David Blecken
2017年1月25日

CEOと危機対応

社内で不祥事が生じたとき、経営陣はどのように対応すべきなのか。昨今の大企業の事例から、そのあるべき姿勢を考える。

CEOと危機対応

1月19日、電通は新社長を発表した。この数ヶ月、不祥事にどう対応するかメディアは同社に強い関心を寄せてきたが、ここに新たな一歩を踏み出すことになる。一部業界関係者は前・代表取締役社長執行役員石井直氏の辞任を予想していたが、国内外では「行き過ぎなのでは」という反応も少なくない。

電通のこの交代劇で、CEOはいつ辞任すべきか、またどういう場合に続投すべきなのかという論議が湧き起こっている。辞任はある意味、難局から逃れるための安易な選択とも映り、日本のCEOたちはかつてそれを批判された。一方で、経営陣が頭を下げて謝罪をする光景はお馴染みだが、そのまま交代せずに職務を続ければ、これもまた株主や社会の反感を買う。では、会社の信用を守るため経営者が辞任すべき時はいつなのか。また、続投して信頼回復に努めた方が良いのはどんな場合なのか。

「避雷針」

答えは明白だ、と言う人もいるだろう。もちろん事態の重大性にもよるが、簡単に言えば、不祥事が起きたときには誰かが責任を取らなければならないのだ。最も理に適っているのは、組織内のあらゆることを監督すべき立場にあるトップが責任を取ることだ。「舞台劇のようなものです」と言うのは、PR会社「ルーダー・フィン」でグローバルな信用やリスク管理を担当するエグゼクティブ・バイス・プレジデント、チャールズ・ランケスター氏。同氏はCEOを「避雷針」に例える。曰く、「会社を守り新たなスタートを切るため、不祥事で生じた負のエネルギーを一身に吸収する立場にあるから」。

同氏は続ける。「誰かに責任を負わせなければならず、その『儀式』としてCEOを解任する(あるいは辞任してもらう)ことがとても重要なのです。そこに至るまでには、多くの段取りがあります。たいていの場合、株主や政府からCEOが退任せざるを得ないような強烈な圧力がかかる。その時点でCEOは既に組織にとって有害な存在になっているケースが多く、続投させることは逆効果になってしまうのです」。

こうした考え方は、日本では当たり前になっている。特に2011年の東日本大震災における東京電力の不祥事以来、日本社会は大企業に対してより厳しい見方をするようになった。意外に思われるかもしれないが、米国などでは不祥事を起こした企業の経営者に対する社会の見方はより寛容で、辞任は然るべき象徴的ジェスチャーとは受け止められず、CEOが自らの不正行為を認めたと見なされるのだ。「日本の業界観測筋は、海外のCEOは辞任するまでに時間をかけ過ぎだと考えています」。こう述べるのは、共同ピーアールの海外事業を率いる井口了太氏。

経営者が窮地に追い込まれれば、「実行すべきことを実行するだろう」と周囲から思われることはないだろう。コスモ・ピーアール代表取締役社長の佐藤玖美氏は、CEOが留任して不祥事の立て直しを図った多くのケースで、「引き際をわきまえていない印象を与えている」と言う。記憶に最も新しいところでは、2016年末にコンテンツ盗用の醜聞に見舞われたDeNA代表取締役社長兼CEOの 守安功氏。同氏は報酬を減額し、全力で改革に努めると約束したが、DeNAが信頼を回復するまでには長い時間がかかりそうだ。

ランケスター氏は、不祥事を起こした企業のCEOの留任が正当化されるのは、CEOの個性がその企業に色濃く反映され、突然の退任が企業の存続にリスクを及ぼす場合か、不祥事を誰もがまったく予測できなかった場合に限られると指摘する。

「難題」克服に向けて

ランケスター氏とは異なり、CEOの進退はより繊細な問題だという声もある。PRコンサルタント会社「ヒル・アンド・ノウルトン」でアジア地域担当社長兼CEOを務めるジョン・モーガン氏は、「進退は取締役会があらゆる角度から検討すべき」と言う。つまり、不祥事が偶発的なものなのか、あるいは企業文化の腐敗による氷山の一角なのかといった観点からのチェックだ。「優れたCEOは権限を委譲するものです。ですから、詳細を把握していなくても容認されるケースがある。一方で、顧客に約束したサービスを提供しなかったり、従業員を不当に扱ったり、嘘をついたりという文化が会社全体にはびこっているとしたら、CEOは即座に退場しなければなりません」。

さらにモーガン氏は、不祥事でどれほど信用が傷ついたか、CEOの存在が不祥事以上に負の影響をもたらしていないかといった点も考慮すべき、と指摘する。時に迅速かつ的確なコミュニケーションによって、CEOへの評価(そして会社への評価)を守れる場合もある。井口氏によれば、危機対応へのまずさから経営者が早々に辞任に追い込まれるケースはしばしばあるという。残念なことに、日本企業の間ではまだメディア対応が十分に認識されておらず、「世論に敏感なごく少数の企業が取り組んでいるにすぎません」と同氏。

極めて深刻な状況に陥ったときは、CEOの退任だけではなく、事態の調査と収拾にあたる独立した第三者の招聘が最善の解決策、と佐藤氏は考える。第三者が関わることで、世間が求める説明責任と透明性に応えることができるというのだ。

第三者の関与の有無にかかわらず、信用を失った経営者が退任し次第、企業は断固たる決意で速やかにその立て直しに努めなければならない。電通の場合は内部調査(第三者が関与)を実施し、問題の病巣にメスを入れる再発防止策を公表したことで、不祥事を克服し前進していく姿勢を世に示すことができた。失った信用を回復するためには決意表明だけでなく、改善策を徹底的に実行することがコミュニケーション同様、肝要であることは言うまでもない。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

CEOと危機対応に関して日米比較をした、「グローバル的観点から見る、日本のCEOの危機対応」も是非お読みください

提供:
Campaign Japan

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