Dheeraj Sinha
40 分前

未来を拓くのは、好奇心旺盛な人材

AIが主導するこの時代において、影響を最も受けやすいのは中間層だ。しかし真の境界線は若手とベテランの間ではなく、進化する者とそうでない者の間にある。

未来を拓くのは、好奇心旺盛な人材

この業界でAIについて話すたびに、必ずたどり着くのが「雇用にどのような影響があるのか?」という疑問だ。まずエントリーレベル職が消えて、次世代の人材が育たなくなるという仮説をよく聞く。

だが、私はそうは思わない。

アジア太平洋地域全体で見てきたのは、若者は誰よりも早く変化に適応するということだ。彼らは新しいツールをいち早く試し、最も素早く実験し、限界を押し広げる意欲が最も高い。AIがエントリーレベルの役割を一掃することはないだろう。むしろ、AIは若い人材をより聡明で鋭敏にし、価値を高めていく。彼らは新しいものに抵抗するのではなく、積極的に扱うため、より早く成長していくだろう。

真の脅威は、別のところにある。

危機に瀕する中間層

AIの影響を最も受けやすいのは若手ではなく、既に地位を確立し、現状に満足し、進化に躊躇することもある中間層だ。この層は習慣が固定化し、コンフォートゾーン(心理的に安全と感じる領域)が深まる。

AIは広告・マーケティングにおいて、2種類のプロフェッショナル層を生み出している。

  • 新時代のアダプター(採用者):自身の創造性を拡張し、技能を磨くためのツールとしてAIを扱う人々。
  • 消極的なラガード(遅滞者):AIを否定したり、恐れたり、嵐が過ぎ去るのを願って現実逃避を続ける人々。

この分断は職位によるものではなく、マインドセットによるものだ。マニラの若いプランナーであろうと、シドニーの熟練のクリエイティブディレクターであろうと、AIを活用すれば成功し、そうでなければ苦戦することになるだろう。

技能と新しいツールの融合

AIが主導するこの時代においても、技能は依然として重要だ。文化を理解するストラテジスト、タイポグラフィに精通したデザイナー、ストーリーテリングのリズムを理解するクリエイティブ――これらは時代を超越したスキルだ。しかし、技能だけでは十分ではない。

今後頭角を現すプロフェッショナルとは、冴えわたる技能とAIツールの熟達を両立させた人材だ。デジタル時代の書道を考えてみると、筆致の芸術性は変わらないが、ツールは変化する。新しい筆を受け入れる者は生き残り、卓越性の定義そのものを変えるだろう。

ジャグラーと探求者たち

私がワクワクするのは、アジア太平洋地域の若いプロフェッショナルたちが、まるでジャグラー(曲芸師)のようにAIを使いこなす姿を見ることだ。プロンプトを投げかけ、出力結果を調整し、リミックスし、実験する。この遊び心こそが、私たちの業界に必要なものだ。ジャグリングという行為の中から、新しい形が生まれる。

一方で、完璧なロードマップが完成するまで踏みこもうとしない、消極的なプロフェッショナルの姿も目にする。しかし、AIはそのようには機能しない。AIを理解する唯一の方法は、実際に使用し、批判し、共に進化することだ。目的地を正確に把握することではなく、ツールの進化に合わせて学び、成長していくことなのだ。

マインドセットと技能を融合させる者の手に、未来はある

AIの時代において、関連性は2つの力の交差から生まれる。

  • マインドセット:変化を受け入れる好奇心――新しいツールを手に取り、その可能性を探求し、自分のプロセスに統合すること。
  • 技能:自分の専門分野の深み――戦略、ライティング、デザイン、データなど。意図を持って思考し、洗練させ、創造する能力。

これらの融合が、真の価値を生み出す。技能のないマインドセットはノイズを生み、進化のない技能は停滞につながる。両者が揃うことで、指数関数的なインパクトが生まれる。

では、アジア太平洋地域において強固な人材パイプラインを維持するには、どうすればよいのだろうか?

いくつかのシンプルなシフトが、大きな差を生み出す。

1.完璧さよりも遊びを奨励する

若い人材に、日常的にAIを体験させよう。日々の少しずつの使用が、正式な習得方法よりも早く習熟度を高める。

2.技能の達人とAIネイティブを組み合わせる

シニアのアートディレクターと、MidjourneyやRunwayを触っているジュニアレベルを組ませよう。一方が深みを、もう一方がスピードをもたらし、双方が学び合うことになる。

3.中間層のコンフォートゾーンを打破する

エージェンシーやブランドは、中堅の人材がリスキリング(再教育)や自分の役割の再構築に取り組むよう積極的に促すべきだ。AIを避けるという選択肢は無い。

4.技能と同様に、進化を称える

アワードや表彰は最終的な成果物に対してだけでなく、そのプロセスにおいて新しいツールを創造的に活用したかも評価すべきだ。

AIと仕事に関する議論は、恐怖にとらわれがちだ。しかしよく見てみれば、真の境界線は若手とベテランの間ではなく、進化する者とそうでない者の間にある。

若者は恐れを知らないアダプターであるため、成功するだろう。中間層は、流れに合わせて進化するか、それとも取り残されるリスクを負うか、選択を迫られる。

アジア太平洋地域におけるこの業界の未来は、私たちがこの変化にどう対応するかにかかっている。古いやり方を美化し、新しいツールを軽視することはできない。明日のリーダーとは、技能をしっかり保ちながら、AIツールを軽やかに使いこなし、両方を駆使して想像し、批評し、文化とビジネスを動かす作品を生み出す者のことだ。

AIは人間の創造性を終わらせるものではなく、増幅させる装置だ。私たちが直面している唯一の脅威は、変化を拒むマインドセットである。


ディーラジ・シンハ氏は、FCBインドおよび南アジアのグループCEO

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