Shawn Lim
2023年5月11日

デジタル市場はパフォーマンスに偏り過ぎている

エビクイティのCEOニック・ウォーターズ氏は、Campaignの取材に応じ、パフォーマンスへの偏重やAPAC市場における成長機会、カーボンフットプリント測定の進捗等について語った。

マーケターは、2023年の景況を、慎重ながらも楽観視しており、パフォーマンスチャネルへの投資を加速させている。しかし、パフォーマンスへの過大な投資は、ブランド力を低下させ、消費者とのつながりを弱めるリスクがある。

そうした見方を示すのは、メディア投資コンサルタント企業エビクイティでグループCEOを務めるニック・ウォーターズ氏だ。最近シンガポールを再訪した際、Campaign Asia-Pacificの取材に応じ、業界に向けて警鐘を鳴らした。

かつて、電通イージス・ネットワーク(現・電通インターナショナル)APACでCEOを務めたウォーターズ氏は、広告業界にとって、2022年は前半と後半で明暗が分れた年だったと振り返る。前半は世界的にも好調で、エージェンシーグループの半期決算は予想を上回る好決算となった。だが後半には、市場に暗転の兆しが見えてきたという。

「現状はかなり持ちこたえている。そのため市場は、慎重ながらも、すべてうまくいくだろうと楽観視している。だが、金利をめぐるリスクが残っている。金利が高くなりすぎると、住宅ローンを抱える消費者に問題が生じる可能性がある」とウォーターズ氏は指摘する。

「とは言え、広告予算は世界的に増加しており、おそらく3~4.5%程度の成長が見込めるだろう。ただし、これまでは中国が広告費の増加に大きく寄与してきたが、今年はそれが抑制されることになる」

ウォーターズ氏は、マーケティングサービス事業のバイサイドが好業績だったと指摘した。だが、セルサイドは厳しい状況が続き、特にアルファベットやメタのようなテクノロジー大手のプラットフォームが、初めて市場を失望させることになった。

ブランディングに回帰できるか

2年前にエアビーアンドビーが実施したように、パフォーマンスマーケティングを削減して、ブランドへの投資を拡大したブランドは現在も好調が続いていると、ウォーターズ氏は指摘する。しかし、多くのブランドは購買ファネルの下部に過剰な投資を続けているため、そのリスクに留意する必要があるという。

「長年にわたり、数百億ドルもの予算が検索、特に有料検索に投じられ、ブランド構築がその犠牲になってきた。だが、ブランドも、消費者との間に感情的なつながりを築き続けることが重要だということは分かっている」とウォーターズ氏は説明する。

「ブランディングはさまざまなメディアで取り組む必要があり、しかも長期的に行わなければ意味がない。購買ファネルの下部に投資を集中すれば、一時的には好業績を上げることができるだろう。しかし、ブランドの長期的な成功に不可欠な、顧客との感情的なつながりを築く力は必然的に弱まることになる」

ウォーターズ氏は、エアビーアンドビー、グーグル、フェイスブックといった企業が、現在テレビCMを大量投下していることに興味を示している。同氏によると、テレビは顧客との情緒的なつながりを築く上でとても優れた手法だという。一方、購買ファネルの下部にいくら予算を投下しても、結局、同じ顧客を繰り返し獲得することになるだけだ。

ブランドロイヤルティを築くためには、新しい顧客にリーチし、ブランドに対する愛着を育み、その上で、購買につなげる活動を行うべきなのだと、ウォーターズ氏は語る。

検証サービスが発展途上のAPAC市場

ブランド構築は、コストに見合う価値をもたらすのだということをもっと実感すべきだ。APACでは、メディア投資に関して適切なアドバイスが得られていないため、必要以上にパフォーマンスに投資せざるを得なかったのだろうと、ウォーターズ氏は感じている。

ウォーターズ氏はAPACを「発展途上の市場」と呼び、この地域で広告主が、メディア投資の効果と効率を正しく理解し、その価値を検証するにはアドバイザーが必要だという。そして、彼はそこに自身の大きなチャンスがあると考えている。

「支払った金額に見合う成果は得られているか?それはブランド目標の達成に貢献できているか?こういった点について、この地域では独立した監査がまだ十分に行われていない、というのが当社の見解だ」とウォーターズ氏は言う。もっとも、同氏の立場からすれば当然だろう。エビクイティはメディア支出を監査することで収益を上げているのだから。

