年同期比の41%増だった。

結果として、「BBCワールドニュースの番組はデジタルオーディエンスを意識して作られるものが多い。ウェブサイトやソーシャルメディア用に、映像をクリップしやすくしてあります」

それでもアジアの発展途上国市場のように、インターネットが普及していない地域では今もリニアテレビが人々の重要な情報源だ。

「一般的にデジタルオーディエンスの増加は、従来型メディアにとって良いことではないと解釈されるかもしれません。でも、私はそのようには受け止めない。ニュースがより多様な手段で受け入れられるようになった、ということでしょう」。昨年、BBCワールドニュースはリニア型ニュースチャンネルとして設立30周年を迎えた。

特派員の意義

コロナ禍が収束した後もズームは活用し続けるという同氏だが、他の措置については「一時的なものになる」。中でも、海外特派員のネットワークは「コロナ以前の規模に戻したい」という。

「特派員は以前のように展開したい。今の態勢は決して理想ではありません。それでも、コロナ禍では非常に適切な対応ができた。我々が持つ特派員のネットワークはとても大きく、どの国際的な放送局よりも多くの国々にジャーナリストを配しているからです」

例えば昨年の米国大統領選挙の際には、過去の選挙のように多くの記者を送ることができなかった。それでも「現行のスタッフやテクノロジーを活用して、オーディエンスに有益なニュースを提供することができた」

ユーザー生成コンテンツ(UGC)に関しても、「ジャーナリズム的見地から、大きな役割を担ってきました」。昨年はニュース速報を伝える際にUGCが大きな助けになったという。もちろん、きちんとした取材に取って代わるものではないが。

公平性の維持

BBCがコロナ禍で示した適応力以上に、ギボンズ氏が誇りとしていることがある。それは報道の公平性への評価だ。特に昨年は虚偽情報や政治的に偏向したニュースが錯綜し、公正で信頼できるニュースの重要性に光が当てられた。BBCの報道は1年を通し、こうしたクオリティーを維持できたと同氏は考える。

「パンデミックという極めて大きなニュースが起きて、我々は異常な時代を生きている。だからこそ、第三者や政府からの影響を受けず、信頼性と公平性の高いニュースを発信するというBBCへの評価が高い支持につながったのでしょう」

「信頼の砦」としての地位を築くため、BBCはこれまでいくつかの取り組みを行ってきた。フェイクニュースを暴く「リアリティーチェック」の部署を設立したのは2017年。虚偽情報専門のチームも設け、パブリッシャーの連合体である「トラステッド・ニュース・イニシアティブ(TNI)」も主導。TNIは昨年、米大統領選や新型コロナウイルスのワクチンに関する虚偽情報対策に取り組んだ。

「今は、誰もが虚偽情報の実態を知っている時代です。そして、ある種の人々は自分の世界観を鼓舞してくれるこうしたニュースに魅了されてしまうという事実も。多くのオーディエンスがBBCを支持してくれるのは、そのまったく逆の理由からです。エビデンスはたくさんありますが、こうした視聴者はBBCが世界的なニュースに明快で公正な見解を示すと考えている。国家の圧力に屈せず、公平性と自主性、そして自由主義を貫くBBCこそ最も信頼できる国際メディア −− そう信じてくれているのです」

国家の圧力を超えて

昨年、報道の脅威となったのは虚偽情報だけではない。国家による情報操作だ。これらの国々は新型コロナに関する情報を工作・隠蔽し、事実を伝えようとする報道機関と対峙した。それと歩調を合わせるように、一部の政治家は信頼できるニュースを貶めようと、虚偽情報の拡散を「武器」として利用した。

その典型例が中国だ。新型コロナや新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する人権侵害に関する取材では、メディアは行動の自由を奪われ、国外退去処分まで受けた。昨年はニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルといった主要紙の特派員、少なくとも18人が「偏った報道をした」(中国国営メディア)ために国外追放となった。BBCは新疆のウイグル人「再教育」収容所で女性が性的暴行や拷問を受けている事実を報道、2月に中国で放送禁止処分を受けた。さらに先月には、北京特派員のジョン・サドワース氏が取材内容に関して国営メディアや政府当局から「数カ月に及ぶ個人攻撃を受けてきた」として、中国から台湾に拠点を移した

「放送禁止という中国政府当局の決定には非常に失望しました。どこの国でもサービスを提供できるようにするのが我々の大義であり、事業の中核ですから」

報道機関に圧力をかけるのは、中国政府だけではない。「こうした動きはアジアに限ったことではありません。今のような状況になると、BBCの使命と価値は平時よりもさらに重要になってきます。つまり、恐れや偏向を排して真実を伝え、ニュースの核心を提示するということです」

「我々の報道に明確な異議を唱えたり、憤慨する人々もいるでしょう。しかし、真実を伝えることこそが我々の使命。我々を抑え込もうとする企てに屈することなく、これまでと同じように、これからもこの使命をまっとうしていくつもりです」

(文:ジェシカ・グッドフェロー 翻訳・編集:水野龍哉)

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