
広告のインハウス化が新しいトレンドになっており、まだ十分に検討されていないアクションプランを実行に移すようマーケティング会社の背中を押すだろう。流行の最先端を追いかけると言われるマーケティング業界だけのことはあるようだ。
インハウス化に向けてさまざまな協議の場が設けられ、ケーススタディが検討されているが、それは簡単に決断できる類のものではない。インハウス化が効果的なケースはあるが、それが大きな過ちとなってしまう(あるいは控えめにみても、コストが高くなるような)ケースもあり得るのだ。
「インハウス化」という言葉が広範な意味を持つことも、問題の一つだろう。この言葉には、画像トリミングやコンテンツマネジメントといった作業へのリソース投入から、プロダクション業務全般、そしてデータサイエンスとその管理まで含まれることも。さらに、これらの仕事の一つ一つは、求められるコミットメントや専門的な技術のレベルが異なる。インハウス化は時として、社内エージェンシーを意味することもある。
世界各地でインハウス化を進める企業と協業してきた経験を通して、我々は多くの企業が見逃しがちな5つのポイントを見出した。
1. コスト削減策ではない
インハウス化はむしろ、長期的には固定費の増加要因となる可能性がある。景気や事業の動向に合わせてリソースを増減させ、経費を調整することが難しいのだ。もし業績に応じて年ごとにリソースの調整をしたいならば、必要不可欠な部分のみのインハウス化に注力すべきだ。
2. 最先端には届かない
もしもマーケティング戦略を最先端で革新的、そして大いに創造的なものにしたいと考えるのであれば、最適なソリューションを与えてくれるのは外部エージェンシーだろう。インハウスは優秀な人材を呼び込むことが難しく、それは特にストラテジストやクリエイティブの採用において顕著だ。彼らは、自身の考え方を発展させて最高の仕事をするために、異なるクライアントや分野と向き合って刺激や興奮を得ることが必要だからだ。
3. 仕事領域の合意の必要性
インハウスチームの仕事領域やプロセスが不明確だったり、彼らに期待される役割が理解されていないと、問題が発生するだろう。社内からのインハウスチームに対する要求が、外部エージェンシーに対するものよりもはるかに厳しく、これが問題となるケースが多々ある。仕事領域が明確でないことによって、インハウスチームのメンバーの入れ替わりも激しくなる。外部エージェンシーをパートナーとしてではなくサプライヤーとして扱うような企業は、インハウスチームに対しても、さらにひどい扱いをする可能性が高い。
4. 業務の監督と境界線は必須
しっかりした業務監督とフルタイムのマネジメントが無いと、インハウスチームの人材に対する負荷は徐々に増えていくだろう。インハウスで行うべき業務に制限を設けなければ、他部門からの仕事の押しつけが始まり、無理がたたってサービスの品質低下を招くこととなってしまう。明確なマネジメントが無いと、インハウスエージェンシーのビジネスモデルは複雑化してしまい、他部門ではかからないような時間とコストを費やすことにもなる。インハウスエージェンシーのマネジメントは、外部エージェンシーを指揮することと同様に重要なことだ。それは従来の仕事に付加する業務などではなく、しっかり専念できることが必要だ。
5. 外部エージェンシーへの圧力の道具ではない
現在取引している外部エージェンシーのコストを引き下げる目的で、インハウスエージェンシーを利用してはならない。価値の創造は大切だが「価値=コスト」ではない。多くのブランドは外部エージェンシーに、そのスペシャリストとしてのスキルと専門性を求め、そこには適正なコストが発生する。インハウスエージェンシーは組織の一員に徹すべきであり、外部エージェンシーとのパートナーシップを害する緊張や摩擦の原因となってはならないのだ。
デジタル化の波によって多くのブランドは、マーケティングのどの部分を誰が受け持つかということを考えるようになった。例えば、デジタルトランスフォーメーションのプロセスの一部としてコンテンツが必要となった結果、インハウスのリソースが必要となってきているのだ。
数年前までは外部エージェンシーの領域と考えられていた仕事を、多くの企業が自社でやるようになるだろうが、何を社内に取り込むかは慎重に決定されねばならない。
外部エージェンシーとの関係性と同様、インハウス化にはルールや責任範囲、業務遂行上の透明性は、成功するための必須条件だ。
(文:クリスティン・ダウントン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)
クリスティン・ダウントン氏は、マーケティングに焦点を置く経営コンサルティング会社「ザ・オブザバトリー・インターナショナル」のシニアコンサルタント。