Olivia Parker
2019年3月14日

エージェンシーの新サービスの多くを、クライアントは必要としていないようだ

エージェンシーは高機能なサービスを幅広く提供しようと努めているが、ブランドがエージェンシーの仕事の中で最も付加価値が高いと考えているのは、依然としてクリエイティブワークだということが、Campaignとカンター(Kantar)による新しい調査から明らかになった。

(写真:Shutterstock)
(写真:Shutterstock)

Campaign Asia-Pacificとカンターの共同調査「マーケティングビジネス」によれば、エージェンシーはオールラウンドプレイヤーとして完璧かつ全方位型のサービスを提供すべく、さらなる努力を求められるかもしれない。同調査によれば、クライアントが何より価値を見出すエージェンシーのサービスとは「クリエイティブ思考」で、そういった業務は外注すると84%が回答している。

近年、エージェンシーは従来のクリエイティブの仕事だけでなく、もっと多様なものを提供しようと、サービスを再構築したり拡大する傾向にある。だが依然として、クライアントがパートナーであるエージェンシーから最も享受していると感じているサービスは、従来型のクリエイティブの仕事なのだ。

エージェンシーが提供するサービスの中で2番目に効果的だと考えられている仕事はメディアバイイングで、次いでプログラマティックであった。だが調査によれば、メディアエージェンシーが提供するプログラマティックスタック(プログラマティック広告の実行に必要なツールが集まっている)の構築は、クライアントにとって2番目に価値が低いサービスと見なされており、これも近いうちにインハウスの仕事になり得ることを示している。メディアエージェンシーが提供する全てのサービスの中で、ブランドが最も価値を見出していないのは、販売に直結するサービスであることも分かった。

「マーケティングビジネス」は、この種のものとしてはCampaignが初めて実施した調査。最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)、マーケターやエージェンシー社員を含め、アジアのマーケティング分野で働く200名以上を対象に、現在のマーケティングビジネスについてさまざまな角度から調査したものだ。

調査結果から、エージェンシーがクライアントに提供しようと努めているスキルとサービス、そしてクライアントが実際にエージェンシーから求めるものの間に、乖離があるらしいことが見えてくる。

例えば、昨今の個人情報保護にまつわる懸念を反映して、ブランドの回答者の74%が、データは外部のパートナーに任せるよりインハウス(社内)で管理するのが一番と答えている。また、全回答者の約7割が、インハウスの調査・分析チームの集めたデータに信頼を寄せていることが分かった。エージェンシーが提供するデータを信頼すると回答したのは、わずか34%だ。

この低い数字は、他のパブリッシャーやメディアパートナー、そしてフェイスブックからのデータに対する信頼度と同等になっている。フェイスブックからのデータを信頼すると回答したのはわずか33%。この調査に協力したクライアント側企業が、2019年の媒体費の中で最も多くの予算を充てるのがフェイスブックやグーグルのプラットホームであると回答した事実を鑑みると、興味深い数字だ。グーグルからのデータはより信頼が置けるとされ、53%が信頼すると回答した。

こういった結果から、エージェンシーにとっての潜在的リスクが分かる。それはエージェンシーが自ら集めたデータ、あるいはエージェンシーがクライアント以外のソースから集めたデータに信頼があまり置かれていないという点だけではない。もしクライアントが、自分たちのデータをエージェンシーに任せることにさえ不安を抱いているとしたら、現在エージェンシーの付加価値として重きが置かれている「効果的でクリエイティブな広告キャンペーン」を、一体いかにして展開し続けられるのだろうか?

だが調査結果には、エージェンシーにとって良い知らせもある。クライアントがパートナーとなるエージェンシーに対して求める重要な要素は「クリエイティブ思考」、次いで「批判的な客観性」「試してみて学ぶ姿勢」と続く。これは、ブランドがエージェンシーに求める「クリエイティビティー」が、独創的な広告キャンペーンの制作にとどまらないことを示している。

また競争の激化と、より複雑化する消費動向ゆえに、昨今は世界的にマーケティング予算が削られているとの報道が盛んだが、同調査によればブランドの大半(75%)が、次の会計年度もマーケティング予算を維持するつもりだと回答している。また、マーケティング予算を増やすことになるだろうとの回答は、少なからず20%あった。

「さまざまな難題や乖離にもかかわらず、回答者の3分の2 (63%)が、マーケティングからより価値のあるものを得ていると回答しています」と、カンターのインサイト部門でメディアの地域担当責任者を務めるパブロ・ゴメス氏は話す。アジアでマーケティング予算が維持されているのは、「業界全体の信用度を図る、良いバロメーター」なのだとか。

だがいつものことながら、競争が非常に激しい広告の世界では、良いニュースにはマイナス面がつきもの。エージェンシーは自分たちの核となる事業にコンサルティング的なサービスを組み込もうと動き始めているが、ブランドマーケターたちの36%が従来型コンサルティング会社と、以前にも増して協働するようになっているのだ。これは、マーケティング予算における広告業界の取り分が、さらに減る可能性を示している。

(文:オリビア・パーカー 翻訳・編集:田崎亮子)

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