Staff Reporters
2021年3月03日

エージェンシー・レポートカード2020:博報堂

博報堂は売上減など深刻な課題に直面しているが、働き方改革を進め、コミュニティー、サステナビリティー、イノベーションへの投資を強化している。

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まずは悪いニュースから。博報堂DYホールディングスの財務情報によると、同社は2020年、競合する世界的な持株会社と比べ、パンデミックの打撃を大きく受けた(電通グループも同様)。今回のエージェンシー・レポートカードでは、グループ内最大のエージェンシーネットワークである博報堂にフォーカスする。

博報堂はエントリー時に、事業成長の詳細な内容について明らかにしておらず、経営層によるレビューも今回実施できなかった。だが親会社が開示する「財務ファクト・シート」を読み解くと、第4四半期(2020年1~3月期)に利益が徐々に減少し、第1四半期(4~6月)になると事態は深刻化。売上高は前年同期比25.8%減、純利益は同180.1%減という結果になった。続く第2四半期(7~9月)も売上高22.3%減、純利益79.5%であった。直近3カ月の決算情報は財務ファクト・シートに含まれていないが、月ごとの売上高は(他のエージェンシーと同様に)回復傾向にあり、12月には前年とほぼ同等にまで回復している。

ファクト・シートによると、すべての業種において売上高が前年同期よりも落ち込み、特に化粧品、自動車、交通、官公庁などの減少が著しかった。だが、主要クライアントとの関係をすべて維持できていることは、注目すべきだろう。クリエイティブ事業とメディア事業はともに打撃を受け、4マス媒体はインターネットメディアよりも苦戦を強いられている。海外事業は博報堂DYホールディングス全体の中では決して規模が大きくないが、国内事業と比較すると特に1~6月が好調だった。買収によって海外展開を続けていくという、同社の方針にも納得がいく。

特に注目を集めたのが、台湾の独立系エージェンシーグループ「Growww Media」の株式の過半数を取得し、United Communications Group(台湾で最も長い歴史を持つ総合広告グループ)、Interplan GroupとKY-Post(イベントや大規模展示会の企画・運営)、Pilot Group(コミュニケーション)、Medialand(デジタルマーケティング)の5ブランドを傘下に収めたことだ。その1カ月前には、博報堂初となるインド企業の買収を行った。買収した「AdGlobal360」はデリー近郊に拠点を置くフルサービスのデジタルエージェンシーで、約460名のスタッフを擁する。また10月には博報堂DYホールディングスが、英ロンドンに本社を置くデジタルトランスフォーメーションのコンサルティング会社「Public Digital」の株式を取得している。

グローバルネットワークをゆるやかに運営してきた博報堂だが、2020年に事業間のシナジー効果を高める取り組みを開始している。1月には、既にベトナムの2拠点で展開していた事業を統合し、フルサービスのデジタルエージェンシー「Hakuhodo Digital Vietnam」を開設した。その後、海外事業ユニットの名称を「Hakuhodo International Unit」に改め、ユニット長に近藤暢章氏が就任。「1国1マネジメント」体制を開始し、エリア内での新規事業提案や、人事や経理など経営面の健全化と効率化を進めた(もっとも、アジア太平洋地域の競合の多くは、既にこのような体制を導入しているが)。この体制がまず最初に導入されたのはタイで、1月にタイ国内の12拠点を束ねた「Hakuhodo International Thailand」を設立。新規ビジネスの問い合わせ対応などの窓口を一本化した。

カテゴリー 2020 2019
マネジメント C+ C
クリエイティビティー B B-
イノベーション B C+
事業成長 C C
人材とダイバーシティー B- C+

B: 厳しい時代ではあるものの、パートナーと新たな領域に参入し、独自の事業を開発しながら、新たな利益の確保を追求しています。また、働き方改革を通じて、新しい形のチームワークを急速に構築しています。

2020年はさまざまな広告賞が中止や延期になったが、博報堂の海外事業強化は賞獲得にも貢献した。United Communications GroupとMedialand Digital(どちらもGrowww傘下)は、台湾の広告賞「4Aクリエイティブ賞」で合計16の賞を獲得し、特にレキットベンキーザー「The Game of Sex」はベスト・インタラクティブ・イン・デジタル(金賞)、ベスト・インタラクティブ(銀賞)、ベスト・ウェブサイト(銀賞)を獲得という快挙だった。

スパイクスアジアやカンヌライオンズでの受賞は無かったが、カンヌで電通が1位に表彰された「リージョナル・エージェンシー・オブ・ザ・デケイド(アジア)」で、博報堂は2位に選ばれている。他にもD&AD賞、One Show、ADC、ニューヨークフェスティバル、Ad Starsで30賞以上を獲得。TBWA HAKUHODOはCampaign「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」(日本/韓国)で、Creative Agency of the Year(金賞獲得は10回目)、Best Culture of the year(金賞)を受賞した。

