Jackie Lyons
2023年2月02日

不況対策の短期思考は、メディアの進化を阻む

広告主が不況からの回復を目指すなら、短期的思考に陥って、毎月のように計画を見直す誘惑に打ち勝たなければならない。その理由と、広告主やエージェンシーが注力すべき点について説明する。

不況対策の短期思考は、メディアの進化を阻む

誰もがプレッシャーにさらされている。そして、さまざまな理由をつけて、あちこちで計画の見直しが行われている。増え続ける育児費や、恐ろしいほど高騰する光熱費に、危機感を覚えている人もいるだろう。毎週買い物のレシートを見るたびにゾッとしている人もいるかもしれない。そう、我々は未知の経済状況に直面しつつある。つまり、広告主やエージェンシーにとっても、2023年はジェットコースターのような状況が続くということだ。

にもかかわらず、英国の広告業者団体IPAが公開した最新のベルウェザー・リポートによれば、マーケターは広告支出をあまり控えるつもりはないようだ。2023年の広告費は、他のチャネルから映像やデジタル動画に広告費が流れ込むことで、0.3%の減少にとどまる見込みだとIPAは述べている。これに比べると、昨年のIAB(インタラクティブ広告協議会)の見通しはさらに楽観的なものだった。B2B、旅行、エンターテインメント、金融といったカテゴリーの成長に、デジタル分野の活況が加わることで、5.8%という1桁台の伸びが実現すると予測していた。

しかし、景気がどの時点で底を打つかはわからないが、広告主の多くは、望むほどには予算を確保できないだろう。かりに予算を増やせたとしても、マーケティング以外の部門(財務部門には限らないが)から横やりが入るかもしれない。

多くの企業は、まるで電灯に引き寄せられる虫のように、「不況に備える」慎重なメディアプランに急いで戻ろうとするはずだ。厳しい時期に、ブランドへの投資を続けることがいかに重要かは、よく知られている。厳しい時期における最も簡単な対応は、実績のあるチャネルに注力し、定量指標の教科書に従ってリーチを確保して、注目を維持し続けることだろう。1つに着手したら、あとはそれを何週間も続けるだけ。ノートパソコンをパタンと閉じたら、もう仕事は終わりだ。

しかし、もちろんそれでは終わらない。IABの12月のリポートによれば、驚くべきことにクライアントの65%もが、少なくとも月に1回は、メディアプランを見直すつもりだと答えている。このように短期的に見直しを繰り返せば、「不況に備える」計画はできるかもしれない。だが皮肉なことに、これは長期的にはかなりのリスクを伴う。我々(クライアントとエージェンシー)は、未来を決定づける共通の差し迫った問題に直面しており、不況であろうとなかろうと、その解決策を今すぐ見つけなければならないのだから。

たとえば、Cookieレスの未来への対応だ。確かに、まだ当分先のことかもしれない。だが、データとIDを利用した新しいソリューションのテストを、2023年中に計画しておかなくて良いのだろうか。グーグルのプライバシー・サンドボックスを詳しく調査し、何がクライアントにとってベストかを明確にする計画は、いつ立てればいいのだろうか。

そしてアテンションだ。アテンションは理論的に大いに意味のある指標だが、我々はメディアプランの中で、リーチとアテンションの適切なバランスを見いだしているだろうか。新しいチャネルや手法に投資して、昨年よりも高い効果が得られるメディアプランを作れているだろうか。

2023年は、サステナビリティにとって最も重要な1年になると言われているが、それについてはどうだろう。CO2排出量を報告し、メディアプランに応じて数千ポンド(数十万円)を投じることで、カーボンオフセットを行うことだけが、本当に我々の最善策なのだろうか。昨年と同程度のカーボンオフセットを達成して、それで満足していて良いのだろうか。あるいは、最悪なことに、何も手を打たないということもあり得るのだろうか。

もし我々がこれらの課題に対して、今は時期が悪いからと言って、革新的でクリエイティブなメディアソリューションに取り組もうとしないのなら、一体いつなら取り組めるのだろうか。困難な今の時期だからこそ、我々は、クライアントが未来に抱える問題を解決するための強みを見いださなければならない、と筆者は考える。

我々が課題解決者としての存在感を発揮しようとするなら、今ほど最適な時期はない。パンデミックの際も、エージェンシーは解決者の役割を果たせることを証明してきた。この1年は、予算、シナリオ、プランの見直し、そして安全に関する議論が避けられない。今、我々は再び、クライアントにとって最も役に立ち、信頼できるパートナーとして、将来にわたって有効なプランをクライアントに提示し、それをプッシュしていかなければならない。具体的には次のとおりだ。

我々は、データとエビデンスに基づきながら、クライアントの成長を加速させるプランを作り上げる必要がある。メディアは、単なるクリエイティブの増幅装置ではなく、企業の成長に欠かせないものであり、キャンペーンを主導するものだという確信を、ビジネス全体に浸透させる必要がある。

今年は、メディアをよりクリエイティブな存在にできる素晴らしい機会が山のようにあるだろう。メタバースの話ではない。テクノロジー、データ、パフォーマンスにおける新たな要素で、メディアのエコシステムを強化し、オーディエンスとの真のつながりを構築する機会のことだ。また、メディア自体も、今年は大きな革新を遂げるだろう。より深く強固なパートナーシップを築き上げることで、素晴らしいブランド体験を提供することが可能になるはずだ。

メディアプランを月単位で見直すことが、最高の価値の提供につながるわけではないことは明らかだ。

エージェンシーがクライアントの真のパートナーとなるためには、リーチに焦点を当て続け、インベントリーの購入先を変更するだけでは不十分だ。クライアントのためにイノベーションを推進し、将来にわたって有効なプランを策定する必要がある。年間のビジョンを共同で作り上げ、複数の重要なテーマで、真のブレークスルーを達成する必要がある。さもなければ、従来とは異なるメディアプランが必要とされているときに、不況に備える安全策だけに頼って、メディアの進化を妨げることになるだろう。


ジャッキー・ライオンズ氏は、ハバス・メディアグループ英国支社のプランニング部門責任者。

 

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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