Chris Russell
2016年8月19日

外国人観光客の「新たなニーズ」に応える

日本を訪れる外国人観光客の関心は、ショッピングから文化体験へと確実に変わりつつある。そんな彼らに、どのようなサービスを提供すればよいのか ― ブランドにとって今後のビジネスのカギとなる課題を考える。

ルイ・ヴィトンのガイドブックは旅行客だけでなく、ブランドにも新たな方向性を示唆している。
ルイ・ヴィトンのガイドブックは旅行客だけでなく、ブランドにも新たな方向性を示唆している。

伝統と現代性が魅惑的に交錯する日本は長年、世界中の人々の旅情をかき立ててきた。その人気が今ほど沸騰したことは、かつてなかっただろう。この数年間、日本の観光産業は爆発的な成長を見せているからだ。

観光庁によれば、2015年の訪日外国人の数は前年比47%増の2,000万人弱で、うち1,700万人が観光客だった。この増加を牽引したのはアジアからの人々で、特に中国は昨年の訪日外国人数の25%を占めた。2016年1月から5月までの暫定値を見ると、伸び率は鈍化したものの訪日者数は28%の増加で、今年も引き続き順調な伸びを示している。

安倍政権は消費増税を先送りしているにもかかわらず、日本の経済成長と消費は依然低調のままだ。こうした中、訪日観光客がもたらす消費効果が経済に与える影響は大きい。中国人ツアー客がすさまじい勢いで買い物することを表す「爆買い」(文字通り、爆発的なショッピングをすること)が2015年の新語・流行語大賞に輝いたことも、そのインパクトの強さを物語っている。

だが、観光客の志向はそれぞれの層によって多様化してきており、買い物の仕方にも変化が起きている。この先、中国人ツアー客が今のような勢いで日本の化粧品や医薬品、炊飯器などを買いまくることはもうないだろう。国境を超えた電子商取引がますます盛んになっていることを思えば、なおさらだ。経済産業省は6月、中国で電子商取引によって購入される日本製品の総額は、2019年までに2兆3,400億円(228億ドル)に達するとの見通しを発表した。円高も価格面での魅力を損ね、消費財に手を伸ばしにくくさせる要因になっている。

こうした変化はすでに数字に表れ始めている。観光庁の調べによると、2015年の中国人観光客の平均消費額が17万1,870円(1,700ドル)であったのに対し、今年の4-6月期は13万185円(1,300ドル)に減少している。

「中国人観光客が日本で経験したいと思っているのは、ショッピングよりも自然や美しい景色、和食なのです」とコメントするのは電通のチーム・クールジャパン。「彼らの興味の対象は、今後ますますモノから体験や活動に変わっていくと予想されます」

中国をはじめとするアジアからの観光客が欧米からの観光客の志向に近づき、ショッピングよりも体験重視に移行しつつある。そんな今、ブランドは彼らの要求に応えられるよう、一層の知恵を絞らなければならない。中国人観光客向けには、中国語を話すスタッフの雇用や免税品購入の促進、中国テンセント社のモバイル決済サービス「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」への対応といった様々な取り組みがすでになされている。こうしたサービスは確かに有効であろうが、マーケターはそれだけで満足してはいけないし、今までのような「爆買い」を期待してはならない。

「地元」をどのように紹介するか

ブランドが目指すべき方向性は、観光客の体験づくりのための「案内役」ではないだろうか。その好例が、ルイ・ヴィトンが発行している「シティガイド」だ。

大阪観光局で国際広報マネージャーを務める青山アリア氏は、「シティガイドはブランドからのパーソナルな招待状のようなもので、その街で体験できることを今までにない視点で紹介しています」と語る。同観光局のような政府系機関も、将来的に支援していけるような取り組みだという。

原宿に拠点を置くクリエイティブエージェンシー、ウルトラスーパーニューの取締役を務めるマーク・ウェセリング氏はこのように語る。「例えばAirbnbなどが成功している秘訣は、地元の情報を提供できることでしょう。観光客は地域の人々の家に泊まるので、地元のレストランやバー、パブなどの情報を得られる。ブランドもこうしてコンシェルジュのように情報を提供し、体験をサポートできるはずです」。

この手のアドバイスや知見は、観光客にとって紛れもなく切実なニーズだ。日本の魅力であり、不便な点でもあるのは、細い路地や裏通りに店やバー、レストランなどが隠れるように営業していること。何とか見つけても、入口は引き戸や暖簾がかけられて店内が見えず、近寄り難さが漂う。ウェセリング氏は、「旅行者が見つけにくいバーやクラブ、イベントなどの情報をビール会社が提供するのも一案ではないか」と言う。自社製ビールが置いてある場所へ必然的に顧客を誘導できる、というわけだ。