賞を獲得した作品には、連続10秒ドラマ「愛の停止線」の続編(JMS/トヨタモビリティパーツ)、D&AD賞などを受賞した「パラ卓球台」、地域の農家と利用者をつなぐ共同配送物流システム「やさいバス」などがある。このように、博報堂のクリエイティブワークには、非常にイノベーティブなものが多い。同社が手掛けた、遊びながらプログラミング思考を学べるソニー・インタラクティブエンタテインメント「トイオ・コレクション」は、Ad Starsの4部門で賞を獲得した。

博報堂の新しいプロジェクトや、クライアントやコミュニティーグループと実施している実験をすべて列挙すると、非常に長いリストになりそうだ。以下に一部をご紹介する。

  • 創造性に特化した学校「UNIVERSITY of CREATIVITY」東京キャンパスを本格始動した。「ポストコロナソサイエティーを生む創造力」など10の分野に分かれて個別に研究し、社会実装へとプロトタイプしていく。
  • 三井物産と共にまちづくりサービスの実証実験を渋谷エリアで開始した。第一弾として、オンデマンドモビリティーサービスのアプリを今年春に展開予定。
  • 住友商事と共に住民同士の準生活必需品シェアリングサービスの実証実験を開始。
  • ブロックチェーン技術を活用し、日本のコンテンツの著作権保護と流通拡大を目指す「Japan Contents Blockchain Initiative」を7社共同で発足。
  • スズキと共に富山県朝日町で、町内の移動課題の解決に向けたMaaS実証実験を開始。
  • 食をテーマにした新産業創出を目指すオープンイノベーションプログラム「Food Tech Studio – Bites!」に参画。
  • 楽天と共に、社会や環境に配慮されたサステナブルな商品を扱うEARTH MALLをオープン。
博報堂と住友商事がシェアリングサービスの実証実験として設置したコンテナ


「コミュニティー」と「サステナビリティー」は、博報堂が頻繁に取り上げるテーマだ。国連の2030年までに達成すべき17の目標「SDGs(持続可能な開発目標)」を普及啓発するため、博報堂は「ジャパンSDGsアクション推進協議会」の立ち上げに携わっている。また慶應義塾大学SFC研究所と共に、SDGsの17ゴールと169ターゲットを分かりやすく翻訳し直して公開した。

持株会社としては、博報堂DYホールディングスが統合報告書を発行し、ESG(環境、社会、企業統治)やサステナビリティー、インクルージョン(包括性)、健康で健全な働き方、クリエイティビティー育成のためのダイバーシティーの必要性について、かなりのページ数を割いている。リサイクル率(82.2%)、人間ドック対象者の受診率(博報堂84.3%、博報堂DYメディアパートナーズ86.9%)、勤務時間の削減(前年比93.0%)、年次休暇の平均取得日数(12.7日)、社内会議のコアタイム(19時まで)や不要不急の連絡(平日22時まで)といったマナー施策、コンプライアンス関連の研修受講率(すべて100%)、ダイバーシティー社会推進の取り組み、障害者雇用率(2.27%)といった統計が多岐にわたって開示されており、興味深い。

だがジェンダー平等においては後れを取っており、女性管理職比率は10.5%、新卒女性採用比率は44.2%である。この現状を踏まえ、妊娠中の通院時間確保のための特別休暇や時間短縮勤務など、法定を上回る両立支援制度を整えた他、交流の場「クロスママカフェ」も実施している。今後は女性の専門性にフォーカスした支援プログラムなどの充実も望まれる。

博報堂の2020年の売上は芳しくなかったものの、パンデミック期に働き方改革を謳いながら整理解雇の大なたを振るうような策を実施しなかったことは、非常に印象的だ。コロナ禍で解雇された社員は、非常勤スタッフも含め1名もいないといい、データやデジタルマーケティングの専門職は256名増えている。100名超の新入社員にはオンラインで研修を行い、海外駐在員には会社負担で帰国できる選択肢を用意するなど、さまざまな施策を展開している。

全体的に、博報堂の働き方改革は大きく前進しており、「人材とダイバーシティー」カテゴリーの評価を高く押し上げた。長期的視野での成功を描く上で、人材やコミュニティー、サステナビリティーを主軸に事業を展開していることは称賛に値する。

博報堂は事業概要について明らかにしていない

統合型マーケティングソリューション(戦略、リサーチ、キャンペーン、PR)
メディア及びコンテンツ制作
データ活用を重視したリサーチ&イノベーション

AIG
ホンダ
ヤンセンファーマ
花王
三井物産
日産自動車
NTTドコモ
ソニー・エンタテインメント
住友商事
サントリー


(博報堂は主要クライアントを公表していない。Campaignは公開されている情報をもとに上記のリストを作成した)
 


(文:Campaign Asia-Pacific編集部、翻訳・編集:田崎亮子)

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