Barry Lustig
2019年8月06日

「クールジャパン」のメディア戦略

海外向けコンテンツを増やし、メディアを活用して日本の競争力を上げる −− クールジャパン機構の松本健マネージングディレクターが語る。

「クールジャパン」のメディア戦略

2013年の設立以来、官民ファンド「クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)」は数多の批判を受けてきた。曰く、「日本を十分にプロモートしていない」「文化をきちんと海外に伝えていない」……。その話題はさておき、同機構は昨今メディアとの連携に意欲的だ。この1年余では日本関連のコンテンツのオーディエンスの拡充、発展途上国の社会基盤の向上などに取り組んだ。

クールジャパン機構はどのような組織ですか?

クールジャパン機構は2013年に官民ファンドとして設立されました(2010年に経済産業省が『クール・ジャパン室』を設置したのが始まり)。政府が目指すのは海外市場における日本企業の活動と日本製プロダクトのサービス活動の支援です。第二の目標は、投資に対してある程度の経済的利益を得ることです。

今はアジアでの競争が激化し、日本人の購買力は低下しています。日本企業や日本関連のプロダクトが海外市場でより大きな存在感を発揮できるよう、支援していかねばなりません。

松本さんの機構での役割は何ですか?

私の任務は企業調査をして出資先を選定し、契約内容などをまとめてエグゼキューションをすることです。出資先が決まったら、その企業の実績が上がるように支援します。特に重点的に取り組むのはメディアやコンテンツ関連への投資です。弊機構に来る前は日本のアニメーションや投資銀行のOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスを担っていました。

テイストメイドTastemade)への出資は、日本関連のコンテンツへの投資を今後強化していくことを意味するのですか?

その通りです。テイストメイドはすでに日本の食や旅に関するコンテンツを海外市場、主に米国で展開していました。そして(日本に関するコンテンツで)オーディエンスから好意的なフィードバックを受けてきました。我々が出資者となって協働することに、テイストメイドも喜んでいます。

注:201810月、クールジャパン機構は米国に拠点を置く動画プラットフォーム「テイストメイド」に1250万米ドル(約14億円)の出資を行うと発表した。同プラットフォームは日本版も展開、食や旅のエクスペリエンスに関する情報を発信している。

投資委員会はどのような仕組みになっていますか?

我々の投資委員会はちょっとした独立機関の趣があります。メンバーのうち2名は弊機構のスタッフで、CEOの北川直樹(元ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役)とCOOの加藤有治(元ペルミラ・アドバイザーズ日本法人社長)が務めています。残りの5名は、様々な業界(メディアや通信、飲料、化粧品など)で活躍されている外部の方々です。

出資先企業に対し、財政面以外でサポートを行うことはありますか?

はい。ある種、CFOのような役割で事業成長を後押しします。例えばテイストメイドに対しては、コンテンツのスポンサーになる可能性がある日本企業をたくさん紹介しました。また、プロモーション費用のある日本の政府機関や、電通・博報堂といった国内メディア企業も紹介しました。

クールジャパン機構はミャンマーの日本関連コンテンツ発信事業にも投資をしました。ミャンマーは投資先として常に物議をかもす国です。その真意は何なのでしょう?

ミャンマーは経済成長に関し、大きな可能性を秘めている国だと考えています。その歴史は悲劇的で、かつては軍部によって国が統治されました。それゆえ、メディアやエンターテインメント業界は思うように発展しませんでした。

しかし、今では地上デジタル放送が始まっています。それでもまだ自力でコンテンツを作る能力がないため、日本など海外からのコンテンツが必要なのです。ミャンマーの大手メディア企業が我々や日本企業に打診してきたのをきっかけに、我々はミャンマーで「ドリームビジョンカンパニー」という番組制作会社の立ち上げを支援しました。NHKとともに、独自の制作スタジオの設立をサポートしたのです。

 

松本健氏


これまでのクールジャパン機構の業績はどうですか?

我々はこれまで38の案件に投資を行いました。年次報告書から引用すると、2018年度の収益は8億円、純損失は81億円でした。損失はごく自然なもので、出資先企業が事業を拡大する際にはまず損失が出ます。利益が出始めるのは事業が軌道に乗ってからになります。

これまでの仕事で最もやり甲斐を感じたことは何ですか?

我々は投資ファンドなので、もちろん利益を出さなければなりません。私が最もやり甲斐を感じるのは、出資先企業の事業が拡大して成功した時です。テイストメイドでは、日本関連の食や旅のコンテンツをより多く見るようになりました。これらのコンテンツに対して海外の視聴者から好意的なフィードバックがあれば、素晴らしいことです。

(文:バリー・ラスティグ 翻訳・編集:水野龍哉)

バリー・ラスティグは東京を拠点とするビジネス戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」のマネージングパートナーを務める。

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

3 時間前

クリエイティブマインド : メリッサ・ボイ(MRMジャパン)

気鋭のクリエイターの実像に迫るシリーズ、「クリエイティブマインド」。今回ご紹介するのはMRMジャパンのシニアアートディレクター、メリッサ・ボイ氏だ。

3 時間前

世界マーケティング短信: TikTok米事業、売却か撤退か?

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

11 時間前

ブランドがパロディー動画に乗り出す理由

エンターテインメント要素のあるストーリーテリングは、消費者からの注目を集めると同時に、ブランドに創造的な自由を与える。

11 時間前

生成AIは、eメールによるカスタマーサポートをどのように変えるか

従来のチケット管理システムでは、現代の顧客からの期待に応えられない。企業はAIを活用してeメール戦略を洗練させ、シームレスな顧客体験を提供する必要があると、イエロー・ドット・エーアイ(Yellow.ai)のラシッド・カーン氏は主張する。