「エージェンシーは、自分たちは良い仕事をしていると主張していて、ブランドもそれを全面的に信用している、というのが現状だ。この状況では、エージェンシーが自分たちは間違っていたと認めることはないだろう」

ウォーターズ氏によると、彼らの戦略はデジタル市場向けのプロダクトや新サービスを開発することであり、クライアントに信頼できる価値を示すことだという。その一例が誤情報対策の分野であり、エビクイティは非営利団体グローバル・ディスインフォメーション・インデックス(GDI)と共同で新たなソリューションの開発にも取り組んでいる。

APAC市場は「検証サービスが発展途上」

このソリューションでは、オープンソースのデータを利用して、ヘイトスピーチ、誤情報、反ワクチンの陰謀論など、不適切なコンテンツをウェブ上で発信しているパブリッシャーを特定し、クライアントのデジタルメディア支出がこうしたパブリッシャーに流れるのを阻止する。

「当社は、有害コンテンツを配信する犯罪者から、クライアントを守れるようになった。そして、これによって、広告主は優良な視聴者を抱える、質の高いジャーナリズムに再投資できるようになった」とウォーターズ氏は説明する。

同氏によると、エビクイティは、英国や欧州では「過剰」に、米国やAPACでは「過少」になっていた事業投資を、見直すことを検討しているという。

エビクイティは、米国事業の拡大のために企業買収に踏み切ったが、その一方で、グループ内で最も急速にオーガニック成長していたのは、リーラ・ナイール氏が率いるAPAC事業だったのだと、ウォーターズ氏は語る。

ウォーターズ氏によると、エビクイティが力を入れているのは、メディアの透明性には課題が残るものの、世界第2位の広告市場である中国と、まだ適正な価値指標を提供する余地があるインドだ。また、東南アジアにもポテンシャルを感じているという。

「東南アジアは広告主にとって大きな可能性を秘めた市場だ」と、ウォーターズ氏は言う。「しかし、広告主の得た成果を検証できる独立した機関はあるだろうか?効率や効果に関する精査を行う企業はあるだろうか?そうしたデータを分析する人材はいるだろうか?つまり我々にとっても、APAC地域には大きなチャンスがあるということだ」

サステナビリティ

また最近、広告主が注目していることのひとつとして、デジタルメディア活動に起因する二酸化炭素排出量の把握が挙げられる。

この要求に応えるため、エビクイティではコンサルティング企業のスコープ3と提携し、クライアントが実施したデジタルキャンペーンの全インプレッションをスコープ3の指標と照合し、炭素排出量を計測している。

エビクイティは問題の規模を理解してもらうため、11カ国42社のクライアントの3億7500万ドル(約512億円)分のデジタルキャンペーンデータをサンプルに試算した。これは1160億インプレッションに相当する。そして、この配信量をCO2濃度に換算すると、排出量は7万7000トンに達する。

ウォーターズ氏は、石油・ガス業界を悪者扱いすべきではないと考えている

「我々は、クライアントのカーボンフットプリントを可視化でき、原因も特定できる。つまり、特定のキャンペーンを止めることで、どれだけCO2を削減できるかをクライアントに示すことができるのだ。7万7000トンという排出量は、ロンドン・パリ間の旅客便の135万席分に相当する。そのCO2を吸収するには、年間370万本の木が必要になる」とウォーターズ氏は説明する。

「広告キャンペーンが環境に与える影響を最小限に抑えることは、(あらゆる業種の)企業にとってそれほど難しいことではない。シャンプーやオイルを販売する企業にも、同じ手法が適用できるからだ」

ウォーターズ氏は、石油やガス業界はしばしば悪者扱いされるが、その一方、これらは再生可能エネルギーへの投資が最も大きい業界でもあると指摘する。もし、このまま石油・ガス業界を悪者扱いし続けるなら、世界は、再生可能エネルギーへの投資機会を奪われることになると危惧する。

同氏はさらに、すべての年金基金が、石油・ガス大手に投資していることも指摘した。

「我々は、広告キャンペーンが環境に与える影響を抑えるため、業界をひとつにまとめることを目標にしている。そして独立した測定会社として、業界の他の企業とも連携していきたいと考えている」とウォーターズ氏は語る。

「測定ソリューションを統一すれば、業界の混乱をなくせると思う。エージェンシーが最適化のために独自ツールを使うのは自由だが、測定ツールを一つにすればもっと協力しあえるはずだ」
 

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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