ただしブランドは、自社のカテゴリーやポジショニングを慎重に考慮するべきだろう。時には「盛りだくさん」にせず、意識的に控え目にすることも重要だ。方向性が見え透いたものになりすぎると、最近増えつつある独立心旺盛な旅行者にとっての魅力である、自分たちだけが味わえるというある種の「特別感」が損なわれてしまうからだ。

「旅の醍醐味の一つは、発見にあります。ショッピングや手間をかけて調べることも、その中に含まれる」と言うのはフラミンゴ東京オフィスのマネージング・ディレクター、クリス・フランシス氏。「特に若年層の旅行者は、値段よりも稀少性をますます重視するようになっています」

ブランドならば、ユニークな体験をより直接的に観光客に提供できるだろう。例えばマツダの自動車工場やアサヒビールの醸造所、サントリーのウイスキー「山崎」の蒸留所見学などだ。このような体験を通じてブランドが培ってきた伝統や製造技術に触れてもらい、優れた品質性を示すことは、日本に対する評価をより高めるというメリットにもなる。

「こうした体験はポジティブなブランドイメージづくりに非常に有益で、ブランドへの親しみももってもらえます」とチーム・クールジャパンは評価する。

さらに、より日常的なブランド体験もある。ハイネケンは6月から7月にかけて、ウルトラスーパーニューのギャラリーで「Shape Your City」と題するキャンペーンを展開した。これは、東京に住む人々と東京を訪れる旅行者双方にブランド体験をしてもらうという企画。旅行者はこの場で東京の若者文化やアート、音楽に触れ、ハイネケンが用意した東京限定ボトルのビールを味わった。

チーム・クールジャパンは、「イベントの来場者は、このボトルを思い出の品としてとっておくことでしょう」とコメントする。

「地元限定」の魅力

この範例は、観光客の日本に対する良いイメージと日本独自の製品を持ち帰りたいという欲求に応えつつ、いかにブランドが利益を生み出せるかというテーマに結びつく。ブランドと製品の信頼性を強調することも、一つの方策となるだろう。

「日本は今、一大ブームです。日本の品質は素晴らしい、日本はクールだ、本物だ、と絶賛されている。日本のデニムなどがよい例でしょう」とウェセリング氏。

品質への信頼性だけでなく、日本でしか手に入らない製品にも活路がある。

「何らかの形で日本に由来があるということは、今でも多くの旅行者にとって貴重なステータスなのです。例えばコンバースのような外国ブランドの日本製プロダクトや日本限定モデル、あるいは発売当初に日本でしか入手できなかった商品……などなど。これは今に始まったことではありませんが、日本のカルチャーの威信は高まる一方です。おそらくいくつかの国内ブランドは、このことに気づいていないのではないでしょうか」とフランシス氏。

日本という国単位よりもっと細かく、県や市区町村、さらにはファッショナブルなことで知られる東京の原宿や中目黒といった特定地域に絞り込む取り組みもいいだろう。旅行者にとっての付加価値を製品に与えるだけでなく、ブランドと政府系機関が協力し合える可能性にもつながるからだ。

青山氏はこのように述べる。「(ブランドが)大阪限定や大阪に関連した商品ラインを立ち上げてくれれば、私たちはそれらを大阪のアピールに使うことができます。ブランドとしても、的を絞ったアプローチになるのではないでしょうか。中国や韓国からの観光客は大阪観光局のウェブサイトを信頼できる情報源としてチェックしているので、その中で紹介すれば大きな影響力がありますから」

青山氏はこうしたコラボレーションを、地域とブランドそれぞれの知名度を高めるだけではなく、地域に対する認識を両者が共に形成していく取り組み、と見ている。同氏は「ロンドン・アンド・パートナーズ(ロンドン市の観光促進を担う団体)」を例に挙げ、この組織は地域とブランドのコラボレーションがもたらす成果を追い求めるだけでなく、その根底には「明快な精神」もあると言う。

「ただ漫然とロンドンに拠を構えているのではなく、ロンドンの様々な面を旅行者に知ってもらおうと、明確なコンセプトのもとに関係者と協働しています。単に『ロンドンでショッピングを楽しんでください』というメッセージではなく、いかにもロンドンらしい特定のイメージを発信していますね」

旅行者と旅行者にアピールしようとする企業、その双方の多様性を考えれば、幅広いソリューションは望めそうにない。日本を訪れる旅行者の求めるものがますます高度化する今、日本のイメージや体験をより掘り下げる術を見出すことが、ブランドにとって極めて重要なカギとなるだろう。

(文:クリス・ラッセル 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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