David Blecken
2016年6月20日

「変な英語」のキャッチコピー、その功罪は

今も昔も日本の広告には英語のキャッチコピーが溢れ、それらの多くが英語を理解する外国人や日本人を困惑させる。それでも英語のコピーが多用されるのは、なぜだろうか。はたまた、コピーは端から「飾り」で意味などなくてもよいのではないか ‐ そんな論争の背景を探る。

2016年5月のミュゼプラチナムの広告キャンペーン
2016年5月のミュゼプラチナムの広告キャンペーン

毎年、夏が近づくと大々的な広告キャンペーンを打つ美容脱毛サロン・チェーンの「ミュゼプラチナム」。今夏のキャンペーンでは、そのキャッチコピーが思わぬ物議を醸した。人気モデルの池田エライザとともにフィーチュアされたフレーズが、「Enjoy the girl(その女を楽しんで)」だったからだ。

日本の識者たちも少なからずソーシャルメディアでこのコピーを話題に取り上げ、キャンペーンは数週間据え置かれた後、突然「Enjoy, girls(女の子たち、楽しんで)」という「抑制的な」表現に変更された。
それでも、一部で失笑を買った最初のコピーが「Enjoy being a girl(女の子であることを楽しんで)」を意味していたことは大抵の人々に理解されたようだ。実際、このキャンペーンに対するソーシャルメディア上での意見のほとんどは、コピーではなく、モデルについてだった。

コピーの変更は、本当に必要だったのだろうか。そもそも、日本の消費者を対象にしたキャンペーンで、英語は常に正しくなければならないのだろうか。

クリエイティブ側の大方の意見は、英語のコピーは日本ではメッセージを伝える手段ではなく、デザインの一部であるということだ。東京・原宿にあるクリエイティブ・エージェンシー「UltraSuperNew(USN)」社の共同創立者・村上智一氏は、「英語のコピーは見た目のイメージを良くするための一要素。メッセージは二の次なのです」と話す。

「タグボート」社のマーケティング・ディレクターである谷口寛氏も、「最も重要な情報は、日本語で消費者に伝えるべき」だと言う。しかし漢字が多用されると、「クリエイティブの印象が堅くなり、重い感じになってしまう」と村上氏。

だからと言って、英語のコピーは単なるグラフィックではない。そこからは確実に「メッセージ」が発せられる。「ジオメトリー・グローバル」社のヘッド・オブ・クリエイティブを務める三寺雅人氏は、「日本語は言葉の意味が深く、しゃれなどの遊びも幅広くできる。個人的には断然、英語より日本語のキャッチフレーズの方が好きです」と言う。それでも、「大きなテーマを表現する場合には、日本語だと時に直接的に響き過ぎ、反感を買ってしまうことがある。英語のメッセージの方がうまく昇華して、真意が伝わりやすいのです」とも。

ならば、なぜ奇妙な英語のメッセージがしばしば見受けられるのだろうか。「英語のコピーには、大方の日本人がわかるような簡単な単語を用いなければなりません。そうでないと意味をもたなくなる。この点が大きな課題でしょう」と三寺氏。さらに、「日本人はしゃれや言葉の遊びが好きなので、意識的に妙な英語を使ってしまう」とも。

「多国籍企業のクライアントと仕事をすると、こうした問題にしばしば直面します。文法的に正確な英語を優先して使うと、日本人には理解できないのです。ただ、あくまでも日本人に向けたコミュニケーションであるなら、言葉が適切である限り、『日本語英語』でも構わないと思います」

こう消費者からの目線を語る「ブルームバーグ東京」社の今泉有理氏は、「文章がおかしいときだけ英語のコピーに目が留まる」と笑う。「そんなコピーに苦笑しても、そのブランドに対するイメージが悪くなることはまずないですね」

しかし、誰もが奇妙な英語のフレーズを容認しているわけではない。谷口氏は、「英語を母国語とするコピーライターが、あらかじめ使われるコピーをチェックするべき」だと言う。それは決して、コピーをややこしくしたり難解にすることではない。三寺氏はクライアントにプレゼンテーションをする前に必ずこのプロセスをとるが、言い回しは自分で選択すると言う。

国際化が進み、外国人観光客が飛躍的に増えている昨今、誤った英語のコピーの氾濫は「国の威信をおとしめる要素にもなり得る」と村上氏。「こうした誤ちを続けるのは、単純に恥ずかしいことなのですから」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集: 水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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