David Blecken
2019年6月04日

ナイキと資生堂で対照的な、大坂なおみ選手の広告

偉大なテニスプレーヤーは、ある広告では何も言わずに注目を集め、またある広告では台本を淡々と読み上げた。

ナイキCMのキャプチャー画面
ナイキCMのキャプチャー画面

トップアスリートがときに、そっとしてほしいと思うのは無理のないことだ。大坂なおみ選手は現在放送中のナイキのCMで、記者から投げかけられる質問(ばかげた内容のものも多い)を控えるよう求める。

大阪選手は1日(土)、全仏オープンでカテリーナ・シニアコバ選手(チェコ)に完敗。トップシード選手としての重圧も一因だと語った。

しかしメディアの関心は、スポーツのパフォーマンスとは無関係のこと(日本人とハイチ人の間に生まれた自身のアイデンティティー、日本語力、好きな食べ物、その他さまざまな奇問)に集中しがちだ。ナイキのCMは、同選手がこれらの質問に疲弊していることを示唆している。記者からの質問攻めに対し、彼女は「シーッ!」と静かにするよう求めるのだ。

添えられたキャッチフレーズは「世界を変える。自分を変えずに。」だ。

大坂選手はこれまでアディダスと契約してきたが、今年4月からナイキと契約。ナイキは通常、他スポンサーのロゴを着けることは認めていないが、大坂選手については特例として、今後も日清食品や全日空のロゴを着けることが認められる。

大坂選手は現在、マスターカード、日産自動車、資生堂など、合計7社とスポンサー契約を結んでいる。アネッサ(資生堂の日焼け止め)の最近のキャンペーンでは、日ごろから過酷な紫外線を浴びながらトレーニングや試合に臨むにあたり、同製品は「スポーツにぴったり」だと訴求する。

Campaignの視点:

ナイキのCMは、シンプルで的を射ており、効果的で、セリフを用いずとも大坂選手のパーソナリティをリアルに描き出している。あらかじめ用意された原稿を読み上げたような、彼女らしさが全く伝わってこないアネッサのCMとは対照が際立つ。

アスリートは、「スポーツの選手」として以上の大きな意味を持つ(好むと好まざるとにかかわらず)。深く心を揺さぶる広告が印象に残るという点も、変わることがない。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

3 日前

電通の事業売却 広告業界の「恐竜たち」の運命

電通が海外事業の売却を模索し始めた。さらにはWPPの混迷、オムニコムとIPGの合併……。広告業界の「巨人」たちは確実に岐路にある。「この状況は自然淘汰」 −− マーケティングコンサルティング会社トリニティP3の創業者ダレン・ウーリー氏が説く。

2025年8月29日

世界マーケティング短信:米上院議員、動画不正使用でオムニコムらを提訴

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2025年8月28日

アジア市場に再注目する、欧州サッカー界

この数年、アジアへの投資を強める欧州の名門サッカークラブ。狙うのは消費意欲の高い、膨大な数の若年層だ。

2025年8月25日

アジアがグローバルな舞台で勝つには、域内の結束が必要だ

アジアの広告界にはクリエイティブな人材、キャンペーン、そして数々の賞が揃っている。欠けているのは市場を超えて互いを理解し、解釈し、擁護し合うことだとデイビッド・ゲレーロ氏は指摘する。