Morten Grubak
2022年4月01日

メタバースはクリエイティブの「ルネサンス」か?

メタバースは、テレビやデジタルの時代がそうだった様に、クリエイティブに「ルネサンス」をもたらすだろう。ただし、それにはまず、私たちがそれに夢中になる必要がある。

メタバースはクリエイティブの「ルネサンス」か?

メタバースに関する議論では、その盲目的で誇大な触れ込みを、お金やアイデアに換えようとする動きを巡って、ブロックチェーンのエバンジェリストと従来のクリエイターとの間で根源的な緊張が生じている。

だが、私たちは以前にも同じような経験をしているため、これについてあまり心配していない。デジタルが登場したときも、テレビが新聞・雑誌を脅かしたときも、同じような議論が繰り返された。

しかし、(私たちが「ヴァーチュー・フューチャーズ(Virtue Futures)」で構築しているような)現在メタバースと呼ばれている何らかの形態が、今後も存続すると信じるのであれば、それは、これまでのあらゆるテクノロジーと同様、当初の新鮮さからシニカルな適応へと続く一連のプロセスを経なければならないだろう。

斬新な実行か、現実的なアイデアか

1878年にエドワード・ジェームズ・マガーリッジが「動く写真」を発明したとき、人類はその技術的驚異に畏怖の念さえ抱いた。このとてつもないアイデアにより、連続撮影された12フレームの馬が、まるで走っているように見えたのだ。

ソーシャルメディアが登場したときは、誰もがお互いの朝食の画像を見せあうことで満足していた。そしてメタバースでは、ブランドアイテムのNFTや仮想通貨/暗号通貨、メタバース内のバーチャル店舗など、ブランド各社が同じような取り組みを無分別に模倣しているのを目にしている。

現在は、メタバース技術にちょっと言及するだけで、素晴らしいアイデアだと勘違いされるようなごく初期の段階だ。クリエイティブの観点からは、間違いなく不満だ。しかし、すぐに目新しさはなくなり、メタバースも退屈なものになるだろう。よって、それを再びエキサイティングにすることこそが、私たちの仕事なのだ。

退屈とブレイクスルー

新しいメディアは、それに夢中になることではじめて、使いこなせるようになる。この探求の段階こそが、真のクリエイティブのチャンスだ。特に、新たなメディアの、文化的役割を理解できている人にとってはそうだろう。

思い出してほしい。50年代から60年代にかけてのクリエイティブ革命は、まさにテレビが技術的な驚異から単なる日常家電へと移行した時期と重なっている(米国家庭のテレビ普及率は、1950年代、2%から70%へと急拡大した)。

しかし、やがて退屈な時代が到来した。そこで私たちの業界は、テレビCMを再び面白くすることで、それに応えたのだ。つまり、シンプルかつ独特のメッセージを発信することで、放送によって生み出されたモノカルチャーの中でCMを繁栄させたのだ。

メタバースが次のフェーズに入るために、クリエイティブ業界は夢想的な見方は捨てなければならない(それも大急ぎで。消費者もすぐに新鮮味を失うだろうから)。そして、モノカルチャーで成功したテレビの後を追うのではなく、まったく新しい文化的文脈の中で戦うための方法論を模索し、トークンを所有する消費者たちに支持される、力のある存在を生みださなければならないのだ。

目新しさは終わり、その先へ

確実性は創造性を殺す。いずれは、どんなメディアも徹底的に解明され、シニカルな段階に入る。そこでは、最小限の努力で注目を集めるための、実証された方程式によって(例えそれが耐え難いとしても)、創造性が締め出されることになる。クリックベイト(釣りタイトル)地獄を思い出すといい。

この最適化の末路が、リアリティ番組、マルチ商法の勧誘メール、バイラルを狙ったフェイスブックの炎上投稿(ブーマーベイト)をもたらす。だが幸いなことに、いつか新しいメディアが登場して、私たちをこのマンネリから救い出し、初心を取り戻させてくれはずだ。

そして今のところ、その新しいメディアがメタバースだ。

過剰な宣伝文句は忘れよう。これは長期戦になるのだから。

メタバースの真の約束は、単なる目新しさではない。何であれ、新しいメディアはいつも、新しい形の文化を生み出す。そして、メタバースの登場は、その最先端で作品を生み出すチャンスだ。

だが、カルチャーの創造は、主に仲間内で行われる内部作業だ。サブカルチャーと同様、不文律や慣習に慣れていない部外者は、胡散臭い目で見られるのが落ちだ。だから、この世界に飛び込むと決めたなら、深く入り込む覚悟が必要になる。

そして、文化は決して直線的に進むものではない。途中で紆余曲折があることは予期しておくべきだろう。メタバースは共同作業による進化の途上にある。これに取り組むには、学習意欲、オープンマインド、そして自らが直接関与するという強い意志が必要になる。

その見返りは、あなたのクリエイティブを革新的で人気のあるものにするだけではない。メタバース(つまりメディア文化の次のステージ)そのものを形作ることに参加できるのだ。

ブランドとエージェンシーは、それに一緒に取り組むこともできるし、完成するまで待つこともできる。いずれにせよ、それは今まさに起こりつつあるのだ。好むと好まざるとにかかわらず。


モーテン・グルバック氏は、ヴァーチュー・フューチャーズ(Virtue Futures)のグローバル・エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター。

 

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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